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5話 彼女に嘘を彼には真実を。

ここは学校から徒歩5分で着く本屋だ。だが、通学路から外れているせいかあまり知られていない。たぶん学校の生徒もほとんど知らないんじゃないだろうか、しかし、小さな店ではあるが品揃えは豊富で、店長さんがジジイであるため健全な男子高校生がホニャララな本をレジにおいても売ってくれるのでなかなかの穴場でもある。・・・・・・ちなみに情報提供は蒼夜さんだ!


「よく知ってるな、こんな場所にあるのに。」


「偶々見つけたんです。それ以来ここで本を買って家で読むのが日課なんです。・・・・・・・・最近はできませんでしたけど。」


 山下さんが少し俯きながら応えた。たしかにここらへんは人通りも少ないし不気味だからな。


「じゃあ、久々に読めるんだな。俺も適当に見てるからゆっくり探していいぞ。」


「あ、ありがとう!なるべく早く見つけるから!」


そう言うと勢いよく本屋の中に入って行った。


相当楽しみだったんだろうな、目が輝いてる。

俺も何か読める本を探そうと思い、辺りを見渡す、正直、本なんてマンガくらいしか読まないのでどんな小説を探そうか迷った。とりあえず本棚を左から順に見て、いくつかの本を取り出してよんでみる。


「……。」


パタン。


……オッケー、俺が踏み込める領域じゃない。残念ながら白と黒だけしかない世界に俺はトキメキを感じない!


何か別の方法で時間を潰そうと思い、とりあえず山下さんを探した。


山下さんはミステリーの本のところでページをめくっていた。その横には10冊ほど本を積み重ねている。


おいおい、いったい何冊買う気だよ。


暫くすると、今度は新刊のとこで立ち止まると何やら騒ぎ始めた。手で頭を押さえたり跳んだり跳ねたりしてる、まるでマイケルジャクソンのスリラーを踊っているようだ。……本が好きになりすぎるとあんな事になるのか。しかし、あんなに暴れたりしたら……あ、やっぱり怒られた。


正直、自業自得だが、少し可哀想だと思い、店長に怒られている山下さんを助けに行こうとしたがふと、考える。山下さんを助けるという事は彼女のさっきの行動を見ていたことになる。数秒考えた後、俺は何も見なかった事にして立ち去ることにした。


まだ時間がかかりそうだと理解したので、先に用件を済ませる為に外に出た。




「オジサン。さっきからずっと見てるけど俺に何か用?」


外には恰幅のいいスーツを着たオジサンが立っていた。見た感じ仕事帰りのサラリーマン風だが、瞳には尋常じゃない程の怒りが宿っている。山下さんは気づいてなかったみたいだが、俺達が本屋に入った時からずっと睨んでいた男だ。


「き、君は杏奈ちゃんの何なんだ?!」


「あんたに関係あるのかよ、藤井義雄さん。」


「ッ!!何で俺の名前を!」


どうやら蒼夜からもらった資料の男で間違いないようだ。


「山下さんが誰かにつけられているって相談があったんだよ。あんたが犯人なのも調べがついてる。ストーカーなんてやめろよ。」


「勝手な言いがかりはやめてくれ!し、証拠でもあるのか!」


自分で“杏奈ちゃん”なんて言ってる時点でアウトだと思うんだが。

俺はポッケから数枚の写真を取り出して男に見せる。


「こ、これは!」


「よく撮れてるだろ?あんたが山下さんに手紙やプレゼントをポストにいれている写真だ。」


これは圓城から渡された証拠だ。他にも手紙についた指紋や筆跡でも、確認はとれている。


「あんたをこのまま警察につきだすことも出来るんだ。もう一度言うけど、ストーカーなんてヤメロ!山下さんを悲しませるな!」


「ち、違う。俺はただ、杏奈ちゃんが好きなんだ!彼女と話したり一緒に遊んだりしたいだけなんだ。」


「……年齢考えろよ。」


「愛に年の差なんて関係ない!」


それはお互いが好きな場合だろうと俺は小さくため息を吐く。


「まぁ、どっちにしろこのままにしとくわけにはいかないんでな?無理矢理にでも止めてもらうぞ!」


俺はオジサンに向かってファイティングポーズをとる。


「な、何だ?暴力を振るうつもりか?言っておくが俺は柔道二段だぞ!」


オジサンも両手を前に構えて俺を睨み付ける!


「関係ない!俺はただ、あんたにストーカーをやめさせるようお願いするだけだから!」


俺は地面を蹴ってオジサンに向かって突っ込む。オジサンの強さなんて俺には関係ない!なんてったって俺は





……子供に負ける程弱いからな。








《山下杏奈》


私は久しぶりに本屋に来ている。私は大の本好きだ。運動も好きだけどあの、本を読んでいると頭の中が冴え渡るような、自分の世界に入り込むような独特な感覚が好きだ!だけど、ストーカーに合うようになってから一度も行っていない。理由は毎日ポストに入っている手紙とプレゼント。プレゼントの中身は恋愛小説。そして、手紙には私が買っている本の内容は私に悪影響があるとか、女の子なんだからもっと恋愛物を読んだ方がいいとか、書かれていた。


特に気味が悪いのが私が毎日買っている本のタイトルを全て知っているという事だった。


それからというもの、周りの気配が怖くて堪らない。外を歩けば見られているんじゃないかと不安で不安でしょうがなかった。


だけど、今日はそんな不安を感じる事は一度もなかった。天野くんがいるからだ。彼は探偵部の人で私のボディーガードをしてくれてます。同じクラスだけど話をしたこともなかったけど、どんな人かは噂でよく耳にしてました。


彼は圓城さんの腰巾着、弱いくせにしぶとい、逃げ足が速い、ずる賢い、男子の八割に嫌われいるとか何だかあまりいい印象を持てませんでした。


でも、会って見て好感の持てる人だと解りました。不器用だけど優しくて、責任感が強くて面白い!何より私の不安を吹き飛ばしてくれました!、


私が本屋にいても怖がらずにいられるのも彼のお陰です。……むしろ少しドキドキします。



早速、本を探し始めます。私はミステリー小説が好きで、というより読むのはミステリー小説が殆どです。今時の女の子としてどうなのかとは思うのですが、恋愛小説なんかは現実味がないというか、共感しにくいというのもありますね。


久しぶりなので読みたい本がたくさんありすぎて選ぶのに苦労しました。とりあえず10冊ほど買ってまた明日にでも買いに行こうと思います。……何しろこれからは天野くんがついてきてくれますから。


天野くんが圓城さんに好意を持っているのは知っています。……本人は否定していましたが。でも、どうしても今は一緒にいてほしいと強く願ってしまいます。


最後に新刊の棚を見ると恋愛小説の本が置いてあった。内容は不幸な境遇にいる少女の手を取り少年は愛の力で絶望的な状況をひっくり返してしまうというなんとも胸焼けしそうな話だ。しかし、少し私の今の境遇に似ていないかな?そう思うといつの間にかに手が本に伸びていた。


ちょっと何考えてるの!今まで一度もこんな小説に手をだそうなんて思った事ないのに!


私は思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。


ないない!私は別にこの本が読みたい訳じゃない!ただ、少ーし気になるだけ!頭ではわかってるのに体が本に近づこうとする、私はバックステップをとって離れるがまた本に近づこうとしてしまう。本好きの好奇心とミステリー小説ばかりを読んでいたプライドが攻め気あって、自分の体を操作不能になってしまった。端から見たらかなら奇妙な動きだったかもしれません。そのせいか本屋の店長さんに怒られてしまった。


かなりの時間、説教されて解放された私はこっそり10冊のミステリー小説の下にもう1冊を本を買うことにした。


……言い訳をするとあれだけ怒られたのに買わないのは何故か損をした気分になったからだ。


買うものが決まったので天野くんを呼ぼうとしたのですが、躊躇いました。


「……何しているんですか?」


彼は、一冊の表紙に釘付けでした。


「おお!山下さんいい本は見つかったかい?」



顔を上げた彼の鼻にはティッシュが詰められています。


「はい、決まりました。……何しているんですか?」


「最近のは凄いな!表紙だけでも中身の凄さがうかがえる。」


天野くんはうんうんと首を縦に振り満足顔でこちらに笑顔を向けてくる。


「三度目になりますが……何しているんですか?」


「……エロ本鑑賞?」


肌色の多い表紙を私に見せながら言ってくる。……何故か疑問系で!


「未成年なのにそんなの見て不潔です!鼻血まで出して何考えてるんですか!」


一応、女の子の買い物を待っている間ですよ。まったくもってふざけてます!


「いやいや、男にとってこれが普通だって。なぁ、あんたもそう思うだろ?」


天野くんは反省の色すら見せず隣の男性にまで賛同を求め始めました。


「え!あ、あぁ、まぁ、」


隣の男性はかなり困惑したようであたふたしています。


「天野くん!いきなりそんな事聞いては失礼ですよ。」


「大丈夫、この人は山下さんを待っている間に仲良くなったんだ!」


「そ、そうなんですか?」


天野くんはホントに誰とでも仲良くなりますね。


「何を話してたんですか?」


「あぁ、この人、よくここの本屋に来ているみたいだからさ女の子についてちょっと熱く語り合ってたんだよ!」


「お、おい!」


……隣の男性が止めようとしていますが彼の手にも肌色の雑誌があり理解してしまった。なるほど。不潔ですね。


「イヤーそしたら鼻血が出るしさぁ。」


……腐ってます。


「まぁ、お陰でお互い納得いく結果が出たんだよ。」

何に納得したんですか!


「それは良かったですね!私は本を買ってきます!」


「おう。」


まったく最低です!私はレジに向かう途中にそっと1冊の本を新刊の棚に戻すことにした。







「……ホントによかったのか?」


隣の男性が俺に話し掛けてくる。


「何が?」


「俺がストーカーだと告げなくて。」


「……もうしないんだろ。藤井さん。」


「あぁ、だがそれでは彼女の不安は消えないだろ。」


藤井さんはきつく唇を噛みながら言う。


「大丈夫だよ、山下さんはそんな弱くない。」


むしろ知ってしまったほうが怖いかもしれない。


「藤井さんこそ、よく決心したな?もしかして、俺の拳が堪えたか?」


「いや、一発もくらってないだろ、俺が一方的に殴っていただけだっただろ。」


……クソッ、悔しい!


「だが、いくら殴られても立ち向かってくるお前には、……勝てそうになかったよ。」


何故かそう言った藤井さんの顔はすっきりしているみたいに見えた。


「もう二度と彼女には近づかない。約束しよう。」


「いや、……そこまでしなくても。」


「これはけじめだ。もう二度と彼女に迷惑をかけたくない。」


「……そっか、……じゃあな。」


「あぁ、」


藤井義雄はそのまま外に出て行った。


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