だけじゃなかった⁉︎
《トイレ》
「軽い!軽すぎるよ!もっと否定しろよ!」
お前が否定やとぼけてくると思って色々、考えてたのに!
「悪い。……のか?俺は実際、もうバレてるのかと思ってたぞ。」
「知らねえよ!……まさか圓城たちは気づいて⁉︎」
「あぁ、入部当日に資料と一緒に突きつけられた。」
「あ、あ、あ、あ⁉︎」
速すぎるだろ⁉︎
「姫星は多分知らないが月宮はまぁ、あの能力だ。…ばれてると思う。」
「初耳!初耳!」
「まぁ、実際はあまり知られたくはなかったがな。……俺もあいつと同類だ。」
「…蒼夜?」
「俺も5歳の頃に誘拐されあの地下室で生きてきた。もう20年も前の話だ。」
…じゃあ、今の年齢は
「俺はかなり特殊だったらしくてな、他の奴より再生速度が速かったり身体能力が高かったりな、髪の毛も白くならず光にも強かったがな。…ある意味いいとこどりの最強だった。」
「おかげで脱走できたんだろ?」
「まあな。外に出た時は笑えたぞ。いや、泣いたんだったか?暗闇しかなかった視界に色が、動く物があるんだ。……一日中、何も考えずただ見えるものを見続けたことを覚えているよ。」
「……。」
「それからが大変だった。何しろ俺は食べ物が口に出来なくなってたからな。水すら口に含んでも飲み込めなかった。」
「……。」
「半ば餓死状態でいるところをある人に拾われて介抱してもらいながら自分の特性異常を知った。そこで社会の常識を学びながらどう生きていくかを考えるために俺はこの学校に入学した。…まだあれから3年も経ってない。」
「……。」
「…しばらくして、思い出したかのように俺はあの地下施設に向かった。…理由は過去の清算。復讐のための情報集め。あと、…仲間を供養するため。」
「……。」
「まぁ、当たり前だが中に人はいなかった。情報もあの紙媒体の日記のみ、俺たちの生きてきた地下にはそれこそ何もなかった。」
「………ん?」
何もない?それはないだろう?
「…いや、蒼夜、何もないことはないだろう。だって他にも誘拐された子供達が……連れていかれた?」
「間違いなくな。…知らなかったとは言え、後悔した。俺は自分のことしか考えてなかったからな。」
「お前は悪くない。あってたまるか。」
「…俺はそれから仲間を探すためにあの男について色々調べた。するとあの男は俺たちを色んなところに売り捌いていることが分かった。」
「……。」
「場所は様々、戦場の兵隊として、実験台として、……愛玩動物として、……そして、そこから逃げたやつとかな。」
「昨日のやつか。」
それであいつはあんな事を。
「ちなみに山下さんのストーカーの二番目も吸血鬼だったんだぜ?」
「マジか!」
「まぁ、ストーカーというより食料として狙われていたんだが、」
食べられちゃうとこだったのか!本当に食べられちゃうとこだったのか⁉︎
「いま、そいつも人間として生きられるように更生させられている。点滴を受けながら水を飲めるように少しずつな。他にも自分が作った料理を他の人に食べてもらう訓練とか、光にも耐性がつくように微弱な光を浴びたりな。」
「ふーん。」
「俺は他の仲間を必ず見つけ出して日常に戻してやりたい。もしくは、できる限りの幸せを掴んで欲しいと思っている。」
「……そっか。」
「…俺たちは人殺しだ。それしか生きられなかったとはいえ、もう日常には戻れないやつだっているだろう。…だがそれでも考える時間だけでも作ってやりたいんだ。」
「…わかった。」
「……川。俺は……。」
蒼夜が何かを言い淀むが、…言おうとしてることはわかった。
蒼夜は人を殺している。何人も何人も、それがいつか自分に向けられかもしれない。襲われたら抵抗なんて出来ない。一度吸血鬼に会ってしまったなら特に。…そんな奴の側に居られるものなのか?おまけに年齢すら違う。蒼夜って実際どんな奴なのか俺は何も知らなかった。…月宮が言ってた通りだ。
「蒼夜、俺が聞きたいのは一つだけだ。」
だから、
「…何だ。」
「お前がいくつだろうと、人殺しだろうと、この先何をするにしろ俺にはどうでもいい。」
だからこそ、
「……。」
「蒼夜、お前は……俺と一緒にちゃんと卒業してくれるのか?」
俺はまだお前と離れたくないよ。
「……いいのか?」
「お前が仲間を大切にしてるのはわかった。だけどさ、俺たちももう仲間だろ?…なら分かれよ。」
こっから先に言葉はいらないはずだ。
「これからもよろしくな!」
俺は笑顔で蒼夜に手を出す。
「……川。」
蒼夜は徐に手を伸ばそうとして……やめた。
「……手を洗え。」
そう言って蒼夜は一人でトイレから出て行った。
「……そっ!そこは!空気読めよ⁉︎」
《黒野蒼夜》
鏡なんて見れなくてもいいと思っていた。あの地下施設から脱出した後もずっとおれの顔はきっと泣きそうな苦しんだ顔をしてると思っているから。
教室に入ってすぐに月宮から言われた。
「……トイレに行っただけで何でそんな顔になるの?」
「……何がだ。」
…よく見るとクラス中が俺を見ていた。
「…気づいてないのね。あなた、今世界一幸せそうな顔をしているわよ。」
「……。」
「何があったか知らないけどその顔でクラスにいるのはやめなさい。女子があなたに惚れるから。」
「……了解。」
今ほど自分の顔が見たいと思ったことはない。