吸血鬼ダブル
《視聴覚室》
「…今の音は、」
「どうやら、川のところにいたみたいだな。…いや、やっぱりというか。」
2人の、姫星と圓城は遥か遠くで聞こえた衝撃音に耳をよせる。
「…天野くんは大丈夫なの?」
「心配ない、今、この学校の最強を向かわせた。」
「その人大丈夫なの。…相手は化け物なんでしょ?」
「ふん。」
圓城は鼻で笑う。
「…恐らくそれは、相手が、思うはずさ。……姫星、それより自分達の事を気にしよう。」
「…そうだね。」
そう言ってこの部屋の3人目の人物に顔を向ける。
「…この、馬鹿げたノートを書いた張本人をどうにかしないといけないんだから。」
「……。」
白髪の老人は声に出さずわらっている。
《音楽室》
「……。」
…現状確認。
今、目の前に白髪の少年、もとい吸血鬼がいて俺の殴った傷も完治している。そのうしろの壁に山田さんが倒れている。…恐らく死んではいない。そして、俺の後ろには扉がある。
「……。」
逃げる事は多分できる。だけど、山田さんに何が起こるかわからないと。あと、吸血鬼の話じゃもうすぐ人が来ると。
「…やるしかないか。」
「は?勝てると思ってるのか⁉︎」
…無理だな。真っ向から行っても何も出来ずに殺される。…それなら、
「時間稼ぎとか考えてるなら止めとけ。足音の位置からしてかなり遠い。…10分は掛かるだろう。」
「……。」
「おとなしくしてるならさっきのも全て水に流して楽に殺してやる。…ただし、まだ無駄な抵抗をするなら両手両足をもぎ、目と耳と鼻と喉を抉って生かすぞ?」
「……。」
「今言った部位は流石に僕の血でも治りはしない。…さぁ、どうする。」
「……。」
生か死か。…ここまで極まると笑えないな。
「ま、決まってるけど。」
俺は吸血鬼に向かって構えを取る。
「…どうやら生き地獄を味わいたいらしいな。」
「味わいたくなんかねぇよ。…でも、今これしか思い浮かばなくてな。」
「その選択はハズレだ。まずは左手。」
来る!
「今だ!山田さん!」
「何⁉︎」
吸血鬼が山田さんの方を振り向くが、
「……。」
倒れたままだった。
「貴様!」
その一瞬で俺は吸血鬼の前まで近づいてーー
ーーリコーダを思いっきり吹いた!
「ピー!!!!!!!」
「グッガッ!!」
吸血鬼が苦しそうに両耳を塞いだ。
効いた⁉︎たまたま近くにあったリコーダー。耳が良いならと思って駄目元でやって良かった!俺はそこから金的に蹴りをいれた。
「ガッ!!」
吸血鬼は膝から崩れ落ちた。
「…吸血鬼も性別の壁は越えられないか。」
俺はそのまま山田さんの所に駆け付け叩き起こす。
「起きろ!山田さん!」
傷は塞がってる。体に別状は無いはずだ。
「うっ、ん、…あと、ご」
「今、その台詞を聞いてる暇はねぇ!!寝たら死ぬぞ⁉︎」
俺はこれでもかと言うくらい山田さんを揺さぶる。
「…あなたの台詞こそ、使う時が違うでしょ。」
「合ってますぅ!超合ってますぅ!!今ほどこの台詞に合う場面なんてねぇよ⁉︎だから、目を覚ませ!今すぐ!」
「う!…ここは?はっ⁉︎私!天野くん今どんな状況⁉︎」
「簡単に説明する!絶対絶命だ!」
「…わかりやすい。」
「ちなみに山田さんはこの床砕いて下に降りれたりしないか?」
「…無理。人をなんだと思ってるの?」
「アニメから抜け出した美少女。」
「…ありがと。」
…何故か少し照れる山田さん。
「そこで漫才してるとこ悪いけど、二人とも…やっぱり殺すよ。我慢できそうにない。」
フラフラとゆっくりと立ち上がりこちらを見る吸血鬼、目が怒りで血走っている。
くっ⁉︎俺たちが脱出の作戦を練っている間にもう復活したか!
「…天野くん、私が囮になる。その間に逃げて。」
「馬鹿か?俺一人ならいつでも逃げれるんだよ。山田さんが逃げれなきゃ意味がない。」
「…じゃあ、私を置いて、」
「それが出来ないから今ここにいんだよ!…この山田が⁉︎」
「ッ!…何?ただ名前を呼ばれただけなのに…果てしないダメージが。」
…偶然だが、その名にはもう一つの意味がある。
「…そろそろ死のうか?」
吸血鬼がこちらに向かってきた。
「ッ!山田さん!さっきの分身で扉まで逃げろ!」
「…でも!」
「大丈夫!俺を信じろ!」
山田さんはこくりと頷き、猛スピードで吸血鬼の左右を横切る。俺はさっきのリコーダーをもう一度吹く!
ピー!!!!!!
だが、吸血鬼はまったく反応を示さない。
「…来ると分かっていれば耐えられる。…死ね。」
吸血鬼が2人の山田さんをやろうとする。俺はニヤリと笑う。
「来ると分かってなかったら?」
「何?グハッ!!」
吸血鬼の頭が蹴り飛ばされる。
…後ろから。
「…来るの遅えよ。」
「これでも全力だ。」
「息切れてないし。」
「体力的に問題ないからな。」
…むかつく。まぁでも、これで山田さんを扉側に行かせられた。
「あ、あなたは。」
「もう大丈夫だ。安心して俺の後ろにいろ。」
「は、はい。」
山田さんが少し蕩けたような声を出す。…無理もない。
「頼む。…蒼夜。いや、ーー」
正直、疲れた。…でもこいつになら任せられる。俺は最後の力を振り絞って叫ぶ。
「学校最強!」
「任せろ。」
黒髪をかき上げながら吸血鬼の前に立つ。
カッケー
…後ろにいる山田さんが蒼夜に惚れてしまうかもしれない。…いや、手遅れだったか。