1. 女勇者死す
「アリシア、作戦を確認するぞ。まず俺が結界を張って、その隙に聖女が――」
「よくわからんが、斬ればいいんだな!」
軍師ガルドが言い終わる前に、私はもう走り出していた。
魔王城の最上階。
玉座の間の扉を蹴り破ると、闇色の外套をまとった魔王がゆっくりと立ち上がる。
「よくぞ来た、勇者よ。だが貴様の旅もここで終わ――」
「ふんっ!」
一閃。
魔王は真っ二つになった。
台詞の途中だった。
追いついてきた仲間たちが、扉の前で固まっている。
ガルドは三日徹夜して書いた作戦書を握りしめたまま、静かに膝から崩れ落ちた。
私は剣を鞘に収めて振り返った。
「よし、終わった。帰ろう」
「え、終わり?」
聖女の声が、広い玉座の間にむなしく響いた。
こうして、千年続いた魔王の支配は、たった三秒で幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
そして一週間後。
王都では盛大な凱旋パレードが開かれていた。
花びらが舞い、ラッパが鳴り響き、民衆の歓声が空を揺らす。
「勇者さまー!」
「アリシアさまー!」
「えへへ、照れるなあ」
手を振りながら進んだ先、中央広場に布をかけられた巨大な何かがそびえていた。
高さは城壁ほどもある。
「勇者アリシア様の功績を称え、王国は黄金の像を建立いたしました!」
布が取り払われると、剣を掲げた私の巨大な像が現れた。
ちょっと胸が盛られている。
「すごーい! もっと近くで見たい!」
私は像によじ登った。
勇者なので登れた。
「お、おやめくださいアリシア様! まだ土台が乾いておりません!」
「てっぺんで勝利のポーズ! えいっ!」
みしり、と嫌な音がした。
黄金の私がゆっくりと傾いていく。
ちょうど私が飛び降りた先に向かって。
「あ」
魔王の一撃すら弾き返した最強の勇者、アリシア・ブレイヴハート。
享年十八歳。
死因、自分の銅像(正確には金メッキ)の下敷き。
薄れゆく意識の中で、最後に聞こえたのはガルドの声だった。
「……これ、歴史書に何て書けばいいんだ」




