表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お茶時々コーヒー  作者: 須景夜々


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/4

モチーフ

土曜日の14時。俺は電車に揺られていた。この電車に乗るのは実に3ヶ月ぶりでまさかもう一度乗るなんて思ってもみなかった。自分でもバカなんじゃないかと思う。行かないほうが精神衛生上いいはずだと頭ではわかっているのに。

なんで俺はあいつのことばに揺れたんだ。あいつは関係ないのに。何もわかってないのに。

いや、実はなんとなくわかっている。

長いこと揺られて目的地の最寄駅に着いた。改札を抜けて、目の前に佇む大型病院を見て少し怖気付いた。入り口で二度深呼吸をして自動ドアを抜けた。



「『(あおい) 紗奈(さな)』様ですね。現在は134号室に入院されています。」

「ありがとうございます」


部屋番号を聞き階段を使い3階へ。病院特有の薄暗い階段は俺の足を何度も止めた。、、、足取りが重い。今更会ってどうするんだ。あっちはもう会いたくないかもしれないのに。

昨日篝に話したことは真実と嘘が混ざっている。

紗奈が昏睡していることは本当だ。だが常に寝ているわけではない。昏睡してはいるものの定期的に起きてはいるのが現状だった。だが、だんだんと昏睡状態が長くなっていていつか目を覚まさなくなるんじゃないかと怖くなった。そして、怖くなって、会うのをやめた。


ゆっくり病室の扉を開ける。黙って部屋に入ると奥のベットから、部屋に一歩踏み入れた俺を誰かが覗き込んだ。

他でもない、目を覚ました紗奈だった。


「藤沢、、、、、?」

「、、、よお、久しぶり」


3ヶ月ぶりの挨拶は目も合わすこともできなかった。


俺はベットの横の椅子に腰掛けて、買ってきた果物を横にある棚に置いた。


「これ、イチゴとブドウ。食事制限がないならだけど、、、」


俺は俯きながらそう伝えた。紗奈は「ありがとう」と声色から伝わる明るさで返事をしてくれた。紗奈は続ける。


「久しぶりだね〜2、3ヶ月ぶり?急に来なくなったから心配したんだよ〜」

「そうか、、、ごめんちょっと色々あって」


俺は誤魔化した。明るく話す紗奈に対して俯く自分が情けなくて、後ろめたさを感じつつ俺は紗奈の目を見た。まっすぐで綺麗な目。前と同じだ。体は痩せて顔色も悪いが目だけは変わってなかった。


「、、、紗奈が最後に描いた絵が万葉集がモチーフだと友人が言ってて、あってるのか知りたくて」

「あー488のこと?そうだよ万葉集の488番歌。よくわかったね。絶対わかんないと思った。」

「頭のいい友人がいるんだよ。正確には友人の友人だけどな。」


紗奈は照れ臭そうにはにかんだ。その笑顔を見て俺はなぜ今まで来なかったのかを正直に話した。紗奈を見るのが怖かったこと。現実から逃げていたこと。絵の意味を知ってようやく動き出せたこと。このことを聞いた紗奈はキョトンとして口を開いた。


「え〜そんなこと気にしてたんだ。図体デカいくせに心は繊細なんだね。」

「うっせ」

「もともと誰も来てなかったからね。来てくれるだけで嬉しいよ。大体考えすぎ。そんなことより学校であったなんか面白いことでも教えてよ」


持ち前の明るさとトークスピードで俺の杞憂(きゆう)はあっさり流されてしまった。この明るさが変わってなくてよかったと心から安堵した。


「今日はちょっと相談があってきたんだ」

「なあに相談って。恋バナ?」


早速俺の買ってきたブドウを食べ始めている。まだ洗ってないのにいいのかと思いつつ話を続ける。


「紗奈に絵をプレゼントしようと思ってるんだけどなんか描いて欲しい絵とかある?」

「絵か〜私が寝てたらどうするつもりだったの?」

「正直寝てると思ってたから今日は果物と置き手紙だけ置いて帰るつもりだった。」

「そっか〜。絵ね〜そうだな〜」


悩んでいる紗奈を横目に俺は病室を見渡す。この部屋は2階だから窓から紅葉は見えない。あの部屋はここじゃなかったのか。

部屋には何にもなくてあるのは無人のベットフレームが3つと何も書かれていないカレンダー。そして棚には空の花瓶が置かれている。


「なあ、話は変わるんだがここの花瓶には花を入れないのか?要望があるなら次来る時に買ってくるけど」


紗奈は少し寂しそうに話し始める。


「あぁ〜、花瓶に挿す花ってなんか嫌なんだよね。死んでるじゃん。死んでないんだろうけど、もっとこう、根っこがあるようながっしりとした花がいいからそこには挿さないでって頼んでるの。」

「そうか、、、」


しばし沈黙が流れる。紗奈は悩みに悩んでるし俺はすることもないので棚の引き出しに入っているナイフを取り出してイチゴのヘタを取る作業に徹した。

10分ほど経ち二人でイチゴを貪っていると沙奈が決意を固めて俺の目を見た。


「決めた!藤沢が思う花をキャンバス一面に描いて!」

「もっと細かく指定してくれ。」

「藤沢って美大志望でしょ?将来的にこういう案件きたらおんなじこと言うの?」

「いや、それは、そうだけど、」


言いよどむ俺に紗奈は畳み掛ける。


「私が考える絵ってつまんないの。なんかのオマージュとか自分らしさがないの。藤沢ってモチーフを見ながら色々連想して壮大な絵を描き上げるじゃん。そう言う発想を私の依頼にも活かしてほしい。」


俺は迷った。俺は自分の絵に自信がないからだ。俺からしたら自分のイメージをただひたすら描くうるさい絵より何かをモチーフにした絵の方がよほど魅力的に見える。

依頼とか大ごとに言われると不安が増してしまう。だが今この瞬間にもキラキラした目で見られている。ここで無理なんて言えるほど鋼の心臓は内蔵されていない。

 結局了承してしまった。

その後時間いっぱいまで雑談して病室を後にした。足取り軽く階段を駆け下り病院を後にする。駅のホームでスマホを確認すると一件メッセージが届いていた。


『どうだった?親友さんは起きてた?』


篝からだった。あいつは暇なのか。


『起きてたよ。話すこともできた。』

『よかった』


連絡を返して電車へ乗り込んだ。壁にもたれかかりながら篝も去年あの病院に入院していたことがあったのを思い出した。

 篝はとある日を境に変わっている。宇宙人に改造されたんじゃないかとかそんな劇的な変化ではない。しかし確実に去年あの病院から退院した時に変わった。だが、そのことを聞いてもあいつは気のせいの一点張り。茶道部もそうだ。なぜあいつは急に茶道部に入ったのだろうか。

 、、、うとうとしてきた。

現在地を確認してまだまだ時間があることがわかると俺は壁にもたれかかり眠りについた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ