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揺らぐ光を宿す少女は、闇の継承者に選ばれる ― ノクタ・ルミナ:優しい光の降る場所 ―  作者: 雪ノ燈子


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02│測定不能 -01-

春の光が差し込む大講義室には、新入生たちのざわめきが満ちていた。


入学から二日目の朝。今日は全員がそろって《属性学入門》を受ける。


フィーナはミアとラナと並んで席についた。


「静粛に。――それでは《属性学入門》を始めましょう。」


壇上に立つレイナード・グレイス教授が杖をひと振りすると、六つの光球が宙に浮かび、赤や青の光が淡く揺れた。


「魔法は六大元素に分かれます。炎、水、風、土、光、闇。

だが――それとは別に、(ことわり)と呼ばれる力がある。」


教室の空気が、わずかに静まる。

光球のあいだから、淡い金の光がにじんだ。


「生命を巡らせる力。

運命を読み、可能性を選ぶ力。

そして――暴走を正し、均衡を保つ制御の力。」


最前列に座っているルークランがほんのわずかに視線を上げた。


「制御は、四大公爵家アストレイドが代々継承している力です。」


レイナードは最前列へと視線を向けた。


「――この学年に、優秀な継承者がいるようですな。」


ルークランは頷くようにわずかに顔をこくりと動かした。


レイナードも同じように頷いた。そして少しの間を置き、声を落とした。


「生命の力は、すでに失われたと伝えられています。

だが古い記録には、こうある。

――世界が揺らぐとき、その息吹は再び芽吹く、と。」


(……生命)


フィーナの左手の甲が、かすかに熱を帯びる。


――あの夜。

焼けた土に、光が落ちた瞬間を思い出す。


(……あれは、関係あるのかな?)


フィーナがそう考えた時、レイナードは杖を下ろし、穏やかに告げた。


「午後は聖堂に移動し、実技となります。

自らの属性を測定します。――自分を知ることが、すべての始まりです。」


講義室の空気が、わずかに動いた。

測定だって、どんな感じなんだろうね、という小さな声があちこちで重なる。


だがフィーナの胸の奥には、小さな違和感が残っていた。


左手の甲はまだほんのわずかに熱かった。

それが何を意味するのかは、まだ分からない。



午後の実技が始まると、聖堂は緊張と期待のざわめきに包まれた。

中央の壇上には魔法陣が淡く光を帯び、その中心で水晶球が脈動している。


「ではこれより、魔力属性と魔力量の測定を行う。」


レイナードの声が響くと、空気が一瞬で張りつめた。



最初に名を呼ばれたのは、ルークラン。

彼が歩み出ると、自然と周囲の視線が集まった。

黒のローブを揺るがせ、静かな足取りで壇上へと上がる。

両手をかざすと、空気がわずかに震える。

水晶の中に深い影のような光が揺らめき、瞬く間に収束した。


「……見事だ。闇属性、極めて安定。」


水晶を包む闇の光は滑らかで、揺るぎない秩序を宿していた。



「リーザ・ヴェリアス。」


柔らかな風が舞い、緑の光がふわりと広がった。


「風属性、反応安定。魔力量は上位。」


光が髪を照らし、ステンドグラスの輝きが一層と映えた。



「ガレス・ヴァルガ。」


同じく四大公爵家ヴァルガ家の――焦げ茶の髪の少年が、水晶の前に歩み出る。

鈍く光る土色が広がり、穏やかな大地のような安定を残して収まった。



「クローディオ・ノクティル。」


名が呼ばれた瞬間、白い光が先に応じた。

彼の足元を包むように光が流れ、着崩した白のローブが淡く照らされる。


クローディオが水晶に歩み寄ると、その手が触れるより早く、周囲に柔らかな光が満ちた。

まるで、水晶の方が彼を待っていたかのように。


水晶の奥で金糸のような光がゆるやかに流れ、淡い波紋が広がった。


「光属性――魔力量、非常に高い。」


レイナードの声が響いた瞬間、会場にざわめきが走った。


しかしクローディオ本人はまるで他人事のように微笑み、肩をすくめて言った。


「やりすぎたかな?」


その軽口に緊張していた空気がわずかに緩み、あちこちで小さな笑い声がこぼれた。



「ミア・カルディナ。」


名を呼ばれたミアが、白い制服のスカートを揺らして壇上へ上がる。


「風属性。魔力量――中。」


ミアは胸に手を当ててほっと息をつき、一礼して軽やかに壇上を降りた。



「ラナ・ヴェイル。」


ラナの両手が水晶に触れると澄んだ青を帯び、波紋が静かに広がった。


「水属性――安定。魔力量、上位。」


レイナードが満足げに頷く。


測定は滞りなく進んだ。

赤が弾け、青が波紋を広げ、緑が風のように舞う。

聖堂の空気は少しずつ和らいでいく。


順調だった。すべては、何事もなく進んでいる――はずだった。



「フィーナ・セレス。」


名が呼ばれると、いくつかの視線がこちらを向いた。


「奨学生の子よね?」

「どんな属性かしら」


小さな囁きが交わされる。


フィーナは息を整えて壇上へと歩み出た。

水晶の前に立つと、緊張で胸の奥がわずかにざわついた。


(大丈夫……落ち着いてやろう)


両手をそっとかざす。


すぐに淡い赤が灯った。

それを見たレイナードが頷きかける、その瞬間。


――ピシッ


と小さな音がした。


赤がぐらりと大きく揺らぐ。

白へ。

そして、金へ。


光が瞬時に濃くなる。

眩しさというより、空気が重くなる感覚がした。


「……っ」


水晶の内部で光がどくんと脈を打つ。

そして形を持たないまま、広がろうとする。


「…反応が大きい。セレス君、魔力を止めて下がりなさい!」


レイナードの声が飛ぶ。フィーナはその声の通りに魔力の流れを止めようとした。

しかし、光は消えない。


(どうしよう、止まらない……)


フィーナの魔力はパチパチと音を鳴らし、今にもはじけそうだった。


「と、止まりません…!」


焦るフィーナの声に聖堂がざわついた、そのとき。

黒い影がすっと横に立った。ルークランだった。


彼が片手をわずかに掲げると、漆黒の魔力が光の縁をなぞるように、静かに囲っていく。

揺らいでいた金の光が元々の形を思い出したかのようにゆっくりと落ち着いていく。


重かった空気がほどけ、光が消えた。


静寂。


フィーナの膝から力が抜ける。

その身体を、ルークランが自然に支えた。


「……もう大丈夫だ。」


低く、落ち着いた声。


騒ぎは大きくならなかった。怪我人もいない。

誰もが安堵の息をつきかけた――そのとき。


ぴきり。と乾いた音が聖堂に響いた。

水晶の中心から大きな亀裂が走っていた。


レイナードがゆっくりと近づき、水晶を見つめる。


「測定水晶に亀裂が入るとは……」


低くつぶやいたレイナードの声は、静まり返った聖堂内にやけに大きく響いた。

レイナードは口元に手をやり、少し考えるように水晶を見つめる。


そして、ゆっくりと告げた。


「……フィーナ・セレス、今日の段階では測定不能とする。」


教授の言葉に聖堂が再度ざわついた。


「測定不能って……」

「そんなこと、あるの?」


小さな声があちこちで交わされる。


(測定不能……?)


ルークランは、自身の腕の中でわずかに身じろぐフィーナを見下ろし、眉を寄せた。


金の残滓が、まだ彼女の指先に淡く残っている。

それを見ているのは――ルークランだけだった。

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