表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/63

2-8 もしかして目の前にあるのって、宝の山だったりするのでは。

「はじめて挑戦したわけですし、うまくいかないことだってあるでしょう。冒険の途中で時間を見つけて練習していけば、そのうち魔法も使えるようになりますって」


 沐浴を終えたあと。

 赤ずきんちゃんは木の枝に干しておいた衣服を着ながら、ぼくに優しく声をかけてくる。だけど気を遣われているのがわかるだけに、自慢のふさふさ尻尾がしなびていくような気分になってきちゃう。


「ぼくはダメダメだなあ。弱っちいしぶきっちょだし、もしかして銀狼じゃなくてただの狼だったりして。うわ、ありそう……めっちゃヘコんできた」

「んああああああああっ!! そうやってすぐ落ちこむんだから、このヘ・タ・レ!!」


 あからさまにしょげているぼくを見てイライラしたのか、赤ずきんちゃんが鼻息を荒くして近づいてくる。

 慰めてくるよりらしいっちゃらしいのだけど、さすがにちょっと気が短すぎない?


「気休めを言っているわけではなくってよ、マロック。無駄にでけえ身体を見れば誰でもわかるように、あなたは誇り高き銀狼の子どもなのです。成長すればSランク上位の魔物になりますし、内なる魔力マナを蓄えるスキルだって今後ぐんぐん伸びていきます」

「ほんとに? じゃあ練習すれば、ちゃんと使えるようになる?」

「だからそう言っているでしょうに。ギルドに出す履歴書に自信満々で『魔法が得意です』と記入できるほどの腕前になれるかどうかは保証できませんけど、コツさえつかめば絶対に習得できるはずなのですよ」


 ぼくは冒険者じゃなくて魔物だし、ギルドに履歴書なんて提出しないけどね。

 なんて思っていたら赤ずきんちゃんが、銀色の毛に包まれた額をぺちんと叩いてくる。


「魔法が苦手だったとしてもそのぶん近接戦闘の技術を高めていけばいいだけの話ですし、ちょっとできなかったくらいでメソメソするのはおやめなさい。……それにあなたは魔物なのですから、修練を重ねる以外にも魔法の資質を伸ばす方法はありますの」

「え、なにそれ詳しく」

「あら、元気が出てきたようですね。ていうか実はこれ、今回の目的でもあるのですけど」


 赤ずきんちゃんが得意げに笑みを浮かべるものの、ぼくは言葉の意味がよくわからなくて首をかしげる。

 すると彼女はひとこと「ご褒美」と呟いた。


「あ、そういや手料理をふるまってくれるんだった。いっしょに水浴びできたから、なんとなくもうご褒美をもらった気分になっていたよ」

「まったく、あなたのために色々と考えておりましたのに。以前ドラゴンのお肉を食べたときにすこし話した覚えがありますけど、彼らのお肉は内なる魔力を育てる効果があります。これはドラゴンだけにかぎった話ではなく、魔物のお肉には多かれ少なかれ心身を強化する効能があり、食材として重宝されている種族も多いのです」


 赤ずきんちゃんはそう言ったあと、残念そうな表情を浮かべ、


「しかしながら、人間が魔物を食べたところで劇的な効果は期待できません。だから基本的には魔物が魔物を食べたほうがお得なのです。強いやつが強いやつを求め、互いに食らうことでより成長していく。邪悪で野蛮な連中ならではの文化は、こうした背景があって誕生したとも言われています」

「この前〈雪の女王〉に捕まったとき、ぼくは危うく晩飯にされそうなったけど、あれはそういうことだったのかあ」

「あのときはグリルにされなくてよかったですね、マロック。女王のように邪悪ではありませんけど、銀狼が立派な魔物なのは事実ですから……彼ら特有の弱肉強食を絵に描いたような成長システムは、あなたにも例外なく適応されましょう」


 赤ずきんちゃんはそう言って、にっこり笑ってうなずいてみせる。

 彼女の説明を聞いたところで、ぼくは最初の『今回の目的』という言葉を思いだして、


「じゃあ……冒険に行く前に言っていた、生きるか死ぬか、食うか食われるかって」

「そうです。わたしが腕によりをかけて作る料理は、ただの料理ではありません。大切な相棒くんをさらに強く成長させるための、由緒正しき魔物めしなのですから」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ぼくは感激のあまり赤ずきんちゃんに抱きついた。

 嬉しい気持ちを抑えられなくて、彼女の頬をぺろぺろと舐める。


「くすぐったいですってば、もう! わたしの料理を食べていけば、あなたはきっと魔法が使えるようになれるでしょう。そのためにはまず、食材となる魔物を探していかなくては」

「ありがとう赤ずきんちゃん!! ぼく、絶対に強くなるよ!!」 

「……だからべろんべろんに舐めてくるのはおやめなさい! また沐浴しなくちゃいけなくなるでしょうに!!」 





 なんて会話をした数時間後。

 ぼくたちは密林の迷宮を進み、極彩色の植物が生い茂る野生の花園に足を踏みいれた。


「うわ、見るからに毒々しい色をした花がいっぱいあるや。もしかしてこの中に目当ての魔物が潜んでいたりするのかな」

「というより、ほとんどがそうですね。あなたも名前くらいなら聞いたことがあるでしょう、今いるエリアはマンドラゴラの群生地帯です」


 マンドラゴラ。

 たしか根っこが人間みたいなかたちをした、植物系の魔物だった気がする。

 バリエーションが豊富な種族で、マジックポーションの材料になる便利なやつもいれば、猛毒になる厄介なやつもいて――希少なやつだと金貨ウン十枚の価値があるって、前に赤ずきんちゃんが瞳をキラキラさせながら話していた覚えがある。

 この花畑にはかなりの種類のマンドラゴラが生育しているみたいだし……もしかして目の前にあるのって、宝の山だったりするのでは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ