2-1 ぼく狼だから、いい匂いがする布を嗅ごうとしていただけなのに。
やあ、ぼくはマロック。まだまだ育ちざかりの銀狼だよ。
今では虎か獅子くらいの大きさに成長しているけど、赤ずきんちゃんに拾われたばかりのころは子犬くらいに小さかったのさ。
当時のぼくは自分の名前すら持っていなかったから、
「いいこと? 今日からあなたをマロックと名づけます。これは古いおとぎ話に出てくる名前で、王の命令を受けてかの有名な古代遺物、聖杯を探す旅に出た騎士のひとりだと言われています。あなたもいつか銀色の甲冑に身を包んだ勇ましい騎士のごとく、目の前にいる可愛らしいお姫さまを守ってくださいね」
「ぼく、つよくなるから! だからずっといっしょにいてね、あかずきんちゃん!」
思い返してみると、あのころの赤ずきんちゃんは優しかったなあ……。
いっしょにお風呂に入ったり同じベッドで眠ったり、冒険の途中でちょっとお手伝いするだけでニコニコして頭をなでてくれたり。
なのに今では宿で寝っ転がっているとき、赤ずきんちゃんがぼくの尻尾を思いっきり踏んづけちゃったりしても、
「……痛いなあっ!! 気をつけてよ!!」
「あらごめんあそばせ。床磨き用のモップが転がっているのかと」
とか言ってケラケラ笑うんだよ。ひどすぎると思わない?
そのうえぼくが言われたとおり強くたくましく成長しているってのに、赤ずきんちゃんはたまに残念そうな顔でこっちを見てきて、ぽつりとこう呟いたりもするんだ。
「拾ったばかりのころはワンちゃんみたいで可愛かったですのにねえ。さすがにこれ以上大きくなったら街に入れてもらえなくなるかもしれませんし、早めにどうにかしないといけません。野生に返したら人を襲いそうで危ないですから、いっそこの手で……」
「ちょっ!? 冗談だよねっ!?」
「冗談にしてほしいなら、お口にくわえているわたしのタイツを返してくださいません?」
まったく失礼しちゃうよね。
ぼく狼だから、いい匂いがする布を嗅ごうとしていただけなのに。
そんなわけで最近はだいぶ雑に扱われているのだけど、それでもぼくは赤ずきんちゃんのことが大好きだし――お姫さまを守る騎士のようにたくましくなりたいって気持ちは、拾われたばかりのころからずっと変わっていないかな。
だから小さかったときみたいな「可愛い可愛い」って優しく頭をなでなでされるだけのペットの立場じゃなくて、やっぱりもっともっと成長して「まあ素敵あなたのことを見ているだけで胸がキュンキュンしてしまいますわ」と抱きつかれるような頼れる相棒にならなくちゃって、いつも思っているよ。
なにせ当の赤ずきんちゃんがクソ強くて勇ましいから、そのぶん余計に自分を鍛えていかなくちゃ、いつまでたっても追いつけないだろうし。
前置きがちょっと長くなったけど……今回はそんな健気で一途な銀狼マロックが、最強の冒険者である赤ずきんちゃんの相棒として、ひたむきにがんばる話なのさ。




