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1-28:もしかしてめちゃモテガールなのでは、今のわたし。

 太陽が十四回の浮き沈みを繰り返し、暦の竜が二度ほど入れ替わったころ。

 ようやく怪我から回復したわたしは、朝も早いうちから冒険者ギルドに赴いて、受付のおじさまから莫大な報酬をいただきました。


 農村を荒らしていたドラゴン、そして恐ろしい〈雪の女王(スノウ・ホワイト)〉を立て続けに討伐したことで、辺境の町に住まう住人や冒険者たちは、ようやくわたしの力を認めるにいたったようです。

 おかげで今や待遇は雲泥の差。ギルドの帰り道では行き交う人々に憧憬のまなざしを向けられ、愛想よく手を振ってみせれば、たちまち賞賛の声があがります。


 可愛くて最強の赤ずきんちゃんの魅力がわからないなんて、やっぱり田舎はクソですダサいし滅びろと思っていましたが……寄ってたかってチヤホヤされるとさすがに悪い気はしません。

 もしかしてめちゃモテガールなのでは、今のわたし。


「でもどうして皆さん、わたしに甘いお菓子ばかりくれるのでしょう。やっぱり容姿でナメられているような気が……」


 そう愚痴をこぼしてみるものの、いつも隣にいるマロックからの言葉はありません。あの子は寝起きが悪いので、滞在中の宿でぐーすか眠りこけているのです。

 まったく……町に帰還してからというもの、あの子はどうにもたるんでいますから、そろそろビシバシと鍛え直してあげなくては。

 そう、女王討伐のご褒美として、裸エプロンの代わりにでも。


 と、町の中央にある噴水広場に足を運んだところで、木のベンチに座って鳩にエサをやっている白髪交じりの老人を見つけました。

 朝も早いですから、まだ眠たいのでしょうか。大きく口を開けてあくびをしていて、なんともだらしないお姿です。

 わたしはてこてこと彼に近寄ると、このときのために持ってきていたオンボロマントを思いっきり顔面に叩きつけてりました。


「――どわっ!! なんだこれ、くせえ!!」

「あなたのロッジにあったやつですよ、猟師さん」


 わたしがケラケラ笑いながらそう言うと、白髪の老人はぽつりと「あ、そうだったかもしれん……」と呟きました。

 異形の契約者カスパールでいるときは強者オーラ全開だというのに、お仕事が休みの日になると覇気のない老人になってしまうのだから困ったものです。

 やがて猟師さんはマントを地べたに放り投げたあと、したり顔でこう言いました。


「しかし無事に女王を討伐できたようだな。ひとまずよくやったと褒めてやろう」

「どういたしまして。どっかのボケ老人が丸投げしやがった依頼を達成いたしました。めちゃくちゃ大変でしたけど。ええ、いっそぶん殴りたいくらいに」

「だろうなあ。正直に言うと五体満足で戻ってくるとは思っていなかったしな。さすがのお前でも荷が重すぎる相手だし、泣きべそかいて俺に助けを求めてくる姿が見たくなかったと言えば嘘になる」 

「うーん、今すぐ鉛玉をぶちこんでやりたい……」 

 

 とはいえケンカを売ったとしても、片手でひねり倒されるのがわかっているだけに悔しいところ。

 ふざけた態度の師匠にあからさまなため息を吐いてみせてから、わたしはたずねました。


「やっぱり最初から猟師さんが行けばよかったのでは。そのほうが楽勝だったでしょうに」

「そうでもないぞ。最強でかっこいい俺にも相性の悪い相手というのは存在する」

「え、本当ですか? まあ物理遮断の結界に冷気系の魔法、正体を見せれば空を飛ぶわ吹雪を呼ぶわ大規模の氷柱爆撃ぶちかますわで、厄介このうえない魔物でしたけども」

「いや、虫が苦手なの俺。キモくて触るのも無理」

「なんですかそれ……。しょうもなさすぎる……」


 あまりにも情けない理由に、思わず絶句するわたし。

 この様子だと女王の正体や能力についても事前に予測できていたのでしょうし、なおさら憤りを覚えてしまいます。

 しかし猟師さんは屈託のない笑顔を浮かべて、こう言いました。


「とはいえ久々に歯ごたえのある獲物とやりあえて、お前も狩りの喜びを味わえたじゃないか。創意工夫のすえに見事、実力が上の相手を討伐してみせたのだ。俺も師として鼻が高いぞ。さすがにそりを使って空を飛ぶとは思ってなかったしな。ハハハッ!!」


 怪我の療養中に提出しておいた、冒険者ギルド宛の討伐報告書に目を通しているのでしょうか。猟師さんはわたしたちの戦いを直に見てきたかのように、そう語ります。

 やがて彼は笑うのをやめるとふっと真面目な表情になり、なにを言うかと思えば、


「というわけで約束どおり、報酬の分け前をよこせ」

「はあ? 冗談ですよね? 確かに依頼を斡旋してもらいましたけど、こちとら今回の討伐で大損害なんですよ。失った装備を補充するだけで経費が真っ赤になりますし」

「安心しろ。お前が雪原に捨てた暗器は俺が回収しておいたから。ていうか道具はもっと大事にしろと、昔から口を酸っぱくして言っているだろうに」

「いつのまにそんなことを……。ていうかどうやって……。いや、助かりましたけども」 

「だから報酬の分け前をよこせ。そしたら暗器を宿に送ってやる」


 失った装備の中には円月輪チャクラムのように金額で換算できない貴重な代物もありますから、ここは素直に報酬の一部を渡したほうが得策でしょう。

 わたしは損得の勘定を頭の中で済ませたのち、渋々と承諾いたします。

 猟師さんは再びニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、こう言いました。


「ずいぶんとご機嫌斜めじゃないか、ウエンディ」

「そりゃそうでしょうに。虫が苦手だからとかいう最低の理由で依頼を丸投げされたうえに、なんもしてないクソ師匠にウマい汁だけ吸わせるハメになったのですから」

「勉強代だと思えよ、ウエンディ。俺は俺でそれなりに大変だったんだ」

「どうせ酒場でぐーたら寝ていたくせに、なに言ってるんだか……」


 納得できずにブツクサそう呟くと、猟師さんは木のベンチから立ち上がり、パンをこねるみたいにわたしの頬をうにうにと引っ張ってきました。

 あまりのウザさにしわくちゃの手をぺちんと払いのけると、


「てっきり気づいているもんだと思ったが、その態度からすると俺の勘違いだったみたいだな。次に会うときは殿方の気配りを察することのできる、一人前の淑女に成長していろよ」

「……どういう意味です? それ?」

「自分で考えてみなよ、〝赤ずきんちゃん〟」


 猟師さんはすれ違いざまにぽんと肩を叩き、そのまま手を振って去ってしまいました。

 噴水広場に取り残されたわたしは、授業のあとに課題を出された魔法学園の生徒のように、頭の中で何度も彼の言葉をこねくりまわし――やがて一つの解を導きます。


「ああああ、もうっ!!! だから……むかつくんですよ!! あのクソじじい!!」

 

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