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1-12:ていうかクソ寒くて死にそう。

「さて、どこから手をつけようかしら」


 わたしは目玉さんの亡骸を眺めながら、しばし考えをまとめます。

 第一目標は隔絶されたエリアからの脱出。

 次にマロックの救出ないし合流。

 そして最後に〈雪の女王(スノウ・ホワイト)〉を討伐すれば、今回の依頼は達成です。


 しかしここにきて、領主の娘であるヴァージニアさんが生存している可能性が高くなってきました。

 骨と化しているというのならともかく、助けられる見込みがあるのであれば、なるべく早く彼女を見つけださなければなりません。

 すでにこのエリアから抜けだしているとはいえ、遺跡の中は危険がいっぱいですから。

 

「……そうだ。ヴァージニアさんの足跡をたどっていけば、わたしもここから抜けだすことができるかも。ついでに彼女と合流できればなおよし、と」


 時間はかぎられていますし、効率重視でいきましょう。

 うかうかしていると、マロックのお肉が女王の食卓に並んでしまいます。

 そう考えて場を去ろうとした直前――バラバラになっていた目玉さんが、ぴくぴくと動きはじめました。

 念のため事後の様子を見ていたのですけど、どうやら再生能力を備えていたようです。


「使い魔は術者の血肉をもちいて作りあげるものですから、主の性質をそのまま受け継ぐ傾向にあります。〈雪の女王〉も同じように復活するのだとすれば……あのとき、ティンカーベルで仕留めそこねたことにも納得がいきますわね」


 隣にマロックがいないにもかかわらず、わたしはついクセで解説を呟きます。

 目玉さんの亡骸を調べたところ、中からキラキラと輝く宝石のようなものを発見。

 試しに踏みつぶしてみると、ぴくぴくと動きはじめていた肉片が完全に沈黙いたします。

 おかげでどうやって倒せばいいのか、よくわかりました。

 

「……最後の最後まで貴重な情報をありがとうございます、目玉さん。あなたのところに必ず、愛しの女王さまをお連れいたしますので」


 ちまちまと弱点をあばいて、最後の最後で豪快にぶちのめす。

 普段の冒険では味わうことのできない、大物ボス狩りならではの楽しみといえましょう。 

 わたしはにんまりと笑みを浮かべると、さっそく行動をはじめます。


 



 ひとまず、今いるエリアをくまなく歩いてみました。

 壁や床、扉の材質は通路と変わりなし。古代の技術で作られているため非常に強固で、アリアドネの糸による切断を試みたものの、表面に傷ひとつつけられません。

 エリア自体に特徴はないものの、今までに見た遺跡内のどこよりも広く、隣にマロックがいないため、よりいっそう単調な探索が続きます。

 

 ていうかクソ寒くて死にそう。

 遺跡の中にいるはずなのに、外の雪原と同じくらい気温が低いような気がいたします。そのうえ今のわたしは身ぐるみをはがされて下着姿ですから、本気でシャレになりません。


「でも魔力マナは温存しておきたいから我慢し……はっくしょいっ!! 無理無理無理。寒さを和らげる魔法を使いましょう。あとのことはあとで考えればいいのですっ!!」


 というわけで鼻水をずびずび垂らしながら、呪文を唱えます。

 すると次の瞬間――身体の芯からぽかぽかと暖まるような、優しい微風に包まれました。

 しかし、


「うう、継続系の魔法は消耗がえぐい……。緊急時には便利ですけど、やはり基本的には厚着したほうがよさそうです……」


 なんて呟いている今も、内なる魔力がじわじわと消えていくのを感じます。魔法が使えなくなる前にここから抜けださなければ、凍えて死んでしまうかもしれません。

 そういえば……わたしと同じように閉じこめられたヴァージニアさんは、どうやってこの寒さをしのいだのでしょう。

 さすがに短時間で脱出できたとは思えませんし、凍りついた彼女の亡骸が見つかっていない以上、なにかしらの対策をほどこしていたはずなのです。

 しばし考えて導きだした結論は、我ながら驚くほど単純なものでした。

 つまり、


「ヴァージニアさんもわたしと同じ術が使えたのかしら。魔法の習得は古の時代から、貴族の嗜みだったという話ですし」


 だとすれば、彼女が魔法を使った痕跡が、このエリアに残されている可能性があります。魔力の気配がしないか、意識を集中しつつ付近を捜索してみましょう。


 そして歩き疲れて休憩しようかと考えはじめたころ。わたしはふいに、鼻がひきつくような感覚を味わいました。

 目論見どおり、ヴァージニアさんが使った魔法の痕跡を察知したのです。

 キョロキョロと周囲を見まわしたあと、霜の積もった床のうえに、なにか四角いものが隠されているのを発見いたします。


「魔力の気配はここから漂っていますね。女王が仕掛けた罠じゃなきゃいいのですけど」


 わたしは天にいるおばあさまに祈りつつ、霜を払いのけて拾いあげます。

 床に落ちていたのはどうやら、一冊の本のようでした。

 上質そうな革張りの装丁で、縁には金糸で刺繍が施されています。

 王都の魔法学園に短期留学していたとき、これと同じようなものを見たことがあります。

 たぶんなにかしらの術がこめられた、魔法の書物でしょう。

 しかし表紙をよく見ると、こんな間抜けなタイトルが記されておりました。


 ☆ヴァージニアちゃんの乙女日記☆


 ……なんぞこれ。

 困惑しながらも、わたしはページを開いてみます。


――――――――


 はあい、お元気? 

  

 この本はお父さまにおねだりして王都から取り寄せた魔法のアイテムで、持ち主が喋った言葉を自動で文字にしてくれる優れものなの。

 ちょっとくらい離れていても効果を発揮するから、ここに手がかりとして残しておくわ。

 冒険者さんは日記を読むだけで、あたしのあとを追いかけることができるってわけ。なかなかいいアイディアだと思わない? 


 だから早く助けにきてね。

 

―――――――― 


 可愛らしい文字で書かれた文章を読んで、わたしは素直に感心いたしました。

 ……隔絶されたエリアから抜けだすだけでなく、依頼を受けた冒険者が来ることを予想して、わざわざ手がかりまで残しておいてくれるとは。

 そのうえ目玉の使い魔に見つからぬよう、霜の中に隠しておくというぬかりのなさ。

 ヴァージニアさん、なかなかに知恵が働くお嬢さんのようです。

 というわけでわたしは、歩き疲れてへとへとになった足を休めつつ、しばし読書に耽ります。


 この日記帳を最後まで読めば、彼女のもとまでたどりつくことができるでしょう。

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