1-10:あら、知りませんでしたの? これでもけっこう気に入っていますのよ。
凄まじい轟音が響きわたり、美しかった少女の顔面が勢いよく弾けとびます。
そして首から上を失った肉体が、ゆっくりと床に倒れました。
これぞまさに最強。
圧倒的なまでの暴力。
ふうと息を吐くわたしを見て、マロックがたまらず叫びます。
「ちょっ……なにやってんのさ!! いくらなんでもダメでしょそれえ!!」
「このほうが手っ取り早いかと」
「ああ、可愛かったのに!! おっぱいでかかったのにぃ!!」
わたしが嫉妬のあまり、美少女をぶちのめしたと考えたのでしょう。
相棒くんは慌てて、ヴァージニアさんだったもののところに駆けよります。
「――ちょっ! お待ちなさい、マロック!!」
「いやだよ!! だって完全にやばいやつじゃん、今の赤ずきんちゃん!!」
「ちがうのですちがうのですってば。ああ、もうっ……だから用心しなさいと、わたしは前もって言っていたでしょうに!!」
マロックは驚いたような表情で、こちらを見つめます。
ようやく気づいたのでしょう。
わたしがなにをぶちのめしたのか――いえ、ぶちのめし損ねたのかを。
『いつから? いつから気づいたの? うふふふ。うふふふふ』
首のない身体がぐらっと起きあがり、どこからともなく吹雪のように冷たい声が聞こえてきます。
質素なドレスの下から白い枝のような触手が伸びており、あろうことか不用意に近寄ったマロックを、がんじがらめに拘束しておりました。
わたしは依然としてティンカーベルの銃口を向けたまま、静かにその名を呟きます。
「……やはりあなたが〈雪の女王〉ですね。ただの人間にしては、美しすぎると思いましたもの」
わたしの言葉を称賛と受けとったのでしょう、室内にケタケタケタと耳ざわりな笑い声が響きわたります。
そしてマロックの首を絞めあげながら、こう言いました。
『コワイコワイ……。嫌な気配がするその武器を、早くおろしてくださらない?』
「その子を解放してくださるのなら、考えてあげましょう」
強気にそう言ってみるものの、首のない女王はなおも哄笑を続けます。
一方のわたしは人質を取られた格好ですから、いかんせん余裕がありません。
わずかでも気を抜くと身体が震えて、銃の照準がずれてしまいそうです。
そのうえ相棒くんがぽろぽろと涙を流して、
「……ごめん!! ぼくごと撃っでいいがら!!」
なんて訴えてくるのですから、本当に本当に困ってしまいます。
マロックはきっと、わたしが容赦なくそうすると信じているのでしょう。
だから苦笑いを浮かべて、こう言ってあげました。
「あら、知りませんでしたの? これでもけっこう気に入っていますのよ」
犠牲にできないくらいには。
あなたのことを。
◇
「――ぎゃっふん! ……あいたたた」
高所から突き落とされたわたしは、凍りついた床にしこたまお尻をぶつけてしまいます。
あまりにもひどい仕打ちに、ここまで担ぎあげてきた相手を怒鳴りつけました。
「そっから降りてきなさい、このクソゴーレム!! あんたのキラキラした顔面をぶちのめしてさしあげますわ!!」
「グオーン」
しかし、しょせんは人工生命。
主である〈雪の女王〉に従うだけの魔物は無機質な起動音を鳴らしたあと、通路の向こうにスタスタと消えていきました。
ぐぬぬ……あとで絶対スクラップにしてやりますからっ!
怒りに駆られて頭上を睨みつけるものの、高台にある扉は自動でガシャンと閉まり、わたしが囚われの身になったことを、容赦なく知らしめてきやがります。
おかげで冷静さを取り戻し、小さくため息を吐きました。
「……困りましたわね。ティンカーベルまで奪われてしまうとは」
結局、銃をおろしたところで〈雪の女王〉が見逃してくれるはずもなく。
わたしは遺跡のどこか、他と隔絶されたエリアに閉じこめられてしまいました。
おまけにあのクソ魔物女は頭が回るらしく、赤いずきんやエプロンドレスに暗器を仕込んでいたこともあっさりと見破られ、今のわたしはオンボロマントごと、身ぐるみをはがされた状態。
そのうえマロックはいまだ人質のままなのですから、まさに絶望的です。
猟師さんが見ていたら、こう言って鼻で笑ったことでしょう。
『情に流されやがったな、バカめ』
ええ、あなたなら迷わずあの状況で、マロックに鉛玉をぶちこむでしょう。
それができないわたしが甘いというのなら、素直に認めるほかありません。
とはいえ、
「ナメられたままなのも癪ですから、必ずやこの窮地を脱出してみせましょう。それまでマロックが無事ならいいのですけど……」
そう言ったあと、わたしは豪快に「べっくし!!」とくしゃみをしてしまいました。
赤いずきんとエプロンドレスをゴーレムにむしり取られ、今はシュミーズとドロワースいっちょ。遺跡の中とはいえ、寒くてしかたがありません。
しかしこんなあられもない姿を殿方に見られでもしたら、歓喜のあまり昇天させてしまうかも。
などとバカなことを考えていたところ、さっそく、
「ん……。今、視線を感じたような……」
ガチガチと震えながら、周囲を見まわします。
遺跡に入る直前に感じたものと同じく、ただの気のせいでしょうか。
しかし不埒なのぞき魔は、なんとわたしに堂々と声をかけてきたのです。
『フホホ、よもや見破られるとは。我らの主を討伐しにやってきただけはあるのう』




