顔合わせ
20話の続き
ブレイド本部から遠く離れた、寂れた田舎町。
ヴェルナは、その地へと向かっていた。
舗装も不十分な道。人気の少ない風景。
(……懐かしい)
かつて追放された故郷を、どこか思い出す。
静かな空気の中、指定された集合場所へ辿り着くとすでに二人の人影があった。
黒いコート。背中越しでも分かる。
ブレイドの人間だ。
一人は大柄。もう一人は小柄。
気配に気づいたのか、大柄な男がゆっくりと振り向く。
「来たか」
低い声。続いて、二人がフードを外す。
現れたのは年季の入った男と、若い少女だった。
ヴェルナもフードを外す。
「お前が噂のヴェイルか」
男は明らかに警戒していた。
だが少女の方は違った。
まったくと言っていいほど、警戒の色がない。
「ヴェルナよ。よろしく」
ヴェルナは手を差し出す。
一瞬、男は迷う素振りを見せたが、やがてその手を握った。
「あぁ。俺の名前はダイク。見ての通り、40過ぎのただのおっさんだ」
ぶっきらぼうに言う。
「で、こいつは新人のセラ」
「セラです!よろしくお願いします!」
深々と頭を下げる。
予想外の組み合わせに、ヴェルナは内心驚いていた。
「お前さんの事情はボスから聞いてる」
ダイクが続ける。
「新人試験だろ。察しの通りお前だけじゃない、こいつもだ」
そう言って、顎でセラを示す。
「こいつは俺が拾ってきたガキでな。今回は責任者として俺も付き添いだ」
「まぁ多少は手を貸すが基本は手出ししねぇ」
「えぇ、それで大丈夫よ」
ヴェルナは即答する。
「ならいい」
短く言い、ダイクは歩き出した。
ーーー
道中。先頭はダイク。
その後ろを、ヴェルナとセラが並んで歩く。
するとセラが
「ヴェルナさん!頑張りましょうね!」
満面の笑み。
「……あなた、緊張感ないわね。本当に大丈夫なの?」
そう問いかけると、セラは少しだけ笑い方を変えた。
「そうですね。よくヘラヘラするなって怒られます」
苦笑。
「でも、絶対に成功させたいって気持ちは本当です」
その目は、真剣だった。
「さっきも言った通り、私……ダイクさんに拾われたんです」
ぽつりと語り始める。
「私が物心つく前、家族でヴェイルに襲われて……」
「……」
「正直、トラウマで細かいことはほとんど覚えてないんです。でも一つだけ」
少しだけ目を細める。
「あの大きな背中だけは覚えてて」
結果的に、家族は全員死に、自分だけが生き残った。
「施設に送られるはずだった私を、ダイクさんが拾ってくれたんです」
「……優しい人なのね」
「はい!」
即答。
「だから、恩を返したいんです」
少しだけ声が強くなる。
「ダイクさんは助けないって言ってますけど……」
くすっと笑う。
「ちゃんと助けてくれますよ」
「聞こえてんぞ」
前から声が飛ぶ。
「わざと聞こえるように言ってます!」
「……ったく」
軽く舌打ち。
そのやり取りを見て、ヴェルナはぽつりと呟いた。
「……親子みたいね」
「そうですね!」
セラは嬉しそうに笑う。
「実質、ダイクさんが私のお父さんです!」
「勝手に父親にすんな」
ぶっきらぼうな返し。
だが、どこか嫌ではなさそうだった。
ーーー
しばらく経ったあと、ヴェルナが口を開く。
「ねぇ。新人試験って、毎回こんな感じなの?」
その問いに、ダイクが答える。
「いや、内容はバラバラだ」
「今回みたいに強ぇ相手の時は複数人になることもある」
「共通してんのはヴェイルを討伐するって点だけだな」
「……そう」
「その中でも」
ダイクが少しだけ振り返る。
「お前と一緒にいるレイってやつは別格だったらしいな」
その名前に、ヴェルナの反応が変わる。
「詳しく聞かせて」
食いつく。ダイクは軽く笑う。
「当時10にも満たねぇガキがな」
「ブレイドが最も苦戦してたヴェイルを、単独であっさり仕留めたって話だ」
「……」
「聞いた時は耳疑ったよ。ありゃ完全にバケモンだ」
「……そう」
改めて納得する。
「最初に襲った相手があいつだなんて、お前さん運が悪いな」
ダイクは笑った。
「凄いなぁ、私よりも年下なのに…」
セラのテンションが少し下がる。
「そういえばセラさん、何歳なの?」
ヴェルナが尋ねる。
「私ですか?今年で19です!」
「……3つ上なのね」
「えっ!?そうなんですか!?」
逆に驚かれる。
「あなたの方が大人っぽく見えます……」
「よく言われる」
「けど、ヴェイルと人間じゃ成人年齢が違うから」
ヴェルナは補足する。
「ヴェイルは16、人間は20だ」
「へぇ……」
セラが感心したように頷く。
「こうやって話してみると、知らないことばっかりですね」
ーーー
そんな会話をしているうちに目的地の田舎町が見えてきた。
静まり返った街。
人の気配はあるが、どこか歪んでいる。
ダイクが足を止める。
「……ここからが本番だ」
振り返る。
「気ぃ引き締めろよ」
「はい!」
「えぇ」
二人が応える。
だがこの時。
ヴェルナたちはまだ知らない。
この任務がただの試験では終わらないことを。
そしてここで、何かが起こることを。




