第34話 美少女と私をスノボに連れてって ①
第34話 ①
午後のカフェは、ゆったりとした時間が流れていた。
大きな窓から差し込む陽射し。コーヒーの香り。
そして、場違いなほど目立つ面々。
とてつもなく美しく、可憐な銀髪の少女は、パフェの上のチェリーをじっと見つめている。
その隣で、完璧な姿勢の美しいメイドが静かに紅茶を口に運ぶ。
向かい側では、オタクにも優しそうなギャルっぽい女神こずえが足を組んでソファに深く沈み込み、
先の週末闘技場大会で殴りあったおかげか、仲の良くなったガイアのアイドル僧侶サマンサと、こずえの後輩に当たる美しい下級女神エアリスも同席していた。
「……平和ですねぇ」
レンが、しみじみと言う。
地球に来てから、こうして普通のカフェにいる時間も、すっかり日常になっていた。
『こうやってカフェでのんびりする回もいいよね』 『ゲーセンとか行ってきたら?』
『ダンジョン配信はどうなってるw』
『エアリス様とサマンサちゃんすっかり仲良しだね』
壁に設置された大型液晶テレビでは、昼のニュース番組が流れている。
『――異世界ガイアとの交流開始から数ヶ月。
経済界では、この現象を“お嬢様バブル”と呼ぶ声も――』
「お嬢様バブル?」
レンが思わず復唱する。
「へぇ、面白い名前をつけるわね」
女神こずえがニヤリと笑った。
『お姫様がダンジョンから出てきてから、日本経済はすごく好景気』
『異世界ガイアとの交流でどこも景気が良いらしいね』
『俺も給料めっちゃ上がった』
「バブルといえば、当時のバブルって、そんなに凄かったんですか?話には少し聞いた事があるんですが」
レンの問いに、配信ドローンの視聴者達が答える
『80年代半ばから90年代って感じだよね』
『レン君の世代じゃ知らないか、すごかったよ』
『私はまだ小学生だったけど、なんか世の中浮かれてた記憶がある』
『タクシー捕まらなくて、万札で止めてた』 『会社の経費で海外旅行当たり前』
『毎晩ディスコ、週末はスキー』 『ボーナスが年4回あった』 『俺ウォーターベッド買ったから』
「ディスコ?」
銀髪の少女が首を傾げる。
「踊る場所よ。音楽ガンガンで、みんな浮かれてた時代。ちょっと検索してみる」
女神こずえがスマホで検索してお嬢様に見せる。そこにはボディコンを来た、派手な若い女性たちが映っていた。
「ふうん……」
少女は少しだけ、興味を示したようだった。
『お嬢様、皆さん。バブル時代を知りたいなら、代表的な映画がありますよ』
バブル時代に青春を過ごした視聴者が、いくつかの映画を挙げる。
『私をスノボに連れてって』
『あの子が水着に着替えたら』
『風の数だけ抱きしめて』
『ここら辺がバブル時代の若者を象徴する映画ですかね』
『そうそう、懐かしい』
「へえ、そんな映画があったのね。ん?」
その瞬間。
女神こずえの思考が、超高速で回転した。
(スノボ……水着……青春……若者……恋愛……抱きしめる?
お姫様のスノボ姿や水着!?ちょー見たいんだけど、ウヒヒ)
脳内で、とんでもなく邪な未来図が完成する。
隣に座る後輩女神エアリスが身を乗り出す。
「ねえこずえ先輩!今からそれ観ましょうよ!なんか楽しそう!サマンサちゃんも興味あるでしょ?」
「面白そうですね、ぜひ観たいです。お嬢様も映画お好きですよね?」
「うん、みんなでホラー映画観たの」
「お嬢様がご覧になるなら私も。色々勉強にもなりますし」
「いいわねぇ〜!青春!パリピ!陽キャ!って感じの映画じゃない」
女性陣はノリノリだ。
元来、陰に近いレンは一瞬嫌な感じがしたが、
(……気のせいかな、まあいいや )
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「まずはこの――私をスノボに連れてって――からね」
「スノーボードですか、確か板で雪の上を滑るスポーツですよね」
こうして、急遽映画鑑賞会が始まった。
画面の中では、素敵な音楽と共に、
若者たちが車やバスでスキー場に向かい、ゲレンデを駆け回り、恋をして、失敗して、笑っていた。
バブル景気を背景にした、
眩しすぎる青春。
「わぁ……」
銀髪の少女の目が、少しだけ輝く。
「みんな、楽しそう……」
「そうよ。あの時代は、未来を疑わなかったの」
女神こずえが、珍しく真面目な声で言った。
「明日はきっと良くなるって、みんな本気で信じてた」
『おっさんの青春だよ』 『高校の時バスツアーで行ったな』 『スキーの後、露天風呂で寛いでたら、二階建てバスが通って乗客と目が合った思い出w』 『ナンパしたね』 『リフト待ちの長蛇の列』
映画が終わり、エンドロールが流れる。
カフェの空気が、少しだけ変わった。
「……提案があります!」
女神こずえが立ち上がる。
「こんな映画見ちゃったら、もうする事はひとつじゃない?」
そして、銀髪の少女の耳元に近づき、囁く。
「お姫様、全世界に向かって、このセリフ、言ってほしいの」
「?」
少女は一瞬考え、
小さく頷いた。
銀髪の少女が配信ドローンのカメラをじっと見つめる。
可愛らしくお願いするような感じで。
「――私を、スノボに連れてって」
『待ってました!』 『こういう展開か!』
『ひゃっほーい』 『みんなでスノボとスキーだ』
『このスキー場回見たら彼女に告白しよ』
『原作の場所は長野だっけ?』
『若い子はスノボ、おっさんはスキー?ぜひお嬢様にはスキーをやってほしい』
――――――湧き上がる大歓声
次の目的地が決まった。
まだまだ話は続きます。まずは1つ目から。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。 もし少しでも面白いと感じていただけたら、 ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです^^




