第31話 美少女と 乗るしかない このミラクルウェーブに
第31話
すべては、ダンジョンの奥で告げられた、たった一言から始まった。
――「私を、人間界に連れてって」
銀髪の少女は日本で数え切れない体験をし、
そして数え切れない奇跡を起こしてきた。
やがて異世界新幹線が開通し、
異世界ガイアと地球との本格的な交流が始まる。
それは、もはや単なる技術革新ではない。
現代の産業革命? 違う。
そんな生易しい言葉では、到底足りなかった。
――明確に、それ以上。
地球では効果が制限され、
国ごとに厳格な管理が行われているとはいえ、
「個人がスキルを持つ」という概念が、現実のものとなった時代。
人間。
獣人。
エルフ。
ドワーフ。
そして、どこからともなく現れた妖精族。
異種族間交流は日常となり、
世界の常識そのものが、音を立てて書き換えられていく。
とりわけ、経済界の変化は顕著だった。
証券市場では、
「異世界関連銘柄」と呼ばれる株が連日ストップ高。
建設、物流、エネルギー、エンタメ、医療、観光、農業――
あらゆる分野で、金が回り始めている。
それは投機ではない。
人が、人の未来に金を使い始めた結果だった。
テレビの経済ニュースでは、
連日この話題が取り上げられている。
「今日は、いわゆる“お嬢様バブル”について解説していきます」
スタジオの解説者が、穏やかな口調で切り出した。
「異世界ガイアとの交流開始以降、日本経済は明確な転換点を迎えました」
画面には、複数のグラフが並ぶ。
・実質賃金、史上最高の上昇率
・新卒初任給、過去最高水準
・地方企業の倒産件数、大幅減
・消費者心理指数、約30年ぶりの高水準
「注目すべきは、株価やGDP以上に――
“人々が、金を使い始めた”という事実です」
かつて日本は、「失われた30年」と呼ばれる時代を過ごした。
賃金は上がらず、
将来は不安で、
人々は消費を控え、挑戦を諦めた。
守るために何もしない。
失わないために動かない。
――負のスパイラル。
だが今、その空気は、誰の目にも明らかに変わっていた。
街の様子が、まるで違う。
かつてシャッターが並んでいた商店街に、
新しい灯りが、次々と点っていく。
カフェ。
小さな工房。
異世界素材を扱う専門店。
「失敗しても、またやり直せばいい。今は、そんな気がするんです」
地方で店を開いた、20代の男性はそう語った。
「前は、“やらない理由”ばかり探してました。
今は、“やってみたい”が先に来るんです」
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街頭インタビュー。
30代・男性
「正直、ずっと我慢する人生だと思ってました。
給料は上がらないし、税金は増えるし……
ただ消費されるだけの人生だと」
少し間を置き、彼は言った。
「でも今は違う。
“未来に向かって生きている”って、
初めて実感できてるんです」
20代・女性
「結婚とか、子どもとか。
親の世代では当たり前だったことが、
私たちには“贅沢な夢”でした」
彼女は、はっきりと言い切った。
「でも今は違います。
このファンタジーみたいな時代を、
どう生きるかを選べる。
人類は、こんな贅沢を経験したことがない。
私たちが、最高の時代を創るんです」
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企業側の姿勢も、完全に変わった。
かつて当たり前だった、
「コスト削減」「人件費抑制」という言葉は姿を消し、
代わりに聞こえてくるのは、
「まずやってみろ」
「失敗を恐れるな。むしろ失敗しろ」
「リスクを考えるな。とことん攻めろ」
「守るだけの時代は終わった。
今、企業に必要なのは“挑戦する覚悟”です」
そう公言する経営者は、もはや珍しくない。
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スタジオに戻る。
解説者は、カメラをまっすぐ見据えて語った。
「この好景気は、一時的な特需ではありません」
「失われた30年とは、
数字を失った時代ではなく――
“希望を失っていた時代”だったのです」
「そして今、日本は――
いえ、世界は、その希望を取り戻しました」
一瞬の沈黙。
「そう。
私たちが畏れ、敬愛する――
あの銀髪の美少女によって」
なぜ、ここまで世界は変わったのか。
政府でもない。
企業でもない。
経済政策でも、金融緩和でもない。
すべての中心にいたのは――
一人の、銀髪の少女。
あの日、ダンジョンから可愛らしくひょっこりと現れ、
人間界に遊びに来ただけの、超越的存在。
――まさに、シンギュラリティな少女だった。
ニュースの最後、解説者はこう締めくくった。
「これはバブルではありません」
「日本社会の“再起動”であり、
そして“創造”です」
「失われた30年の、その先へ――
今、日本は歩き始めました」
「皆さん、準備はいいですか?」
最後に、インタビューに答える一人の男。
モヒカン頭にサングラス、
髭をたくわえた、どこか憎めない男だ。
「はっきり言います」
彼は言った。
「下を向いてた人も。
世の中に絶望して引きこもってた人も。
夢を追いかけて、敗れた人も」
サングラスを外し、カメラを睨む。
「始めましょう。今から、もう一度」
「あの日、僕は現場にいました。
ダンジョンから現れた、
とんでもなくビッグな波を、この目で見た」
彼は、力強く叫ぶ。
「理由なんてどうでもいい!
才能、年齢、性別、見た目、コミュ力――
そんなもの、お嬢様にとっては取るに足らない!」
「僕らのお姫様は、そんな小事で僕らを笑ったりしない!」
男は、さらにカメラに顔を近づける。
「感じてください。この波を!」
「――乗るしかない。
この、ミラクルウェーブに!」
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