第30話 美少女と ほっぺた落ちる うなぎパイン
第30話
最近お嬢様がおやつで食べた、うなぎパインが大変お気に召したとのことで、突如静岡県浜松市にある、うなぎパインファクトリーに、工場見学へ行こうとなった。
東海道新幹線で東京から浜松市へ向かう一行。
ワープで一瞬で行けるのだが、そんな野暮な事はしない。
新幹線の車窓からは雄大な富士の山が見え、レンの霊刀富士山が共鳴するように震えた。
そして浜松駅に到着。
とてつもない数の人々が駅の周りを埋め尽くす。
まるで浜松中の全市民がお嬢様一行を出迎えたようだった。
「お嬢様、生で見ると、まじどやべーら」
「そうだら?」
「レン君も、ばかかっこいい」
「メイドさんも、どクールじゃん」
「女神さま、ばかかわいい。こっち見てー」
「お嬢様はちょっと若すぎるな」
「おい、今なんつった?お前ぶっさらうぞ」
『俺の地元じゃん』
『どなつかしー駅前変わってないじゃん』
『まさかお嬢様が浜松来てくれるなんて』
『音楽も有名だよ』
『浜松城行くの?』
『大学で線引き貸してって言ったら通じなかった思い出』
『だもんで、可愛いはど正義でしょ』
視聴者の中にも浜松出身者が多くいた。
「どやべーら? ばかかわいい?ぶっさらう?線引き?」
メイドが不思議そうに尋ねる。
「ここの方言みたいですね、「ど」や「ばか」は、すごくって意味らしいです。ぶっさらうはぶん殴るぞ?なのかな。線引きは定規の事らしいです」
レンがネットで調べて答える。
浜松と言えばうなぎ。
一行は浜松駅近くにある、老舗のうなぎ屋でうな重を堪能。
市民たちがずらっと街道に並び、お嬢様一行を盛大に見送った。
――――――
うなぎパインファクトリーへ向かうバスの車内。
窓の外には、かつて賑わっていたであろう商店街の跡が流れていく。
シャッターの下りた店。
人の気配の薄い通り。
新しく建ったのは、ドラッグストアと介護施設ばかりだった。
「……日本の地方って、こういう場所が増えてきてるんですかね。さっきはたくさんの人が来てくれましたが」
レンが、少しだけ声を落として言った。
「少子高齢化の弊害ね。若い子はみんな都会に出て、地元には戻らないじゃない。
こういう地方都市は、インフラは残っているのに、若い人がどんどんいなくなって、年寄りだけが残るの。浜松はまだマシな方よ」
博識な女神こずえが説明する。
――――――
「視聴者の皆さん。ここからは、うなぎパインファクトリー見学です」
うなぎパインファクトリー。
工場内は、清潔で、明るく、どこか楽しげだった。
ガラス越しに流れる製造ライン。
規則正しく並ぶ、あの細長いお菓子。
担当者が一行を案内しながら説明する。
「お嬢様、こちらが、浜松銘菓・うなぎパインでございます」
「うなぎ……パイ……ン?」
お嬢様が、少し考えるように呟いた。
「実は、うなぎパインには“夜のお菓子”という別名がありまして」
その瞬間、
女神こずえの目が、きらりと光った。
「夜のお菓子?」
担当者は慌てて続ける。
「え、ええとですね。これは“夜に家族団らんで食べてほしい”という意味でして――」
「精力がつくから夜のお菓子じゃないの?」
女神こずえが、悪意なく、純粋に聞いた。
「い、いえ! それは誤解でして!」
担当者は慌てて否定する。
『でも、なんかそういうイメージあるよね』
『俺もずっとそう思ってた』
『うなぎ=精力がつくみたいにね』
『昔は子供は食べちゃいけないと思ってたし』
担当者は、苦笑いで頷いた。
お嬢様は、そのやり取りを静かに聞いていた。
「……ふうん」
工場見学を終え、
一行は併設されたカフェテリアへ案内された。
大きな窓から光が差し込む、明るい空間。
白を基調にした内装で、テーブルの上にはカラフルなメニュー写真が並んでいる。
「こちらでご自由にお休みください。記念撮影も可能です」
その一言で、空気が一気に緩んだ。
「お姫様、パフェがあるわよ、パフェ!」
女神こずえが真っ先にメニューを覗き込む。
グラスの中には、
アイス、フルーツ、クリーム、コーンフレーク、
――そして一枚、うなぎパイン。
「うなぎパイン、ここにも刺さってるんですね」
レンが苦笑する。
「パフェにうなぎパイン。考えた人ナイスよね」
お嬢様の前に、パフェが置かれる。
透明なグラス。
層になったクリームと果物。
一番上には、細長いお菓子がそっと添えられている。
銀髪の少女が、小さなスプーンですくい、口に運ぶ。
ほんのわずかに目が見開かれる。
「……ほっぺた、落ちる」
その一言に、視聴者は大歓声。
『ほっぺた落ちるいただきました!』 『お嬢様がパフェ食べてるだけで尊い』 『浜松やるじゃん』
『美少女と ほっぺた落ちる うなぎパイン』
『私も今度行ってみようかな』『まさかこの後、お嬢様がパルパル行くの?どヤベーじゃん』
メイドは静かにスマホを構え、
「お嬢様、こちらを向いていただけますか」
と控えめに声をかける。
お嬢様は首を傾げながらも、言われるままにカメラを見る。
カシャ。
写真には、
パフェを前にした銀髪の美少女と、
少しだけ緩んだ表情が写っていた。
女神こずえが、うなぎパインを味わいながらしみじみと感想を言う。
「うん。確かに夜のお菓子って感じがするわね」
「どのへんがですか」
レンが突っ込む。
「なんとなく、そんな感じがするのよね。夜というのは変な意味じゃないの。あなたたち人間は夜の営みで繁栄してきたんだもの。決してイヤらしい意味じゃないのよ」
『さすが、女神様が言うと感じが違うな』
『お嬢様への、だらしない態度を見てるとあれだけど、結構すごい女神様らしい』
『魂を異世界に転生とかできるお人だからね?』
「夜の営みで繁栄?」
お嬢様が静かに口にして、何やらうなぎパインファクトリーをじっと見つめていた。
この何気ない会話が、
後に日本を、さらには世界を良い方向に狂わせることになるとは、
この時、誰も知る由もなかった。
カフェテリアには、
甘い匂いと、穏やかな時間だけが流れていく。
メイドがうなぎパインを大量購入し、一行はうなぎパインファクトリーを後にした。
―――――――――
これはそう遠くない未来のお話。
お嬢様一行がうなぎパインファクトリーを訪問した日を境に、日本はかつての勢いを取り戻した。
最初は、ただの偶然だと思われていた。
「うなぎパインを食べると、妙に元気になるよね」
「疲れにくくなった気がする」
「80歳まで働けるぞい」
このような声が頻繁に聞こえるようになる。
さらには。
――50代男性。就職氷河期世代
「ずっと非正規だったんですが、数年前にやっと正社員になれたんです。でも、もう年だから結婚は諦めてたんですけどね。
ほら、例の夜のお菓子を食べてみたら、なんだか……頑張ってみようとか、そんな気になっちゃって。ええ、今年の春に結婚して、すぐに妻が妊娠して。お恥ずかしいんですが。え、妻ですか?妻は今年48歳です」
――40代夫婦。
「もう諦めていたんですが、まさかこの年で授かるとは思いませんでした。
実はもう2人くらいほしいねって話してるんです。ええ、もちろんうなぎパインは毎晩食べてますよ。この調子じゃ、2人じゃ済まないかも笑」
――60代女性。
「医者も首をかしげてましたけど……元気に無事出産出来ました。はい、もちろん安産でしたよ。うなぎパインはお土産で頂いたのを食べてからですね」
――40代後半の女性。就職氷河期世代。
「専門学校を卒業後、派遣を転々としました。あの頃は生活するのが精一杯で結婚や子供なんてとても。実は春先に、良いご縁があって同じ職場の男性と結婚しました。
はい、2人とも若くもないし、子供は諦めていましたが、噂のうなぎパインをお土産でもらったので食べてみたんです。で、その、夫も私もその気になっちゃって。
ええ、はい、男の子だそうです。今名前をどうするか毎日悩んでいます」
―――20代夫婦。
「うちは子供は3人です。妻の実家が浜松で、義両親がよくうなぎパインを送ってくれるんです。だからよく食べてます。
妻は7人は産むぞって。いやあ、さすがにねえ?でも、あの夜のお菓子食べてると、すみません、なんか、止まらないですよね笑」
202〇年。日本の出生率、3.2。
「夜の営み――夜のお菓子うなぎパイン」は、世界中の少子化に苦しむ、特に先進国に輸出されていった。
※うなぎパインと出生率の関係は科学的に証明されていないが、確かに効果は絶大だった。それは歴史が証明している。
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