1.3
「あと少しすれば退院を許されるよ」
早苗が言うと、少女は大層喜んだ。
早苗が健康と保障されることについてだろうか。いや、違う。
「やっとこの退屈な部屋から出て行くことが出来るのね?」
病室と云う白い箱を出られることに対し、少女は喜びを感じていた。
様子に、早苗は嘆息する。
「嫌なら出て行けば良いだろう?」
「嫌よ。貴方を見ておきたいの」
「見て居ても楽しいことはないだろうに」
「あった。お医者様に人形のように扱われるのは、見ていて楽しい物よ」
思い出したのだろう。少女は笑う。
浮かべられた笑みは、早苗には見ることが出来ない。
カーテンの向こうに隠された顔は、果たしてどのような表情を浮かべているのか。
そもそも、早苗は少女の顔を見たことがなかった。いまも靴が姿を見せるばかりで、少女の姿を見ることは叶わない。
視線に気づいたのか、カーテンが揺れた。
少女はカーテンの向こうで首を振っていた。
「私の顔を見ようとしているのね。まだ駄目よ」
「それはいつになったら許されるのかな」
「本当は、いつでも構わないのよ。ただね、折角だから退院してからにしようと思うの」
退院祝いとして顔を見ることが叶う。
あまり嬉しくない。ただ興味を惹かれる言葉に、早苗は頷いた。
「ところで、自己紹介をしようとは思わない?」
「退院したら、ね」
「名前が分からないから、呼び辛い」
仕方がないと言うように、少女は言う。
「そうね、……メリーが良いかしら?」
「メリー?」
「ええ、メリー」
メリーは頷き、また笑みを浮かべた。
鈍感にも早苗が気付くことはなく、勘付くこともなかった。
三日後、早苗は退院した。




