1.1
宮木早苗は、思い通りにならないことに悩んでいた。
まず、身体が思うように動かない。
手足は上がらないし、声を上げることもままならない。
動かすことの出来ない感覚を始め楽しんでいた早苗は、しかしそれが3分続くと焦りを覚えた。
もしかすると、生命の危機と云う物にに立たされているのだろうか。
不安に思い始めた早苗は、助けを求めようとした。
しかし声を発することが出来ない。
床を叩くと云った行為さえとることは出来ず、いよいよ覚えた感情は恐怖に変わる。
動け、動け。念じるが、身体はピクリとも動かない。
動け。更に念じたとき、動いた物があった。
身体ではなく、動いたのは、携帯だ。
早苗の携帯が音と共に震えだした。
その音に、電話が来たことに気付く。
初期設定された着信音は、設定をしない早苗の携帯に置いてメールと電話の区別をつけることしかしない。
誰からの電話かは分からない。
誰が掛けて来たのだろう。
滅多に掛かってこない電話の相手を想像する。
近頃すっかりと行っていない学校からか、何十日サボったかさえ覚えていないバイト先か。
考えている間にも着信は鳴りやむことはない。
早苗の身体は動かない。電話に出ることは出来ず、無情にもコール音が鳴り続けた。
着信が止み、そしてまた、鳴り始める。
余程重大な用事があるのか、着信は何度も鳴る。
その度に、早苗は電話に出ようとした。
電話に出たい。心の奥底から湧く、欲望とも言うべき思いを叶えられないことに、早苗は苛立ちを覚えた。
どうして動かないのか。まるで携帯依存症の患者のように深く携帯を求め、電話に出られないことに掻き毟りたい程の衝動を感じていた。
――不意に視界が閉ざされた。
真っ暗に閉ざされた視界は、ついに瞬きを止めたということだろうか。
違う。早苗は顔に置かれた、冷たい感触が視界を閉ざしたことに気付いていた。
何か居るのだろうか。一人暮らしをする早苗の部屋に、何者かが現れる筈はない。
鍵は閉めていた。しかし、早苗は視界を覆う物が自然に落ちた物とは思うことが出来ない。
再び恐怖を覚え始めた。
そして、声を聞いた。
「ねえ、どうして動かないの?」
それは少女の声だ。
声を聞き、早苗は安堵する。
部屋に居るのは、男性ではない。
少女の声と強盗と云う物を結び付けづらく、それゆえに早苗は恐怖を忘れた。
「ねえったら、ねえ。モヤモヤするじゃない」
身体が揺するられた。
自分の意志ではないにしろ、それでも久しく身体が動くことを堪らなく嬉しく思う。
少女は身体を揺することを止めた。
無反応を不審に思ったのだろう。なお反応がない早苗に、少女は焦ったように言う。
「殺す前に死なないでよ」
――はて、何と言ったのだろう。
しかし、早苗は首を傾げることが出来なかった。




