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後ろのメリーさん  作者: 10.bi
着信アリ
1/34

1.1

 

 宮木早苗は、思い通りにならないことに悩んでいた。


 まず、身体が思うように動かない。

 手足は上がらないし、声を上げることもままならない。


 動かすことの出来ない感覚を始め楽しんでいた早苗は、しかしそれが3分続くと焦りを覚えた。

 もしかすると、生命の危機と云う物にに立たされているのだろうか。

 不安に思い始めた早苗は、助けを求めようとした。


 しかし声を発することが出来ない。

 床を叩くと云った行為さえとることは出来ず、いよいよ覚えた感情は恐怖に変わる。


 動け、動け。念じるが、身体はピクリとも動かない。

 動け。更に念じたとき、動いた物があった。

 身体ではなく、動いたのは、携帯だ。


 早苗の携帯が音と共に震えだした。

 その音に、電話が来たことに気付く。


 初期設定された着信音は、設定をしない早苗の携帯に置いてメールと電話の区別をつけることしかしない。

 誰からの電話かは分からない。


 誰が掛けて来たのだろう。

 滅多に掛かってこない電話の相手を想像する。

 近頃すっかりと行っていない学校からか、何十日サボったかさえ覚えていないバイト先か。


 考えている間にも着信は鳴りやむことはない。

 早苗の身体は動かない。電話に出ることは出来ず、無情にもコール音が鳴り続けた。


 着信が止み、そしてまた、鳴り始める。

 余程重大な用事があるのか、着信は何度も鳴る。

 その度に、早苗は電話に出ようとした。


 電話に出たい。心の奥底から湧く、欲望とも言うべき思いを叶えられないことに、早苗は苛立ちを覚えた。

 どうして動かないのか。まるで携帯依存症の患者のように深く携帯を求め、電話に出られないことに掻き毟りたい程の衝動を感じていた。


 ――不意に視界が閉ざされた。

 

 真っ暗に閉ざされた視界は、ついに瞬きを止めたということだろうか。

 違う。早苗は顔に置かれた、冷たい感触が視界を閉ざしたことに気付いていた。


 何か居るのだろうか。一人暮らしをする早苗の部屋に、何者かが現れる筈はない。

 鍵は閉めていた。しかし、早苗は視界を覆う物が自然に落ちた物とは思うことが出来ない。

 再び恐怖を覚え始めた。


 そして、声を聞いた。

「ねえ、どうして動かないの?」


 それは少女の声だ。

 声を聞き、早苗は安堵する。

 部屋に居るのは、男性ではない。

 少女の声と強盗と云う物を結び付けづらく、それゆえに早苗は恐怖を忘れた。


「ねえったら、ねえ。モヤモヤするじゃない」

 身体が揺するられた。

 自分の意志ではないにしろ、それでも久しく身体が動くことを堪らなく嬉しく思う。

 少女は身体を揺することを止めた。

 無反応を不審に思ったのだろう。なお反応がない早苗に、少女は焦ったように言う。

 

「殺す前に死なないでよ」

 

 ――はて、何と言ったのだろう。

 しかし、早苗は首を傾げることが出来なかった。

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