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悪役令嬢は、昨日隣国へ出荷されました。  作者: ねこたまりん
業務日誌(二冊目)
12/24

(2)素案作成

 城の厨房では、料理長のゲイソンと、部下の料理人たちが、晩餐の支度のために黙々と手を動かしながら、念話(テレパシー)で騒がしく議論していた。


『物作りといっても、色々あるよな』


『お嬢は何を作りたいんだろう』


『わからん』


『帝国に来て、なにか触発されるようなことがあったのかな』


『ないだろ。まだ数日だぞ?』


『城買って、アレが夜中に来襲しただけだもんな』


アレ(皇子)がきっかけってことは?』


『なぜそう思う』


『リビーに恋について聞いてたし』


 数人の包丁が、まな板を激しく乱打した。


『気持ちは分かるが肉を挽肉にするのはやめろ。メニューが変わっちまう』


『恋などとは認めん。アレはアオグロマダラドクヤガエルの姿煮だ』


『だとしても、そういうエグい感情を抱いたことで、癒しの物作りを求めるって線は、あるんじゃねーか?』


『それはあるな』


『うむ』


『そういうことであれば、我々厨房チームとしては、癒し系の物作りの路線で企画案をだそうと思うが、どうだ』


『賛成』


『賛成』


『賛成』


『制作物の具体案は?』


『お嬢人形』


『却下だ。作っても売らせんぞ』


アレ(皇子)が買い占めそうだしな』


『うちの人間だけの限定販売で』


『一考に値するが、お嬢が認めんだろう』


『商売にならんしな』


『菓子はどうだ』


『いいな。俺たちの出番が増える』


『そういえば、うちの菓子職人はどうした』


『アデラの奴なら、アレ(皇子)の監視で午後から帝都に飛んでるぜ。晩餐前には交替して戻る予定だが、その前に貴腐人倶楽部に寄るとか言ってたな』


『あいつもアレの影響で変なものにハマっちまったよな』


『いや元からだろ?』


『ではアデラも交えて晩餐後に企画を煮詰めることにする』


『了解』




 裁縫室では、数名の侍女が黙々と繕い物をしながら、念話で姦しく話し合っていた。


『厨房組がお嬢人形を企画案に出しかけてたわよ。ゲイソンに却下されてたけど』


『お嬢人形! あたし作りたい!』


『私も!』


『とりあえず作るのは決定ね。非売品で。事業には出来ないから、別の案を出さないと』


『だね。どうしようか』


アレ(皇子)の人形なんてどう?』


『あー、ありかも。あの変態皇子、なぜか帝都じゃ人気らしいし』


『アレのどこが良いのかね』


『見た目でしょ』


『目つきがキモいじゃん』


『お嬢を見てないときなら、それなりよ』


『まあ人気があるんなら、作ったら売れるわね』


『でも作りたくなーい!』


『あたしもー!』


『ていうか、帝国に販売許可もらうのとか、面倒じゃない?』


『アレっぽいけどアレじゃない人形なら、許可いらないでしょ』


『架空の人物ってこと?』


『あ、あの腐女子の妄想絵巻物にちなんだ架空のカップル人形なんか、どうかな』


『いいかも! 貴腐人層に売れるわよ!』


『どうせなら秘密倶楽部と提携したいわね』


『アデラに繋いでもらおうよ。あの子、正式に会員になったみたいだし』


『あそこって高位のお貴族様の集まりでしょ。アデラってば、どうやって入りこんだんだろ』


『一番高位の方にアレ(皇子)のネタを大量に持ち込んで、取り引きしたんだってさ』


『やるじゃん、アデラ』


『じゃ、うちらはそれで決まりね』


『量産するぞー!』




 武器庫では、警備班の会合が無言で行われていた。


 周囲は完全に無人だが、アレクシス皇子による盗聴を避けるために、彼らも念話で議論しているのだった。



『野郎が集まって無言で座ってるのも不自然だし、武器の手入れのフリぐらいしようぜ』


『別にアレに聴かれても構わん気もするがな。どうせ今はろくに手出しできんだろうし』


『戦争の火消しで忙しいんだっけ?』


『お嬢のためにな。いい心掛けではある』


『変態だけどな』


『で、俺らはどうするよ』


『厨房組は菓子で、裁縫班はアレの人形か』


『武器製作は、微妙だよな』


『ダメだな。余計な火種になりかねん』


『お嬢と荒事を繋げるのは無しだ』


『武器のミニチュアなんかどうだ?』


『玩具ってことか?』


『大人でも好きな奴はいるだろ。聖剣マニアとか』


『そういや、アレ(皇子)って聖剣持ちじゃなかったっけ。薔薇の乙女を守護するとかいうヤツ…名前が出て来ん』


『プリンセスローザセイバーだろ』


『それだ』


『誰が作りやがったんだ、その聖剣』


『神話の時代の遺物って話だぜ』


『生まれ変わっても、ずっと持ってんのか…』


『変態の闇が深いな』


『その変態聖剣のミニチュア拵えて、裁縫班のアレ(皇子)人形に持たせるか』


『あんまり気乗りはしねえが、他に案もねえだろ』


『ねえな』


『じゃ、それで』




 城の庭園では、侍女のリビーと従者のネイトが念話で話し合っていた。


『発想はともかく、みんな肝心なことを忘れてるよな』 


『そうなのよ。ローザ様は、ご自身の手で作ることを考えてるみたいなのに、どの班も自分らだけでやろうとしてるじゃない。あとで絶対揉めると思う』


『だよな。皇子の人形をお嬢が手作りするとか、ないだろ』


『ローザ様は案外やりたがるかもだけど、ゲイソンとか、絶対触らせないでしょ』


『やりたがるのか?』


『うん。ローザ様、子どもの頃に王子様とお姫様の出てくる絵本が好きだったって、マーサさんから聞いたことがある』


『なら、アレの出てくる怪しげな本じゃなくて、その絵本の人形を作ったらいいだろ』


『あ、そうだよね。それ提案してみよっか』



 その時、ガゼボでローザの相手をしていたマーサから、二人に念話が飛んできた。


『あの絵本はダメよ』


『なんでだよ、マーサ。健全な話なんだろ』


『作者がね、帝国の皇子なのよ』


『って、まさかアレか?』


『アレ本人じゃないんだけど、ずっと昔のアレクシス廃皇子ていう人よ』


『結局アレじゃねーか。まったく、無駄に手広い野郎だな』


『ほんとよね。別の絵本か小説で、ローザ様がお気に入りのものがないか、お聞きしてみるわ』


『だな。俺もお嬢が気に入りそうな本でも探してみるわ』





 その頃、帝都の某所では、遠見の魔術を使用中のアレクシス皇子が、おかしな顔をしていた。


「なんか、城中がほとんど無言で不気味なんだけど…」


「念話を使っているのでは?」


「そうか、彼らなら、それくらい出来るよな」


「使用人全員が、帝国の暗部の人員よりも有能って、凄まじいですね…」


「戦闘能力はもっとすごいよ。密に連携されてしまうと、僕が百人くらいいても、たぶん勝てないと思う」


「四十人ほどで、某国の何百倍の戦力ですか…」


「まあ、だからこそ安心してローザを任せられるんだけどさ」


「殿下もそろそろ、手の者を増やされてはいかがでしょう」


「必要ないよ。僕にはテオがいてくれば十分さ」


「ご信頼いただくのは光栄なんですけどね」


「下手に人を増やして、お荷物になっても困るだろ」


「私の残業時間が長すぎることにも、多少ご配慮いただけると嬉しいんですが」


「…苦労かけてごめん」



 盗聴の魔術によって皇子たちを監視中のアデラが、嬉々としてネタを書き取っていること知る者は、誰もいなかった。



「僕にはテオがいてくれれば……くふふふふ。鬼畜皇子がマジメな秘書君にデレるとか、美味しいすぎるって。寝台で抱き合う二人の姿絵に添えれば、イケおじ騎士団長との組み合わせより、売り上げが伸びるかも! お嬢の新事業に、虹色絵巻プロジェクトも加えてもらわなきゃ!」


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