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88.エピローグ

 こうして、戦いは終わった。

 感情大陸崩壊を企む黒幕、『与楽』アミューズ、プレスレス、ルプレスは死んだ。

 黒幕の一人という扱いの私も、感情大陸を滅ぼすつもりはもうない。

 全ての元凶である原初の王は、巨大軍艦の進行を止めず、そのまま去っていった。



 今頃、巨大大陸についているだろうか。

 どんなことがあろうとも、人生を楽しむ彼女ならば、どこにいても幸せだろう。


 二度と、感情大陸には戻って欲しくないものである。




 あの後、巨大軍艦にいた巨大軍艦にいた人々は、『驚嘆』ワンダーの作り上げた黄金の船に乗り、『嫌気』リパグーの浮遊魔法によって感情大陸は運ばれた。


 楽国民を爆弾人間という兵器として数えていた原初の王は、戦争に使う予定だったのだ。

 だから、楽国にいた住民は皆、巨大軍艦に避難していた。するように彼女が仕向けていた。


 私は楽国を沈めたが、そこはもぬけの殻だったわけだ。

 



 他の連中も、感情大陸へと戻っていった。

 いつもの日常が、帰ってきた。



 怒国は、以前よりも開放的になったようだ。

 無駄な戦争が起きないように、『論争』アーギュを始めとした頭脳組が国を超えた機関を作ることにしたらしい。

 怒王や四怒将達は、戦闘を求めて各地を歩き回っているようだ。



 恐国は、相変わらず姿を表さない。

 そういった演出で、恐怖を高めているのかもしれない。だが、恐国側から手を出してくることはない。今のまま、鎖国なりの付き合いをしていくのだろう。



 問題の楽国は、真の楽王が返ってきたことにより、復興に成功した。楽国のあった領土は沈んでしまったが、楽国民は気にしていなかった。人生を楽しめという楽観的な考え方をできるのは、羨ましい限りだ。

 代わりに、悲国のあった最南部の土地に楽国を建設することにしたそうだ。ミザリーもまた、「誰も使わないよりも、使った方が死者も喜ぶ」と言っていた。

 十六年振りに、感情大陸最南部は活気に満ち溢れた。


 嫌国は、楽国との交流を取り戻し、再び内紛が起きた。裏通りと表の軍の抗争は未だ続き、お互いを忌み嫌いあっているらしい。

 リべレは裏通りを率いて、革命を起こそうとしている。親子喧嘩が本格的に始まりそうだった。



 私は…、



 楽国が沈んだ、悲惨な海の上にいた。




 感情大陸崩壊は、感情大陸の王族が手と手を取り合って止めた。そういう英雄譚として後世に語り継がれるだろう。

 巨大大陸から来た異国人の暴走を止め、世界は平和になった…、そういうシナリオだ。



 リベレも、嫌王も、怒国民達も、恐国民たちも。全員が、感情大陸を守るために戦った。



 だけど、私がやったことは、感情大陸を崩壊させないと決断しただけ。マイナスがゼロに戻っただけだ。

 いや、それだけでも未だにマイナスか。楽国は沈んだわけだし。





 そういうわけで、戦争が終わった後、私は一級犯罪者として注目を集めることになった。

 大陸崩壊に王手をかけた、極悪人。

 誰しもが、忌み嫌う最悪の人間。


 まあ、他人の評価なんてどうでもいいんだけどね。




「デスペア様、日が暮れますので、本日は帰りましょう」

「ああ、うん」



 故に、罪滅ぼしの日々だ。

 家来のように着いてきてくれるミザリーと共に、私は沈んだ楽国の資源の回収を行なっていた。

 有り余る魔力を使い、海を裂き、沈んだ住居から大切なものを回収する。

 思い出の品だったり、金銀財宝だったり、片っ端から回収する。

 

 幸い、悲国民である私たちは水を操る魔法に長けている。この罪滅ぼしは、私たちにとってぴったりだった。出張悲国と言ったところか。



 ミザリーの放出させる水流に身を任せ、湖を通り過ぎる。そのまま、嫌国に帰還する。

 


 嫌国は以前と変わり無い姿のまま、デスペア達を迎えた。

 嫌国に遺品を届け、そのまま楽国に流してもらう手はずだ。

 私たちは、嫌国の裏通りで暮らしている。犯罪者が暮らすにはちょうどいい空間だし、始まりの場所でもある。

 スタンもまた、その家で暮らしていた。今は、ミザリーと三人で生活を行っている。

 


 今まで殺した人たちの、十字架は未だに脳内に現れる。彼らの死を、私は受け入れた。

 想いは受け継いだ。その上で、自分の思う道を生きていく覚悟はできた。



 私は前へ進む。見殺したはずの男の元へ、歩いていく。

 金髪の少年は、軽く笑った後に私を向かい入れた。


 その後はいつも通りだ。軽い悪態をつかれたり、こちらが反発したり。喧嘩なんて毎日していた。


 それでいい。

 それがいいのだ。




 十字架を、罪を受け入れた少女は、前に向かって進む。消えることのない呪いが付きまとう、悲劇だとしても。


 それでも、二度と彼女は後悔しないだろう。

 もう、逃げることはない。




***




 感情大陸近海の海。

 巨大な戦艦は、ゆっくりと進んでいた。異常気象を乗り越え、道を切り開く。目的地に向かうそれは、戦争の始まりだった。



 だが、その巨大な船に乗る船員の影は少ない。自動的に進む技術が無ければ、船を動かすことすらできない人数だった。



「あはははは」




 女が、広い甲板に寝っ転がっていた。彼女は空を見ながら仕切りに笑い、感情大陸への別れを告げる。


 何が失敗だったのか考えて、どうでもいいと投げ捨てる。それよりも、自分の予想を超える展開に満足していた。


 予備(スペア)は失われた。アミューズも死んだ。それでも、彼女が止まることはない。


 原初の王は、巨大軍艦四階に隠していた数々の兵器を思い出し、再び笑う。

 失敗した。だが、兵器が全て失われたわけではない。

 彼女が感情大陸に辿り着いてから、数百年は経過している。一度の失敗など、誤差でしかない。



 巨大大陸への戦争は、問題なく行う。

 予備が失われたからといって、原初の王の計画に支障はない。

 長寿の彼女にとって、十六年など一瞬に過ぎない。そこで得たもの、失ったものは笑い話にしかならない。



 だけど、デスペアに言われた言葉を時折思い出す。

 彼女の表情も、決断も、原初の王の心に刻まれていた。



「愛が欠けている、か」



 巨大大陸にいた時に、幾度となく言われたセリフだった。

 人に対しての興味が薄く、快楽主義だった原初の王は誰からも理解されなかった。共に想いを誓った仲間も離れていき、孤独が当たり前になっていた。


 誰からも理解されずに、一人で生きていく。それでも充分楽しかった。


 だからこそ、絶望の化身を召喚したかった。デスペアは最高のおもちゃになると考えていた。

 そのデスペアから、巨大大陸の住民と同じことを言われるなんて、皮肉もいいところだ。



ーーそれにしても…



 いい目をしていた。デスペアの黄金と藍色の瞳は、覚悟の決まった大人の目をしていた。愛を知っている、人間の目だ。


 それを見れただけで、満足だったかもしれない。原初の王は自分に折り合いをつけ、後ろに立つ男に話しかける。



「何で、君は付いてきたんだい?」



 巨大軍艦にいる、二人目の人物。銀髪の中年は、不敵に笑った。


 『狂喜』エクスが原初の王に従う理由はない。彼は、巨大軍艦一階に監禁されている楽王を人質に取られていた。故に、原初の王の護衛として十六年間過ごしていた。


 楽王は解放された。故に、エクスは自由の身だ。



 彼が、巨大軍艦に残っていたとは思わなかった。意味がわからない。

 だけども、原初の王は笑みが溢れた。理解できないこの感情は、何なのだろうと不思議に思った。



「それがわからないうちは、王様もまだまだ子供ですね」

「あ、馬鹿にしたなー!」


 

 男女二人は、巨大大陸へと進む。



 これは余談だが、『狂喜』エクスは、大陸でも猛威を振るった。拳銃や大砲、地雷、核爆弾。あらゆる未来兵器に剣一つで挑み、勝利を収めた。原初の王達の戦争は、始まったばかりだった。

 






 これは、仲間を殺すことで強くなるという特別な能力を持った少女の悲劇の物語である。

 悲劇の先に、彼女が何を想ったか。



 それは少女にしか、わからない。


これにて終了です。

約半年間ありがとうございました。



評価して頂けると、飛び跳ねて喜ぶのでよろしくお願いします


では、またどこかで会う日まで。



露木天

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