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結託 ―修学旅行編―

 出口で待っていると二人が返ってきた。


「やだぁ…… もう帰りたい……」


 朱ちゃんの顔色が悪い。初めて見る朱ちゃんの姿だった。


「私の勝ちだね?」


 藤本さんが勝ち誇った笑顔を朱ちゃんに向けている。


「だ、大丈夫? 朱ちゃん」


 私は持っていたお茶を朱ちゃんに渡した。

 朱ちゃんの違う顔を知れたのが少しうれしかった。


「お前、無理すんなよ……」


「うるさいわねえ…… はぁ、はぁ」


「ゾンビみたいな声出してんじゃねえよ。絶叫系はもうやめとけ!」


 立華君が朱ちゃんに注意している。

 しばらく朱ちゃんを休ませてから私たちは移動する。


 それからはゆっくり系のアトラクションだったり、キャラクターと写真を撮ったりして過ごした。


「んんん~。かわいいいいい~」


 キャラクターと抱き合ってる朱ちゃんはすっごい笑顔。

 朱ちゃんはすっかり元気を取り戻したみたい。


「ちょっと、アンタ。コレ写真撮って」


 そう言って朱ちゃんは立華君にスマホを渡す。


「ほら、一紗も」


 私たち二人はSNSにアップする用にといって何枚か写真を撮ることになった。


「いやあ。お前ら並ぶとやっぱりアイドルだな」


 私たちのスマホを持った立華君が感心する。


「そうだねぇ。やっぱりかわいいわ」


 藤本さんも顎に手を当てて立華君に同意する。


「しょうもないこと言ってないで早く撮りなさい!」


 立華君に命令するときと写真に写る時の変貌具合には私ですら驚いたのは黙っておこう……


 それからお昼ご飯を済ませ、朱ちゃんが大丈夫そうなアトラクションを中心に回った。


「よし、次はこれね」


 朱ちゃんが指さしたパンフレット上の地図に描かれているのは「ゴーストマンション」というアトラクション。


「ちょっと私トイレ」


 藤本さんが呟く。


「あれ? もしかしてアナタ怖いのかしら?」


 朱ちゃんはさっきの復讐かというぐらいに藤本さんの背中を煽り立てる。


「はあ? そんなわけないじゃん」


 振り返った藤本さんの声には力がこもっていた。


「お前、声に対して、脚ガクガクじゃねーか!」


 私も藤本さんの下半身に目を移すと、彼女の脚はぷるぷると震えていた。


「だってぇ。怖いもんは怖いんだからしかたないじゃん!」


 朱ちゃんとは違って素直みたい。


「へえ? じゃあさっきのはチャラね? 不戦敗だもの」


 朱ちゃんはとっくのとうに臨戦態勢のよう。


「なんで? 佐々木さんあんなに悲鳴上げてたじゃない!」


「じゃあ、『ゴーストマンション』乗らないのね?」


「はあ。さっきと同じ流れじゃねえか」


 立華君は手の平を空に向けて呆れている。

 私があわあわしているうちにまた二人は走って行ってしまった。


「しょうがねえ。俺たちもなんか乗るか」


 掲示板を見るとさっきのジェットコースターより待ち時間が少し長いみたい。


 立華君について行った先で見た看板には「ピーさんのはちみつゲット」と書かれていた。

 二人が行った「ゴーストマンション」とほとんど同じくらいの待ち時間だった。


「一紗は藤本さんのことどう思ってるの?」


 待機列に並んでいると立華君が話しかけてきた。


「……どうって、どうも思ってない」


「最初のきっかけは俺がライブに連れて行ったことだけど、藤本さん一紗は仲良くなりたいと思ってると思う」


彼女と私ではやはり『当たり前』が違うのだ。そんな人と『友達』になれるとはどうしても思えなかった。


「私と藤本さんじゃ、釣り合わないよ」


「俺は……藤本さんとは友達だよ」


 それを聞いて私はどうしてか理解できなかったのだ。なぜなら立華君も私と同じだから。


「どうして……」


「ほんとは俺も藤本さんとは友達関係かどうかまだ分からん。でも彼女に聞いたら多分俺のこと友達って言ってくるはずだから」


 私はそれを聞いて言葉を失った。


「だから、一紗も多分藤本さんとなら友達になれる」


 半信半疑な私はそれを聞いてもピンとこない。


「なんで藤本さんはそこまで……」


「それは俺にも分からん」


 私も立華君もそれで口を閉じてしまった――。


 しばらくして口を開いたのは立華君だった。


「友達の言葉、信じてよ」


 少しだけ信じてみてもいいかもしれない。


 それからはそのアトラクションに二人で乗った。キャラクターの見た目からしてゆっくり目な乗り心地だと思っていたけど、ところどころで急発進や急停車があって少しだけびっくりした。


 出口を出て朱ちゃんたちと合流する。


「今回はアタシの勝ちね」


「はいはい。分りましたよ」


 朱ちゃんと藤本さんがいつの間にか仲良くなっていたのが少し気になった。


「ねえ、少し休憩にしない?」


 朱ちゃんが提案してみんなそれに頷く。


 ――フードコートに着いて席を確保する。


「ほら、行くわよ」


「えー? 俺?」


 私たちそれぞれの注文を聞いた朱ちゃんは立華君を連れて席を立って行った。


「一紗ちゃんは、立華君とデートどうだったの?」


 藤本さんはにやにや顔で尋ねてくる。


「デ、デートって……」


「顔、赤いよ?」


 やっぱり藤本さんは人を煽るのが得意みたい。

 私が下を向いて黙り込んだせいで二人の間には沈黙ができてしまった。


 さっき立華君が言っていたことを聞いてみることにした。


「藤本さんはどうして私にそんなに構うの?」


 一呼吸おいて藤本さんは口を開く。


「構うって。私は一紗ちゃんのこと好きだから」


 藤本さんは苦笑を浮かべながら話す。


「さっきも言ったけど、一緒にいたい相手は私が決める。それだけじゃん」


 それを聞いて私はさっきの半信半疑が少し信じる方に傾いた気がした。


「じゃあ……私と……友達になってくれますか?」


 それを口に出すのは立華君の時よりもよほど勇気が必要だった。

 それを聞いた藤本さんの顔はきょとんとしている。


「私たち、もう友達でしょう?」


 一休みも終わってフードコートを出るとすでに空は暗くなっている。

 パレードを見るなら最後に乗れるアトラクションはあと一つ程度だ。


「やっぱりここに来たからにはあれは外せないよね」


 みんなの視線が藤本さんに向く。

 彼女の指さした方向では上方からライドが落ちてきて着地地点で派手な水しぶきがあがっている。


「そ、そろそろ、パレードの時間じゃない?」


 朱ちゃんの首がそれる。


「パレードはもっと後だな」


 立華君が朱ちゃんに答える。


 パレードはこの後でも十分間に合う。


「じゃ、あっちのライドの方が、す、空いてるんじゃないかしら」


「アレは二時間待ちだよ?」


 藤本さんははっきり言う。

 藤本さんの嗜虐的な笑顔は今朝の比じゃないくらい楽しそう。


「やっぱり『スプラッシュリバー』は乗っておかないとだよねー?」


「やっぱりメインだしな」


「やっぱり乗りたいかも」


 私たち三人は目配せして結託する。ごめんね朱ちゃん。許して。


「ああーもう! 分かったわよおおおお」


今日も読んでくださりありがとうございました。

大きな起伏はありませんでしたがひとまずはイベントとして区切りがつけたのかなと思います。


次回も修学旅行は続きます。


出来ればでよいので感想、評価、ブクマなどよろしくお願いいたします。

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