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涙と甘え ―修学旅行編―

今回で修学旅行編は終わります。

 昨日は偶然集まった四人で園内を回って、俺が当初思っていたよりも非常に有意義な修学旅行となったと言ってもいい。

 

 単純に四人といて楽しかったというのもそうだが、俺が藤本さんに協力してもらっている計画に関しても結果を出すことができたのだ。

 

 紆余曲折あったが、一紗と俺は友達となった。

 

 この修学旅行を機に俺もクラスの友達を作って一紗にそれを見せるという狙いがあったのだが、一紗がそもそもぼっちな人となら友達になれるかもしれないというラッキーがあり、それをせずして一紗は友達を作ることができたのだ。

 

 俺が見ている限りだと、一紗は最後のあたりは藤本さんとも親しげに話していているようだった。


 少なくとも一紗が最初に持っていた「学校の友達なんていらない」というスタンスは崩すことができたはずである。


 修学旅行最終日に予定されているのは日本科学未来館の見学である。

 昨日のディ〇ニーランドとは打って変わって修学の意味合いが強いようだ。


 今日の見学は一日目、二日目と違ってしっかり班行動するようにと定められていて、最後に気に入った展示に関するレポートも提出する必要があるので生徒たちのテンションはこれまでに比べ大人しい。


 俺は実に一日目の浅草ぶりにこの班とともに行動している。

 

 颯介や班のメンバーを見ると心なしか気が抜けているように感じる。

 一日目の例のラブラブ大作戦も今はなされていないみたいだ。

 何が起きているのか颯介に聞こうにも班の女子に囲まれていて話しかけづらい。


 俺が四人の後をとぼとぼついて行く、そんなような状態だった。

 ちょうど今、彼女らは見学者も実際に体験できる迷路型の展示に入るようだ。


「悪い。ちょっと俺トイレだから、三人で先入っといて」


 颯介は一言いうと女子三人の背中を押して、こちらに向かってきた。


「よう、久しぶりだな」


 颯介の顔はいつもよりも少しさわやかさが増している。


「たしかに、久しぶりだな」


 未来館に入場してから颯介と話すのは初めてだった。


「どうしたんだよ、暗い顔して」


「暗い顔なんかしてねーよ」


 特に嫌な出来事があったわけではなく、自分でも暗い顔をしているつもりなどさらさらなかった。


「お前、なんかあったのか?」


 さっき感じた班の雰囲気の変化について聞いてみる。


「ああ、波多野さんと付き合うことになった」


 うすうす感じてはいたが一日目からかなり二人の雰囲気は良かったのだ。


「そうか……」


 おめでとうの一言ぐらい思いついてもよかったのだが、そんなしょぼい相槌しか出てこなかった。

 俺の胸では藤本さんのことが小さな楔となって心の端っこに引っかかっていたのだ。


「お前、藤――」


 颯介に藤本さんの気持ちを知っているのか確認しようとしたが、颯介に遮られる。


「タツは好きな子いるか?」


 颯介は清々しい声で尋ねてくる。


「は? 急になんだよ」


「俺は波多野さんのこと好きだ」


 声は決して大きくないがはっきりとした颯介の言葉は俺の耳にスッと入ってきた。


「そうか」


「それだけは分かっていてくれ」


 そう言い残すと颯介は展示の方へ向かっていった。


 その背中を見ているとスマホが鳴った。

 メッセージを確認すると一紗からのものだった。


「藤本さん、昨日の夜から元気ないみたいだけど何か知ってる?」


 そのメッセージを見た瞬間、心臓の中の刺し傷から楔の錆がじわじわ広がってくる。

 その錆が広がりきると、底のない穴に突き落とされたような後悔の念と強烈な罪悪感に飲み込まれた。


「俺のせいだ……」


 迷路型の展示の見学が終わったようで颯介と女子三人が出口から出てきた。中で合流したようだ。


「タツ、行くぞ」


 その声のする方向を向くと今さっき見た颯介の顔が目に入る。

 それを見ると、俺の脚は勝手に動き出していた。


 俺は走り出すことができた自分自身に安心した。

 連絡してから会えばいい。別に急ぐ時間的制約はない。

 そんなことも頭では分かっていた。

 しかし、できるだけ早く彼女に謝罪しなければならないと本能的に感じていたのだ。


 館内の中を捜す。

 俺が居た一階付近には同じ制服の生徒たちが居たが、全員ではない。

 俺は二階に上がり片っ端から館内を見て回った。

 十五分ぐらいだろうか館内を捜し続けた。

 しかし、藤本さんの姿は見つからなかった。

 

 俺はもと居た迷路型の展示の目の前に戻ってきていた。

 その付近には俺と同じ制服の学生はもういないようだった。

 

 しかし、その中に一人だけベンチに座っている我が校の制服を着たおさげの女子生徒の後ろ姿が確認できた。

 

 俺は確信をもってその女子生徒に近づく。


「こんにちは、立華君」


 そう言って笑う彼女は、昨日見た彼女の笑顔のどれにも合致しなかった。


「藤本さん……」


「どうしたの? 一人で」


「その言葉、そっくりそのまま返すよ」


「座ったら?」


 俺も彼女の隣に腰を掛ける。

 周りには同じ学校の生徒はいないが、一般の人は展示を見学している。


「あの――」


 俺は本題を切り出そうとする。


「別に気にしてないよ」


「俺、藤本さんに謝らないといけない」


「謝られることなんてしてないじゃん」


「いや、そうじゃなくて」


 彼女は困ったような顔をして俺に視線を向ける。


「颯介とその……相手の人が結構いい感じだったの知ってたんだ」


「それ、関係ある?」


 藤本さんは前へ向き直る。


「昨日言ったよね。私が一緒にいたい相手は私が決める。私が三人を誘ったの」


 違う。それは俺に都合の良い提案で俺が藤本さんに甘えていたのだ。

 もし、一日目に俺が知っていることを伝えていれば彼女はそんな提案をすることは無かったはずだ。

 心の楔を抜くことはできないまでも何かしら対処のしようはあったはずだ。


「全部、私の自業自得。私がもたもたしてたから先を越された。それだけ」


 一紗のためとか都合のいいことを言っておいて藤本さんのことを引き合いに出して、彼女を利用していただけ。


「俺は……」


 何が「藤本さんは俺のことを友達だと思ってくれいてる」だ? 自分で自分の言葉に笑ってしまう。矛盾しているにもほどがある。

 さっき俺は後悔をしていると言った。それもおかしい。それは彼女のためではなく俺のための感情だ。


 どこまでも俺は俺のことしか考えていない。

 彼女は自分の恋心を差し置いてまで一紗や俺のことを考えていてくれていたのに。


「俺のせいだ……」


「だから――」


「俺のせいなんだよ!」


 それを機にあたりは静かになる。一般の人も自然とそのエリアからいなくなってしまった。


「じゃあ、なんで言ってくれなかったの?」


 藤本さんの声音は今までより繊細になる。


「それは……」


 あの時の俺は彼女の話を聞いておきながら、他人事だと思って何も考えていなかった。

 くだらない野次馬根性で彼女の恋の話を貪っていた屑だ。


「ごめん」


 そんな理由が通用するはずがなく、俺は謝ることしかできなかった。


「どうして言ってくれなかったの? ねぇ。なんで?」


 彼女の声は次第に大きくなっていき、喉からは漏れるような声が出てくる。


「どうしてなのよ!」


 彼女の目尻からは悲しみか怒りかその両方か、おそらくそれらがこもった大粒の涙が溢れ出す。


「ねぇ? なんで!」


 彼女の拳が俺の胸を叩く。

 力は全く入っていないのにも関わらず、その一発一発が心臓に響いて痛い。


「ごめん……」


 俺は同じ言葉を何度も繰り返すことでその痛みに耐える。

 もっと殴ってほしいのに、彼女の拳は次第に弱くなっていく。


 そうしているうちにいつの間にか彼女の顔が俺の胸に埋っていた。


「分かった」


 そう一言発すると彼女の手は完全に止まった。


「え?」


「しばらくこうしてて」


 俺はそれを受け入れてしまう。


「一つだけ、お願い」


 俺はそれを受け入れてはいけない感覚だと頭では分かっていたのかもしれない。


「また、『綾乃』って呼んで」


 俺はまた彼女に甘えてしまったのだ。


今日も読んでくださり、ありがとうございました。

ようやくラブコメに入れるかなと思います。


出来ればでよいので感想、評価、ブクマなどいただけるとやる気が出ます。

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