48 ヤヨイの心の中
相手を探しているヤヨイの元に飛び込んでいった。
「ハァ……ハァ……」
俺を見ても何も反応もない、俺を認識できてないようだ。
「どうするのロジカおにいちゃん!?」
セリルが不安そうに俺に問いかけてきた。
命令も弾かれてしまうくらい強く操られてるってことはそう簡単には正気には戻せないだろうけど。
「ヤヨイ、俺だ! ロジカだ! 分からないのか!?」
俺の声を聞き、ヤヨイは俺に向かってきた。
通じた……?
そう思ってつい油断してしまった……
ヤヨイは爪を振りかざし俺の胸元を引き裂いた。
熱い……
心臓の鼓動が強くなったような感覚がする。
胸元を見ると、地面に血溜まりができるほど出血していた。
「ロジカ逃げて! その出血量はまずいよ!」
「すぐ回復させてあげるね!」
「来るな!」
俺の元に来ようとするフランを制止した。
こんな出血どうでもいい。
回復もいらない。
ヤヨイを正気に戻させるんだ。
「みんな、来ないでくれ。 俺がヤヨイを元に戻す」
ヤヨイと再度向き合った。
まだ息を切らせてて見ていていたたまれなくなってくる……
「ウァァァァァ」
ヤヨイがまた爪を立てて引き裂いてきた。
→ 《命令する》
《全力で攻める》
《セーブして戦う》
《守りながら戦う》
またメッセージが表示された。
そんな状態じゃないだろ……
テイムした相手がテイムした相手を攻撃してくるっていうのはそれだけ異常事態でメッセージが混乱してるのか……
ヤヨイの爪が肩を切り裂いた。
打撃というよりも斬撃に近いような音が辺りに響いていく。
「ヤヨイ……そんな攻撃をしてたら身体を痛めるぞ」
実際ヤヨイの指は俺を攻撃してボロボロになってきている。
「ウワァァァァ!」
ヤヨイは両手の爪をたてて俺を切り裂いてきた。
こんな必至になって攻撃してきて……
指ももう骨折れてしまってるんじゃないか……
自分の身体の痛みよりも不思議とヤヨイのことへの心配が優っていた。
《命……令る》
《全力……で攻める》
《セー……て戦う》
《守りがら……戦……》
またメッセージだ。
もう、まともに表示もされてない。
「ウワァァァァァァァ!」
ヤヨイがおおきく振りかぶって切り裂こうとしてくる。
切り裂かれる前にヤヨイを抱きしめた。
「ァ……」
これなら距離が近過ぎて攻撃できないはずだ。
ヤヨイは俺を引き離そうと暴れてはいるが、引き離されるまではいかなかった。
「落ち着け、ヤヨイ」
「ウウ……アアアァ……」
心には届いてないか……
いや……
《》
《》
《》
空のメッセージがヤヨイの周りにいくつも表示されている。
混乱してるんだ。
《なんで、行ったらいけないんだ!》
ん? どうした?
無数に表示されてるメッセージの中に会話してるような言葉が入っている。
《いいな……ヤマトは自由で》
これは、ヤヨイの心の声か。
溢れてきたメッセージウィンドウは次第に俺に向かってきた。
ウィンドウが俺に触れると俺の中に吸収されていく。
何が起きてるんだ……
ウィンドウがどんどん俺に吸収されていく……
なんだか、意識が遠くなってく……
急に静かになったような気がした。
あれ……森の中にいるはずなのに。
暗い何も無い空間にひとりぼっちにされている。
いつの間に俺は移動したんだ。
ヤヨイのウィンドウがどんどん俺の中に入ってきて、それから……
暗い空間の中にぼんやりと映像が浮かび上がってきた。
その映像の中には、和風な木製の城のような場所で威厳を感じさせる中年の男とそれを囲むように複数の者たちが卓上で食事をしている。
見た感じ、卓上に座っているのは中年の男の子供達か、この者たちもそれぞれ立派な和装をしている。
《ヤヨイ……何度言ったらわかるんだ、城の外は危ないと言ってるだろ》
中年の男がこちらに向かって話しかけている。
これは、ヤヨイの記憶か……
この空間はヤヨイの心の中なんだ。
《そうだヤヨイ、ヒノマルの姫として恥じぬ行動を取ってくれ》
《我々一族が永代に在り続けるために親族にほころびがあってはならないんだ》
《外の世界のことなんてどうだっていいだろ……俺達はこの国のあり方を考えて続けてればいいんだ》
この感じだと、卓上にいる中年の男がヤヨイの父親で、周りは兄弟達か、どことなく面影もある。
みんなから結構言われてたんだな……
映像が切り替わった。
今度は誰もいない部屋の中だ。
誰もいないだけじゃない、何もない小さな小部屋だ。
何も置かれてない部屋で小窓だけ付いている。
映像の中でも部屋を出ようとヤヨイの手が扉を開こうとするが、外から鍵がかかっていて、出られない。
閉じ込められてたのか……
ヤヨイは何度も外へ出ようと、扉を叩いたり押したりするがビクともせずに、そのうち開けようとするのを諦め、何もない天井を見続けていた。
こんな生活を送ってたのか……
これじゃ牢獄じゃないか……
お姫様だって話だったからもっと華やかな毎日だと思ってたのに、ずっと虐げられてたのか……
長いこと天井の映像が続いたと思ったら今度は部屋の中の小窓の外を見始めた。
外は街が一望できる、それなりに豊かな国なようで、活気があって楽しそうだ。
少なくとも閉じ込められているヤヨイの見てる景色からは外はすごく魅力的に感じられる。
外の景色から焦点が街の中の道場に定まった。
道場の中では剣術の稽古をしている。
結構な数の者達が素振りをしている。
あっ……
道場にいる者達の背中に名前が刺繍されている。
ヤマトだ。
剣術の師範をしている男はヤマトだ。




