~暗黒の魔女~ 二章・オットー様の覚悟 「18.そして宴が始まる」
オリバーと仲間たちはノーザリン地方に出現した魔獣を討伐するための旅に出ました。もう少しでノーザリン地方の中心都市レバリーに到着できそうです。
オリバーと仲間たちは降りしきる雨の中をノーザリン方面に向け街道を歩いていました。ハンスがオリバーに話しかけました。
「この辺りではまだ魔獣の痕跡は見られませんね。」
「ああ。禁じられた洞窟が封印されたままであるという以上、今出現している魔獣は強力な合成魔獣である可能性が高い。どんなやつが出てくるかまったくわからないからな…。」
「対応できるか心配ですね。」
「ああ、そうだな。」
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歩き始めて三日目、雨はだいぶ降り方が弱まってきましたが、それでもまだ降り続いていました。荷物を持っていたロジェが仲間たちから徐々に遅れをとりはじめました。どんどん距離が離れて行きます。
「ロジェ?どうしたの?もう少しでレバリーに着くよ?」
ビアンカが心配そうに声をかけると、ロジェは苦痛に顔をゆがめながら言いました。
「足のマメがつぶれてしまいました…。すみません。僕は今までこんなに長く歩いたことがないので…。」
「だから旅は大変だと言ったのに…。」
レオンはため息をつきました。パトリックはそんなレオンを見て苦笑いしています。
「まあ、そう言ってやるなよ。」
「イザベル、薬を塗ってやったらどうだ?」
「わかりました。ロジェさん、足を出してください。」
「すみません…。」
イザベルはロジェに薬を塗ってあげました。
「私も最初、すぐに歩けなくなっちゃったなぁ…。パトリックさんがフランソワに乗せてくれたけど…。」
モニカが言いました。
「私も術を自分にかけていなければ、とても歩けないでしょうね…。はい、これで終わりました。」
「ありがとうございます、イザベルさん。」
「とは言え、すぐに歩かせるわけにもいかないな。ロジェ、エドゥアルトに乗っていいぞ。」
「す、すみません…。」
ロジェはオリバーに言われたとおりにエドゥアルトに乗りました。しかし、エドゥアルトが三歩も歩かないうちにロジェはバランスを崩して落馬してしまいました。
「うわあああっ!イテテテ…。」
「ハハハッ、しょうがないな。ローズ、お前もエドゥアルトに乗れ。ロジェはしっかりとローズにつかまっていろ。」
ローズはギョッとした顔をしました。そしてジロッとロジェを見ました。
「え?あ、あの…?」
「先生に言われたから仕方ない…。さっさと乗って…。」
ロジェは恐る恐るローズの後ろに乗り、ローズの体につかまりました。
「ロジェのやつ、無事に今日を終えられるかな?」
ペーターが笑いながら言いました。
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やがてオリバーたちはノーザリンの中心都市、レバリーに着きました。
「今日はここで一泊しよう。どうやら魔獣が出現した村に着くにはもう少しかかるらしい。無理して歩けば着くだろうがもう日も暮れそうだし、ロジェの足もな…。」
「…足以上に、体全体が限界であるようだが…。」
アリスがロジェを見て言いました。エドゥアルトの上のロジェはなぜかボロボロでした。
「ハハッ、馬に乗るのも初めてだったか。今日はゆっくりと休まないとな。」
(いや、どう考えても…)
(馬に乗っただけであんなボロボロにはならないだろう…)
ロジェの前で、ローズはツンとすましていました。ロジェはただただローズを恐怖の眼差しで見ていました。
(明日からは足が壊れても歩いてやる…絶対にだ)
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オリバーたちは宿の主人に魔獣の話を聞きました。
「ここから少し北へ行った村に魔獣が出没しているという話を聞いたんだが…。」
「ええ、そうなんですよ、旅のお方。この分だといつこのレバリーにも魔獣どもが襲ってくるかわかりません。悪いことは言いません、すぐに引き返しなさった方がいい。北の隣国へ行くなら、遠回りにはなりますがシーガルンからでも行けますから。」
「おいおい、見くびるなよ。このお方をどなただと思っているんだ?一年半前にリバー王国を、ふごっ!?」
ビアンカが慌ててロジェの口をふさぎました。
「一年半前に…何ですか?」
「えへへっ、一年半前にリバー王国を旅した時、一度も魔獣に襲われなかったんだよ。」
「それはそれは…。一年半前というと、ギル大臣が塔の牢獄に閉じ込められた頃ですか…。…アルベール様が生きていらっしゃったら、魔獣など蹴散らしてくれたかもしれないのに…。」
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部屋に帰るとローズがふくれっ面をしました。
「あんなこと言って、アルベール様がいらっしゃった頃は絶対に敬っていない…。」
「まあ、そう言ってやるなよ。人間の心なんて、コロコロ変わるものだからね。」
パトリックが苦笑いして言いました。ローズはむくれたままです。
「そもそもヨウフェイ、その一年半前のことを詳しく聞いていないネ。聞きたいヨ。」
ヨウフェイがオリバーに言いました。
「そうか?…ことの発端は俺がオットー様からの極秘の手紙をもらったことだ。…。」
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オリバーたちは代わる代わる一年半前の話をしました。話は夜遅くまで続いたのでまだ若い仲間たちは途中で眠ってしまいました。
「…というわけなんだ。」
「オマエたち、なかなかすごいやつらネ。見くびっていたのが間違いだったヨ。」
「何だよ、まだ俺たちを認めていなかったっていうのか。」
レオンが言いました。
「冗談ネ。こんな冗談が通用しないなんて、やっぱりオマエもバカなようだネ。」
「マチルドと一緒にするなよ…。」
「それに…老師がそんな苦労をしていたなんて知らなかったネ。ヨウフェイには姉さんがいるし、姉さんにはヨウフェイがいるヨ。でもラオシーは一人きりネ…。」
ヨウフェイはオリバーの横で丸くなって眠っているローズを見て言いました。
「ハハッ、とは言え、今のローズには行動を共に出来る仲間がたくさんいる。もちろんチュンフェイとヨウフェイも含めてだがな。」
オリバーはヨウフェイたちに言いながらローズの髪を撫でました。ローズはくすぐったそうに口元をゆるめ、更に体を丸くしました。
「まるで仔犬のようだな。」
アリスが目を細めました。
「寝ている間くらいはつらさを忘れていられそうだね。」
パトリックも微笑みながら言いました。
「時々うなされることもあるようだが、それでも最近はかなり減ってきているようだ。ゼロになることはないだろうが、少しでもつらさを忘れてほしいもんだな。
…さあ、もう夜も遅い。明日はいよいよ魔獣が出没している村に着くんだ。そろそろ眠って体力を温存させておけ。」
オリバーの言葉に、まだ起きていた仲間たちもそれぞれの部屋に移動して眠りにつきました。
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翌朝、オリバーは久しぶりに感じられる日差しと窓の外から聞こえる騒ぎ声で目を覚ましました。
「何だ…?外が騒がしいようだな…。ハンス、ペーター、起きろ。外の様子を見に行くぞ。」
オリバーたちが部屋から出ると、ちょうどビアンカたちも部屋から出てきました。
「おはよう、師匠。何だか外が騒がしいね。」
「ああ、そうだな。今から様子を見に行こうと思う。」
「私たちもそのつもりで出てきました。一緒に行きましょう。」
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宿の入り口では、宿の主人が腰を抜かしていました。アリスとエミリーが駆け寄りました。
「ご主人!どうされたのですか?」
「ま、魔獣が宿の前に…。」
宿の主人が指さした方を見ると、確かに宿の前に魔獣が横たわっています。
「もう、もう終わりだ…。早くこのレバリーから、いや、リバー王国から逃げなくては…。」
顔面蒼白な宿の主人に、アリスがピシャリと言いました。
「落ち着くのだ、亭主。あの魔獣は息絶えている。焦って騒ぎを大きくしてはならぬ。」
「は、はい…。」
宿の主人はよろよろと立ち上がると、魔獣の方に恐る恐る歩いて行きました。その瞬間、オリバーが叫びました。
「危ない!近寄るな!」
オリバーが叫んだ瞬間、横たわっていた魔獣は突然起き上がり、宿の主人の方を向きました。
「ヒッ!」
「下がれ!カースアタック!」
オリバーの指先から真っ黒い光が放たれました。魔獣は恐ろしい悲鳴を上げたかと思うと、今度こそ息絶えました。
「汚い真似しやがって…。」
「これもシャロンの仕業かな…。」
ハンスとペーターが怒りに震えています。宿の主人は目の前で繰り広げられた光景を見て腰を抜かさんばかりに驚きました。
「あ、あなた様方はいったい…。」
オリバーは困ったようにため息をつきました。
「こうなってしまったからには隠すわけにはいかないな。俺はオリバー・ローゼンハインだ。ノーザリン一帯に出没している魔獣の調査にやって来た。」
「お、オリバー・ローゼンハイン様!?リバー王国を救った、あの有名な!?」
「ああ、あまり大げさにしないでくれ。騒がしくされると都合が悪いんだ。…それより、この魔獣だ。」
オリバーは注意深く魔獣に近寄りました。そして剣を抜くと、魔獣に突き刺してみました。
「どうですか?」
ラルフが心配そうに声をかけました。
「大丈夫だ、こいつは完全に息絶えている。…だが、これがシャロンの差し金であることは間違いない。ほら、これを見ろ。」
オリバーは引き抜いた剣を仲間たちに見せました。レオンがそれを覗き込みました。
「これは…こびりついた血が何かの記号を描いているな。いや、これは文字…?チュンフェイたちの文字じゃねぇか?」
「何て書いてあるんだ?」
マチルドが首をかしげました。ヨウフェイが近寄って文字を読みました。
「『さあ、宴の始まりです』。…気に食わないやりかたネ。」
「どうやらシャロンも態勢を整えたらしいな。よし、こうしてはいられない。みんな、北の村へ急ぐぞ!」
体勢を整えたシャロンが、今しもオリバーたちに牙をむこうとしています。オリバーたちは急いで魔獣が出現した村へ向かいます。
次話では魔獣に襲われた村にオリバーたちが到着し、そこで魔獣たちと戦うことになります。その戦いの中で、ひとつの問題が発生するようですが…?どうぞお楽しみに!
ちなみに宿の主人は当初オリバーのことに全く気づきませんでしたが、救国の主とはいえ、基本的にリバー王国の人々はほとんどオリバーの顔を知りません。それに、宿を予約する時はたいていハンスかイザベルの名前で予約するので、余計に気づかれなかったのです。
では次話をお楽しみに!




