桜と梅は生き別れの兄妹
【インターバル1開始。30秒です。】
控室は白一色でインテリアは特にない。原作の画面に似ているなと俺は思った。目の前にはリーダー譲渡の画面とアイテム交換の画面が赤い文字で映っている。
「今のところ悪くないよ。みんなナイスだ。」
「ここまでやれるなんて自分が自分じゃないみたいで信じられません、、、」
自分の震える血まみれの手を見つめて悟りは独り言ちるように言った。
「多分、悟りの攻撃が通用したのはさっきのが最初で最後だ。紅桜は基本的に二丁拳銃デュアルペナルティを用いた遠距離攻撃を主体に戦うから、近接攻撃以外の攻撃手段を持ちえない悟りがこれから〇閃を当てるのはかなり厳しいと思う。」
「でもそれなら先ほどのようにケヴィンさんのマジックで相手を暗黒状態にしてアシストしていけば良いのでは?」
「ううん、それも厳しいと思う。僕のリーダーマジックは第一世代のころから変わっていないから情報として出回りすぎている。おそらく向こうも状態異常無効アイテムなどで対策を済ましていると思ったほうが無難だ。最初に使ってこなかったのは悟りの力量がまだバレていなかったからだよ。」
「なるほど、、、」
「というわけで予定通り4体2の状況になったから、リーダーをローウェンに変えて〇〇りを発動させる。ローウェンは隠密魂を使っていいよ。スキルを使うときは注意してね。隠密状態でもばれてしまう可能性があるから。」
「ほいほい。」
「ここからは紅桜のペナルティ倍率もとんでもない事になっているから気を引き締めて行こう。あとウメコちゃん準備は良いね?」
そういった俺はリーダー譲渡画面からリーダーをローウェンに切り替えた。
「うん、、、」
小さな声でウメコは言った。
【インターバル1を終了します。】
◇◇◇
俺たちはまた歓声の鳴りやまないコロシアムに転送される。初期位置は先ほどの戦闘終了時のままだ。しかしローウェンの姿だけ見えない。隠密魂は正常に作動しているようだ。
【これよりラウンド2を開始いたします。】
ラウンド2開始直後、紅桜はデュアルペナルティをこちらに向ける。その瞬間俺はウメコに指示を出す。
「ウメコ中央へ!」
紅桜が打つより早くウメコが紅桜の射線上に入る。この世界ではステータスの攻撃力と運を合算しそれを割った値が素早さとなるため、例え普段はただの鼻垂れ少女であるウメコですら、レベル100を超えた速度は音速に近い。
紅桜は射線上に入った、ウメコに対し銃を放つことができない。当たり前だ。だって、、、
「なぜ、撃たないんだ?紅!」
アカシアが怒りの声を上げる。それもそのはずだ。この戦闘においてペナルティの取り合いになれば有利なのは赤桐の木なのだから邪魔をするのならば迷わず撃っていい。
「だってあいつは、、、」
「なんだよ?」
「アイツは俺の生き別れの兄妹なんだ。」
そう紅桜が今この世にいる人物で唯一愛した存在それが自身の妹である生き別れの兄妹ウメコなのだ。たしか裏組織の暗殺者養育施設からウメコを逃すため彼は物心つかないウメコを孤児院に預け、一人その組織を壊滅させるためにマジコロで武者修業をしている。こんな設定だった気がする。
こう言い換えると感動的な話のように思えるが、かみ砕いて言えば紅桜はシスコンなのだ。そしてまた嫌な言いかえをすればウメコが紅桜最大の弱点だ。
「「え?ええー!?」」
この場にいる俺と紅桜以外の全員が驚愕している。観客たちもいきなり戦闘が止まり困惑している。
「私のたった一人の家族ってこの人だったんだ、、、」
感慨深そうにウメコは言った。あのキャライベントで言っていたことだろう。
「で、でもコロシアムでの戦いでは死んでも別に生き返るだろ!迷わず殺せ」
アカシアはもっともなことを言った。
「できるわけねえだろ!たった一人の妹だぞ」
涙ぐみながら紅桜は言った。
お前仲間自爆させとったやろ、、、この場にいる全員がそう心の中で突っ込んだがこの場にいるキャラで一番強くて性格がおかしいのが紅桜なので言い返せない。
「仕方ねえ」
そういった瞬間、紅桜の動きは加速する。彼のリーダーマジックによって紅桜の全ステータスは10倍近く、攻撃に至っては15倍近い倍率となっている。そのフィジカルを使った超高速移動によってウメコをそのまま飛んでかわし、俺に迫る。
「クソ悪魔!殺す!俺の妹を誘拐しやがって、、、」
別に誘拐はしてねえよ。それっぽい事を言って、この闇バイトに勧誘しただけだ。
俺は近づいてきた彼のパンチを正面から受ける。俺の体はコロシアムの壁に叩きつけられる。口から血が飛び出た。デュアルペナルティ無しでもこの威力。レベル差は30程はあるはずなのに、、、やはりこいつの火力は全キャラでも屈指だ。もう一回くらえばリーダマジックのかかってない俺のHPでは確実に死ぬ。
紅桜はデュアルペナルティを追撃として放つ。俺の先ほどまでいた壁は崩れ落ちていく。俺は何とかその追撃を逃れ、ウメコの後ろに隠れるようにウメコをまたぐ。
「ここからは鬼ごっこだ。シスコン野郎」
俺は煽るように言った。悪いがウメコはありがたく使わせてもらう、ウメコを連れてきたのはローウェンのスキルの時間稼ぎのためだ。
ウメコを挟んでいれば、あいつがデュアルペナルティを使うことは無い。しかし追いつかれるのも時間の問題だ。こんなことを考えている間にも紅桜は俺にものすごいスピードで接近する。ウメコは大人の本気の鬼ごっこを見てちょっと引いている。
【ラウンド2残り十秒となりました。】
俺が追い付かれるギリギリでアナウンスが鳴る。
「マジック【闇夜】」
俺は苦し紛れの暗闇を浴びせる。しかし、、、
「アイテム使用。ザクレオの実」
紅桜は死刑宣告でもするみたいに言った。ザクレオの実は暗闇状態を解除するアイテムだ。やはり持っていたか、、、
俺の意識はだんだんと走馬灯でも見るみたいにゆったりになっていく。奴の拳が段々と迫る。クソあと数秒なのに、、、
「マジック【転移】」
天から声でも響くみたいに、その場にいなかったはずの老人の声がそう告げ「パチン」という指の音が鳴る。そして次の瞬間俺はステージの中央に、ウメコは紅桜の前に立っている。ローウェンがウメコと俺の位置を試合終盤確実に反撃を食らわない、ここしかないというタイミングで入れ替えたのだ。
当然紅桜の拳はウメコの前で止まる。風圧でウメコの髪が揺れる。
「ニーサン?」
それに紅桜は答えない。
【これにて、ラウンド2を終了します】
その音声が流れた瞬間俺たちの体は控室に飛ばされる。その時の紅桜は茫然としていた。
◇◇◇
【これにて、インターバル2を開始します】
「よくやってくれた、、、ローウェン」
「ああケヴィンちゃん。ワシかっこよかったじゃろ!」
なるほどな、、、ハキハキとした口調に代わっている。しかもケヴィンの名前も覚えているさすがの原作再現だ。
「うん、さすがは魔賢老だよ」
「そうじゃろ~」
「えっとすいません」
悟りが訝しむ。
「なんだい?」
「その人誰ですか?」
俺はゆったりとローウェンの方を見つめる。するとそこにはローウェンがいた。当たり前だ。しかしおかしな所があった。そのローウェンには白い色の長いサラサラの髪の毛が生えている。禿げ頭だったはずなのに、、、そしてムキムキになっている。ヨボヨボだったはずなのに、、、
「ワシのリーダマジック【若返り】は成功したようじゃ。」
ローウェン(イケオジの姿)はそう言った。




