120 第6章第20話 強さの裏で
“いや~上手かったですね、サードの守備! 野町は、サードライン際ぎりぎりのショートバウンドのゴロを見事にキャッチして、すぐにファーストに送りました!”
“……それよりも、今のはピッチャーの北白山が上手かったんですよ!”
“え? それは、どういうことですか? 亀岡さん”
“北白山は、カナリアがファールを狙ってバットコントロールをしているのを見破ったんです。だから、ジャイロボールの回転数を上げたんでしょうな”
“そうなんですか? ボールのスピードがいつもより少し遅かったから、力を抜いたのかと思ったんです。つまり、北白山もチェンジアップでも覚えたのかなあってね”
“あれが、チェンジアップ? まさか……あれだけ全力で投げたボールは、チェンジアップじゃなくて、ハイパワーアップですよ! あのボールは、速さじゃなくて、回転を増したんです”
“ホントですか? それにしても亀岡さんは、すごいですね。見ただけで回転数が分かるんですか?”
“そうじゃないですよ、私だって見ただけでは分かりませんよ。ただね、戻ってきたカナリアが、多澤からバットを受け取り、とても驚いていましたよね。たぶん、あれはバットにものすごい跡が残っていたんだと思います。あのスピードでバットに跡を残せるのは、回転しかありませんからね”
“なるほど……あ! 今、球場の計測器の表示が出ました。ボールの回転数のところだけ数値は表示されていなかったんですが、……おっと! これは、すごい数値です。通常、150キロを出す剛速球のピッチャーでも、2700回転ぐらいですが、な、なんと、北白山の今のボールの回転数は、3989回転でした!”
“す、すごいですね~……でも、この回転数を出す投げ方だと、体にはけっこうな無理がかかるんじゃないかと思いますよ……毎回、これを投げるのは無理でしょうね”
2番のバッターは、セカンドを守っている滝山だった。珠子は、1球目にジャイロボールを投げた。力は、中くらいのリンゴだったが、滝山はあっさりとファールしてしまった。
「(こりゃ、オンライズの選手は、ジャイロボールのファールの仕方を練習してきたな。バットを折ったり、こちらの意図したフライを打たせたりするのは、やっぱり無理か……)」
「(え? 多澤さん、栗じゃないの?……ツッパリボールで、カボチャなの?)」
多澤が出したサインは、力を込めたフォークボールだった。しかも、構えた場所は、やっぱり低めだ。
“あ、滝山、打ちました……が、ショートゴロです。……これで、2アウト”
“やっぱり、強いジャイロボールは投げませんね。あれは、フォークボールです。しかも、空振りを誘うものではなく、微妙にバットの中心を避けるような変化の少ないものでしたね”
“それは、どんな意図があったんですか? 亀岡さん”
“それは、きっと、ゴロを打たせるためでしょう。空振りをとるより、ボール数が少なくて済みますからね。北白山の体力温存も考えているんじゃないでしょうか”
“次は、3番、キャッチャーの大島です。……あ、1球目を打った……これは、ファーストへのゴロになった。ファースト喜代宮、キャッチして自分でそのままベースを踏んだ。これで、3アウト、チェンジになりました”
“これも、フォークでしたね……。惜しかったですね、ここで一人でもランナーが出れば、次は4番の甘野との対決だったのに”
“そうですね。打率10割の甘野との対決は、次の2回へと持ち越しです。まあ、これも一つ楽しみな対決になります”
「ふぅー。大丈夫か、タマ子ちゃん?」
「え? 何がです?」
「すまん、テツ子、タマ子ちゃんの右手を見てやってくれないか?」
ベンチに戻った多澤は、ベンチに座るなり、すぐに珠子の様子を確認するように徹子に頼んだ。
(つづく)




