01 はじまりのとき
―― ヒューン ―― 「ボール!」
“おーっと、いけませんね~。これで、3ボールです。ファイアースの紅白戦は、ここ旭山球場で1軍と2軍が勢揃いして行われています。我々は、今期最初のファイアースの試合中継をお送りしています。北海道のみではありますが、なんとか今年は日本一を目指したいファイアース。この試合の結果により、オープン戦登録選手が決まるという噂も流れています。さあ、もうそろそろ決着が付くのでしょうか。現在、9回裏、赤組の攻撃です。試合は1対0で白組が1点リードしています。このまま白組が守り切れば、勝利が決まりますが……。どうですか? 解説の鈴木さん”
“そうですね~。でも、現在攻撃しているのは、紅組です。しかも満塁なんです。ヒット1本で同点、もしくは逆転さよならの場面ですからね”
“でも、2アウトですよ。このバッターさえ打ち取れば、勝利が決まります”
“それにしても、この満塁になってから出てきた白組のピッチャーは、誰なんですか?”
“それが、私も抑えていなくて……。とにかく、監督の特別枠でスカウトされた選手なんですよね。電光掲示板に『北白山』と表記されていますが…………手元の資料では…………あ、あった、『北白山 珠子』って言うんですね。18歳だそうです”
“一見、普通の女の子に見えるんですがね~。こんな場面に出てきて大丈夫なんでしょうか?”
“おーっと、ここでキャッチャーが、タイムをとってマウンドに歩み寄ります”
「おい、大丈夫か? タマ子ちゃん。……どうしたんだよ。あれだけ練習しただろ?」
のんびりとした感じでキャッチャーの多澤は、珠子に話しかけた。
「えへっ、ごめんなさい、多澤さん。まさか、紅白試合にお客さんがいるなんて思わなくて、びっくりしちゃった! いろんな人が来てるのよ。あたしの高校時代の同級生とかもいたの!」
珠子は悪びれもせず、こちらも笑顔でのんびりと客席を見渡している。
「タマ子ちゃん、客席なんか見てたのか? なんだか余裕だな~……じゃあ、どうしてストライクが入らないんだよ?」
「だって、こんなお客さんがいっぱいいるんだもん、誰がいるのかなあ~って、探してたらボールが変な所に行くんだもん」
多澤は、思わずキャッチャーヘルメットを脱いで笑いながら頭を掻き出した。つられて、そばに集まって来た内野手たちにも笑顔がこぼれた。
「……あははは、そっか……あのな、お前が見ていいのは、俺のミットだけ。ここだけ見て投げろよ! どうせ、真っすぐしか投げられないんだろ」
「あはっ、そっか。3ボールだもんね。もう、ボールは投げられないんだね。……確か、ボールを4つ投げると、バッターは1塁に行っちゃうんだったわよね」
「そうそう、……そして、自然にランナーが押し出されて1点が入り、同点になっちゃうの。分かってる?」
「はい! 分かっているであります! 珠子、真面目に多澤さんのミットだけを見て投げます! えへっ」
珠子は、おどけた調子でボールを持つ右手を頭の横に置き、敬礼のポーズをとった。
「まあ、分かればよろしい! じゃあ、頼むぜ!」
“どうやら、ピッチャーとキャッチャーの打ち合わせが終わったようです。でも、変ですね~。話をしていたのは、ピッチャーとキャッチャーだけですよ。内野手もそばまで集まってきましたが、なんだかニヤニヤしたまま見守るだけでしたね~”
“そうですね、この1打逆転のピンチなのに、まったく緊張感はありませんでした”
“さあ、『プレイ』がかかり、試合再開です”
キャッチャーの多澤は、ど真ん中にミットを構えた。
「(まったく、新城監督ときたら、厳しい使い方しやがる。……まあ、タマ子ちゃんなら、大丈夫だろ……) よし! こい!」
“ピッチャー、セットポジションから、今、投げました!”
―― ガシッ ――
“打ったー……ボールは…………あ、セカンドフライだ!”
「アウト! ゲームセット!」
“今、ピッチャーの北白山が、小走りにキャッチャーに駆け寄り、握手してます。だんだんと周りの選手も集まって来ました”
「えへへへ……多澤さん、こんなんで良かった?」
「ん? まあ、あんなもんだろ。アウトになったしな……(でも、周りは分かんないよな。あの球の何がすごいかなんて……ふふふ、まあ、そのうちのお楽しみってとこかな)」
~この物語はフィクションであり、実際のプロ野球とはまったく関係ありません~
(つづく)




