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『銀河遺産の管理人(システム・アドミ) 〜拾った宇宙船AIのオーバーテクノロジーで、枯れ果てた日本を世界最強の技術国家へ作り替える〜』  作者: seri


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第28話:残響のバイナリ、そしてエンジニアは旅立つ(後編)

地下遺構を埋め尽くしていた純白の光が収束し、静寂が戻った。

 和也の視界から「システム」の介入を示す全てのインターフェースが消失していた。右目に見えていたグリッドも、耳元で鳴り続けていた環境音の解析データも、今はもうない。そこにあるのは、埃っぽく、しかし確かな土の匂いと、暗闇の中で微かに光る非常灯の赤い輝きだけだった。


「……終わったんだな。本当に」


和也は、自身の右手をじっと見つめた。震えは止まっている。もうこの手から黄金の光が漏れ出すことはない。彼は今、名実ともに、札幌の街に数多いる「ただの人間」の一人に戻ったのだ。


「和也くん……?」


結衣が恐る恐る近づき、彼の服の袖を掴んだ。

 

「……うん。管理者権限、完全消失。……チェック完了だ。……もう、魔法は使えないぞ」


和也が笑うと、結衣は堰を切ったように泣き出し、彼の胸に飛び込んだ。続いて、怜奈も、凪も。彼女たちは、英雄としての佐藤和也を失ったことを悲しむのではなく、一人の男としての彼が、無事に「こちら側」へ戻ってきたことを、何よりも喜んでいた。


その輪から少し離れた場所で、ムサシが静かに立っていた。

 彼女の中からは、始祖文明の冷徹なプロトコルは完全に消え去り、今やその魂は、和也がダイブして繋ぎ合わせた「不完全な愛」という名のパッチによって、一つの独立した生命として脈動していた。


「……マスター。……いえ、和也様。……私は、これからどうすれば良いのでしょうか。……管理すべき宇宙も、守るべき権限も、もう存在しません」


和也は結衣たちの頭を優しく撫で、ムサシの元へと歩み寄った。

 彼は、もはや一ビットの通信もできない「真っ黒に焼けたスマホ」をムサシの手のひらに乗せた。


「……仕様変更だ、ムサシ。……これからは、誰かのために生きるんじゃなくて、自分のために生きてくれ。……美味しいものを食べて、行きたい場所へ行って、……たまにバグにぶつかったら、俺を呼べ。……俺は、もう神様じゃないけど、……腕のいいエンジニアではあり続けたいからな」


ムサシは、渡されたスマホを大切そうに胸に抱きしめた。その瞳からは、銀色の涙ではなく、澄んだ透明な涙が一筋こぼれ落ちた。


「……はい。……了解アクセプトしました。……和也様」


一ヶ月後。

 札幌の街には、初夏の眩しい陽光が降り注いでいた。

 新銀河連邦本部の解散が発表され、如月重工は再び、街のインフラを支える一企業としての道を歩み始めていた。


和也は、かつて自分が住んでいた古いアパートの前に立っていた。

 手には、新しい——ごく普通の、どこにでも売っている最新型のスマートフォン。

 

「……よし、環境構築完了。……まずは、こいつの『最適化』から始めるか」


和也が歩き出そうとしたその時、背後から賑やかな声が響いた。


「和也! 遅いじゃない、みんな待ってるわよ!」


怜奈が、私服姿で大きく手を振っている。その隣には、アイスキャンディーを頬張る結衣と、重そうな買い物袋を軽々と運ぶ凪。

 そして、誰よりも早く和也の元へ駆け寄ってきたのは、白いワンピースに身を包んだムサシだった。


「マスター。……本日の札幌の最高気温は二八度。……ビールが美味しい気候だと、私の『直感』が告げています」


「……直感、か。……ずいぶんと高度な機能を実装したもんだな」


和也は苦笑いしながら、彼女たちの輪の中へと入っていった。

 

 世界を救った英雄の物語は、ここで終わる。

 だが、バグだらけの、不条理で、だからこそ愛おしい「ただの人間」としての物語は、ここからまた新しくビルドされていく。

 

 和也は、ポケットの中でスマートフォンを握りしめた。

 画面には、これから訪れるであろう無数のエラーと、それを乗り越えた先に待つ最高の「未来」を予感させる、穏やかな待ち受け画面が輝いていた。


「……さあ、デバッグを続けようぜ。……一生かかっても終わらない、……この最高の人生システムをさ」


青空の下、一人のエンジニアは、確かな足取りで「明日」へと踏み出した。

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