第7話:戦後処理と、宇宙への招待状(中編)
アーク・ニッポンの最上階に位置する大ホール。かつては豪華なパーティーが行われるはずだったその場所は、今や「地球の運命」を決定する審判の場となっていた。
円卓を囲むのは、世界のトップに君臨する首脳たち。しかし、彼らの表情に余裕はない。つい数時間前まで自分たちの誇る艦隊が鉄屑に変えられ、正体不明の巨大宇宙船が一瞬で消滅させられるのを、特等席で見せつけられたのだから。
「……佐藤会長。君の意図がわからない」
アメリカ大統領が、絞り出すような声で口を開いた。
「君の技術は、もはや一国の枠を超えている。それをなぜ、このような強引な形で……」
「大統領。強引なのは、話し合いもせずにミサイルを三千発も撃ち込んできた貴方たちのほうでしょう?」
和也が冷淡に答えると、大統領は絶句した。
和也は、エリスが用意したホログラムの地球を、会議室の中央に浮かび上がらせた。
「貴方たちが国境だの資源だので争っている間に、宇宙の向こう側では、昨夜のような『掃除屋』が手ぐすねを引いて待っている。昨夜の敵は、エリス……俺の相棒を追ってきた前触れに過ぎない」
『……マスター。訂正を。彼らにとって、この星は「掃除」の価値すらない「未開の菌床」です。もし私が、マスターの技術を用いてシールドを張っていなければ、今頃この星の大気は全て剥ぎ取られていたでしょう』
ホログラムの横に現れたエリスの姿に、首脳たちが息を呑む。
アリスが、ワイングラスを片手に首脳たちの背後をゆっくりと歩きながら、その美貌に冷徹な光を宿して追撃した。
「皆さん、怖がることはないわ。……佐藤会長は、慈悲深い方。貴方たちの持っている、その古臭い核兵器や空母を、全部『ゴミ箱』に捨てていいと言ってくださっているのよ」
「捨てるだと!? 防衛はどうする!」
「俺がやる」
和也が断言した。
「今日、この瞬間をもって『地球連邦』の設立を宣言する。軍事、エネルギー、食糧。これらは全て、俺と如月重工が管理・提供する。……代わりに、貴方たちには『国』というエゴを捨ててもらう」
「そんな馬鹿なことが通ると思っているのか!」
ロシアの大統領が机を叩いて立ち上がろうとした。
「……座ってください」
和也の隣で静かに控えていた凪が、一歩前に出る。彼女が放つ圧倒的な殺気と、エリスが局所的に発生させた「1.2倍の重力」により、大統領は力なく椅子に押し戻された。
「結衣、プランBだ」
「はーい! 全員のタブレットを見てね。……えっと、貴方たちがスイスの隠し口座に溜め込んでる裏金と、愛人のリスト。それから、昨夜こっそり他国と結ぼうとしてた裏切りの密約。……今、ネットにアップする準備ができてるよ? 三、二……」
「待て! 待ってくれ!」
会議室は悲鳴のような制止の声で埋め尽くされた。
結衣はニヤニヤしながら、キーボードから手を離した。
「……いい。脅しでまとめたくはないが、時間が惜しい。……これを見てくれ」
和也がホログラムを操作すると、地球の横に「緑化された火星」の姿が現れた。
「エネルギーが無料になり、労働が自動化されれば、人間は暇になる。……そのエネルギーを、宇宙へ向けよう。火星のテラフォーミングを三ヶ月で終わらせる。そこは、これまでの利権に縛られない、人類の新しいフロンティアだ」
「三ヶ月で火星を……?」
「エリスの計算によれば、可能です。……地球で奪い合う時代は終わった。これからは、宇宙を切り拓く時代だ。……協力するか、それともこの要塞の重力下で一生を終えるか。選んでください」
首脳たちは、互いに顔を見合わせた。
目の前の青年は、狂人ではない。物理法則すら書き換える「神の知恵」を手にした、新しい世界の創造主だ。
怜奈が和也の肩に手を置き、凛とした声で宣言した。
「如月重工は、これより『地球連邦開発公社』へと組織変更します。……さあ、サインを。新しい歴史の第一ページを、汚さないようにね」




