第7話:戦後処理と、宇宙への招待状(前編)
銀河帝国の審判艦が消滅してから、十二時間が経過した。
日本近海に展開していた連合艦隊『アース・ガード』は、和也の放った電子パルスによって全機能を停止したまま、ただの巨大な鉄屑として波間に揺られている。
空中要塞『アーク・ニッポン』の眼下では、和也が送り出した無数のレスキュー・ナノマシンが、漂流する兵士たちに温かい食事と医療処置を施していた。
「……皮肉なものね。自分たちを滅ぼそうとした相手に、命を救われているなんて」
アーク・ニッポンの展望デッキ。アリスが、眼下で展開される「奇妙な救助劇」を見下ろして呟いた。
その隣では、徹夜でデータの復旧にあたっていた結衣が、特大のハンバーガーを頬張りながら不敵に笑う。
「いいんだよ。これで世界中の軍隊が『和也くんには逆らわない方がお得』って学習したはずだし。あ、アメリカ大統領から、泣きの一回……じゃなくて、公式の謝罪と対談の申し入れが来てるよ。どうする、和也くん?」
和也は、窓の外に広がる水平線を静かに見つめていた。
彼のスマホの中では、エリスが次のフェーズの計算を終えようとしている。
「対談は受ける。ただし、場所はホワイトハウスじゃない。……この要塞に、各国の首脳を招待しろ。彼らには、自分たちがどれほど『小さな世界』で争っていたかを見せてやる必要がある」
「……会長、警備はどうしますか? 首脳陣の中には、まだ諦めていない暗殺者が紛れ込んでいる可能性が高いですが」
東條凪が、和也の背後で影のように問いかける。彼女の手には、エリスが新たに設計した「全自動空間走査型防衛システム」の端末があった。
「凪さん、心配しすぎ。……今のこのビルには、エリスの『嘘発見器』が組み込まれてるんだから。悪いこと考えた瞬間に、重力で床に沈む仕様になってるよ」
結衣がケラケラと笑う。
一方、如月重工の経営者として多忙を極める怜奈が、タブレットを片手に和也の元へ歩み寄った。
「和也さん。世界中のメディアが、昨夜の『光の槍』の正体を問い詰めてきているわ。……『宇宙人と戦った』なんて正直に言っても、パニックになるだけよ。どう説明するつもり?」
「……『次世代の地球防衛システムのテストだ』とでも言っておけ。嘘じゃない。……これから、地球そのものを宇宙の脅威から守る防壁にしていくんだからな」
和也の言葉に、怜奈は一瞬息を呑み、それから柔らかく微笑んだ。
「分かったわ。世界一の『嘘』を、私が最高の『真実』に変えてみせる。……準備して、和也さん。もうすぐ、世界の支配者たちが、跪くためにここへ来るわよ」
数時間後。
アーク・ニッポンの迎撃用カタパルトを転用した特別駐機場に、各国の首脳を乗せた最新鋭(と言っても、和也の技術から見れば玩具同然の)ヘリが次々と着陸した。
出迎えたのは、作業着のままの和也と、その脇を固める5人の美しい「騎士」たち。
和也は、緊張で震えるアメリカ大統領、中国国家主席、そしてロシア大統領を見渡し、静かに告げた。
「ようこそ。……今日から、この星の『国境』という概念は終了です。……代わりに、銀河へ続く扉の話をしましょうか」




