第6話:地球の反撃、銀河の沈黙(後編)
放たれた黄金の奔流は、夜空を昼間のような輝きで塗りつぶした。
それは従来の物理学で説明のつく「レーザー」や「粒子砲」ではない。和也の設計思想とエリスの演算、そして日本中の常温核融合炉が同期して生み出した、空間そのものを震わせる「因果律の槍」だった。
『目標、帝国の審判艦! シールド出力、計測不能……いえ、シールドごと「存在」を書き換えます!』
結衣の鼻からツーッと血が垂れる。膨大なデータ中継に彼女の脳は限界を迎えつつあったが、その瞳は狂気的な歓喜に染まっていた。
和也は、自身の神経が焼き切れるような感覚に耐えながら、スマホの画面に全ての意志を叩きつける。
「――これが、俺たちの生きる足掻きだ!」
光の槍が、白銀の巨艦に直撃した。
一瞬の静寂。
次の瞬間、宇宙の法則に従えば爆発するはずの審判艦が、まるで「古い映像データのノイズ」のように激しく歪み、霧散していった。
爆発はない。ただ、そこに在ったはずの「絶対的な脅威」が、この宇宙から消去されたのだ。
……静寂が戻る。
アーク・ニッポンの司令室には、ヒロインたちの荒い息遣いだけが響いていた。
「……勝った、の?」
怜奈が膝から崩れ落ちる。結衣は力尽きたように和也の背中に倒れ込み、凪は握りしめていた剣を鞘に収め、その手がかすかに震えているのを隠さなかった。
アリスは、窓の外に残る黄金の残光を見つめ、初めてスパイとしての仮面を脱ぎ捨てた、心底驚いたような表情を見せた。
「……あはは。神様を追い払うどころか、本当に殺しちゃうなんてね」
『マスター……お疲れ様でした。帝国の追跡反応、完全消失。……ですが、今回の出力で、日本中の核融合チップが一時的にオーバーヒートしています。明日の朝まで、日本は「ただの島国」に戻りますね』
「ああ……それでいい。十分だ、エリス」
和也は、熱を持ったスマホをポケットにしまい、背中の結衣を支えながら、ゆっくりと椅子に座った。
窓の下、海上に漂う連合艦隊は、自分たちが攻撃しようとしていた対象が、宇宙から来た「化け物」を一撃で葬り去るのを目撃してしまった。
もはや、彼らに戦意など欠片も残っていない。
明日、世界が目覚めたとき、佐藤和也の名は「日本のエンジニア」ではなく、「地球を守護する超越者」として歴史に刻まれることになるだろう。
「和也さん。……これ、明日からの記者会見、どう説明すればいいのかしら?」
怜奈が少し困ったような、でもどこか誇らしげな顔で尋ねる。
和也は、窓の外に広がる、平和を取り戻した札幌の夜景を思い浮かべながら、短く答えた。
「『最新のセキュリティソフトのアップデートに失敗しただけだ』とでも言っておいてくれ。……今は、少し眠りたい」
和也の閉じた瞼の裏で、エリスが優しく微笑んだ。
だが、銀河の深淵では、消えた審判艦の信号を受け取った「次なる存在」が動き出していた。
地球の守護者となった和也たちの戦いは、ここからいよいよ「星間政治」と「宇宙進出」のフェーズへと、そのスケールを広げていくことになる。




