第6話:地球の反撃、銀河の沈黙(前編)
日本近海。
水平線を埋め尽くしているのは、米国、中国、ロシア、そして欧州連合。かつて敵対し合っていた大国たちが、佐藤和也という「共通の脅威」を前にして、人類史上初となる大連合艦隊『アース・ガード』を結成していた。
「……壮観ね。これだけの戦力が一箇所に集まるなんて、世界大戦でも起きない限りありえないわ」
空中要塞『アーク・ニッポン』の司令室。アリスがモニターに映し出された数百隻の艦影を見て、皮肉な感嘆の声を漏らした。
その隣で、結衣が猛烈な勢いでタイピングを続けている。
「和也くん、向こうの艦隊、全部のミサイルハッチが開いてる。……あ、今、第一波が発射されたよ。総数、三千二百……。うわぁ、空がミサイルで埋まっちゃうね!」
結衣の言葉通り、モニター上の日本列島は、四方八方から接近する無数の光点に包囲されていた。それは一国の防衛能力を遥かに超えた、物理的な「消滅」を目的とした飽和攻撃だった。
「……凪さん。迎撃率は?」
和也が静かに尋ねる。凪はコンソールを凝視したまま、迷いなく答えた。
「既存の自衛隊装備では、0.1%未満。ですが、この要塞の『防衛機構』を使用すれば、計算上の被弾確率は――零です」
「よし。エリス、見せてやれ。……暴力では何も解決しないことを、暴力で教えてやる」
『了解、マスター。……「空間位相偏向シールド」を展開。ついでに、彼らの火薬を少しだけ加工して差し上げましょう』
和也のスマホが蒼白く発光した瞬間、アーク・ニッポンを中心に、日本列島全体を覆う巨大な「オーロラの幕」が空に現れた。
数秒後。三千発を超えるミサイルが、その幕に次々と突入した。
だが、爆発音は一つも響かない。
「……消えた?」
連合艦隊の司令官たちが目を疑った。
ミサイルはオーロラに触れた瞬間、霧のように消滅したのではない。エリスが展開した空間歪曲により、全ての弾頭は「数ミリ先の未来の空間」へと転送され、そのまま無害な「光の粒子」へと分解されてしまったのだ。
「次は、俺たちの番だ。……エリス、全艦隊の『心臓』を止めろ。ただし、一人の犠牲者も出すな。これは命令だ」
『御意、マスター。……「電子中性子パルス」を放射。……さようなら、化石燃料の時代』
アーク・ニッポンの底面から、目に見えない巨大な波動が円状に広がっていった。
その波動が連合艦隊を通り抜けた瞬間――。
海上の全艦艇から、全ての光が消えた。
エンジンの轟音は消え失せ、レーダーは沈黙し、通信機はただの鉄屑と化した。
最新鋭の原子力空母も、イージス艦も、潜水艦も。
地球上の全ての武力が、一瞬にして波間に漂う「ただの箱」に成り下がった。
「……終わりよ。これでもう、誰も和也さんに銃口を向けることはできない」
怜奈が、震える声で勝利を確信した。
だが、その時。
『マスター。……警告。……海上の連合艦隊とは別の、極めて強力な「重力震」を検知。……この波形、地球のものではありません。……私の故郷、銀河帝国の「追跡艦」です』
エリスの声から、初めて「余裕」が消えた。
和也が顔を上げると、雲を切り裂き、連合艦隊のさらに上空、漆黒の宇宙から「白銀の巨艦」が姿を現し始めていた。
「……拾った時に言ってたな、エリス。お前は、逃げてきたんだって」
『……はい。……マスター、逃げてください。今の私の出力では、彼らには勝てません』
「逃げるわけないだろ。……俺は、この国を再興させるって決めたんだ」
和也はスマホを握りしめ、宇宙から降り立つ「真の脅威」を睨みつけた。
地球同士の争いは終わり、物語はついに、銀河を舞台にした技術戦争へと突入する。




