第20話 「封鎖された場所は、“隠したいもの”がある場所だ」
三日後。
北倉庫区画は、街の他のどこよりも静かだった。
元々人通りの少ない区域だが、今日は異様だった。
見張りもいなければ、荷運びの音もない。
まるで――最初から誰も使っていなかったかのように。
「……封鎖って聞いてたけど」
リオが小声で呟く。
「ここまで何もないのは、逆に気味が悪いな」
ラウルも同感だった。
静かすぎる。
風の音すら、遠慮しているようだった。
『周囲半径五十メートル以内に、明確な生命反応なし』
(……罠だな)
『可能性は高いです』
ラウルは足を止めずに進む。
背後では、リオとリィナが少し距離を保ってついてきていた。
「ラウル」
小さな声で、リィナが呼ぶ。
「何か感じる?」
「感じるってほどじゃない」
正直に答える。
「でも、“何もない”のはおかしい」
リィナは無言で頷いた。
彼女も同じ結論に達している。
観測者としての勘か、あるいは――。
---
目的の倉庫は、区画の最奥にあった。
他と変わらない外見。
古びた木製の扉。
錆びた鉄の取っ手。
だが。
『魔術封鎖を検出』
(どのくらい?)
『高度。王国正規術式に近似』
ラウルはわずかに眉をひそめた。
(正規……)
つまり、素人の遊びではない。
本物だ。
---
「開けるぞ」
ラウルが手をかける。
「待て」
リオが制止する。
「普通に開けていいのか?」
「たぶん、開けても開けなくても同じだ」
「どういう意味だ」
ラウルは答えず、扉を押した。
軋む音と共に、扉がゆっくりと開く。
中は暗い。
光が届かない。
空気が――重い。
『内部に高密度魔術反応』
(数は)
『一つ』
その瞬間。
倉庫の奥から、声がした。
「……来たか」
低く、落ち着いた声。
男の声だった。
暗闇の中から、一人の人影が現れる。
黒い外套。
顔の半分を覆う仮面。
だが、その動きは自然すぎた。
隠れる気がない。
逃げる気もない。
ただ――そこにいる。
「待っていた」
男は言った。
まるで、最初から分かっていたかのように。
「……誰だ」
リオが問う。
男は答えない。
代わりに、ラウルを見た。
正確に。
迷いなく。
「お前だな」
その一言。
空気が、わずかに変わった。
『警告』
ノートの声。
『対象の危険度、従来個体を大きく上回ります』
(どのくらい)
『推定不能』
それは初めての評価だった。
ラウルは、一歩前に出る。
恐怖はない。
だが――
油断もない。
「何を待ってた」
男は、わずかに笑った気がした。
「確認だ」
「何の」
沈黙。
そして。
「――お前が、“本物”かどうか」
次の瞬間。
男の周囲の空気が、歪んだ。
魔術。
今までの影とは、比較にならない密度。
『戦闘を推奨』
ラウルは、小さく息を吐いた。
(……やっとか)
拳を握る。
目の前の男は、逃げない。
隠れない。
ただ、そこに立っている。
それだけで分かる。
今までとは違う。
これは――
初めての、“対等な敵”かもしれない。




