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第19話 口を割らせる方法は、一つではない

 礼拝堂の中。


 気絶していた男は、柱に縛られている。

 拘束は簡素だが、逃げられない位置取りだった。


 リオが腕を組む。


「で、どうする?」


「起こす」


 ラウルは短く答えた。


 水を男の顔にかける。


 男は小さく呻き、ゆっくりと目を開けた。


「……っ」


 状況を把握するまで、三秒。


 次の瞬間、歯を食いしばる。


「……殺せ」


「物騒だな」


 リオが肩をすくめる。


 ラウルは、男の前にしゃがんだ。


「名前」


 沈黙。


「所属」


 沈黙。


「目的」


 男は笑った。


「話すと思うか?」


「思わない」


 即答。


 男の眉がわずかに動く。


「じゃあなぜ聞く」


「確認だ」


 ラウルは男の目をまっすぐ見る。


「お前は末端だ」


 反応は一瞬。


 それで十分だった。


「転移を使ったのは、お前じゃない」


「……」


「報告先がある。

 “報告と違う”と言ったな」


 男の呼吸がわずかに乱れる。


 リィナは、その変化を見逃さない。


「あなたたち、王国の人間じゃない」


 リィナが静かに言う。


「でも、内部情報を持っている」


 男は黙ったままだ。


 だが、視線が一瞬だけ彼女に向く。


(正解)


「目的は混乱?」


「……」


「それとも、実験?」


 その言葉で。


 男の表情が、わずかに変わった。


 ほんのわずか。


 だが確実に。


『脈拍上昇』


(当たりか)


 ラウルは立ち上がる。


「もういい」


 リオが目を丸くする。


「え、いいのか?」


「こいつは話さない」


「拷問とか――」


「不要だ」


 ラウルは男を見下ろす。


「どうせ、お前は切り捨てられる」


 男の瞳が揺れた。


「転移で逃げた奴は、戻らない」


「……」


「お前は報告の材料だ」


 沈黙。


 重い空気。


「……三日後だ」


 男が、ぽつりと呟いた。


 全員の視線が集まる。


「何が三日後だ」


「……次の確認」


「場所は?」


 男は目を閉じた。


「言えば、死ぬ」


「言わなくても死ぬ可能性は高い」


 淡々としたラウルの声。


 脅しではない。

 事実の提示。


 長い沈黙の後。


「……北倉庫区画。

 封鎖区域」


 リィナの目が細まる。


「そこは――」


「王国が“使っていないことになっている”場所だ」


 男は笑った。


「全部、裏だ」


 その瞬間。


 男の口元から血が溢れた。


「!?」


『魔力反応、内部崩壊』


「自壊術式……!」


 リィナが駆け寄る。


 だが遅い。


 男の瞳から光が消える。


 静寂。


 リオが小さく舌打ちした。


「本気だな、連中」


 ラウルは、動かない。


『情報は十分です』


(ああ)


「三日後、北倉庫区画」


 視線を上げる。


「行くぞ」


 初任務は終わった。


 だが――


 本当の仕事は、これからだ。


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