第2章:異世界の真実
1節 王都への旅
「ふぅ……やっと抜けた。」
森の出口にたどり着いた瞬間、俺は思わずその場にへたり込んだ。太陽が沈みかけたオレンジ色の空が広がっている。これまでずっと木々に覆われていた視界が開け、遠くには大きな城壁で囲まれた町――いや、あれは「城都」か?――が見える。
「……あなた、少しは体力つけたらどう?」
ティリアが冷ややかに俺を見下ろしてくる。彼女はほとんど疲れた様子もなく、リスのナヴィも彼女の肩の上で気楽そうに毛づくろいをしている。
「いや、あの森、長すぎるだろ……。ずっと歩きっぱなしだぞ?俺、普通の高校生なんだってば。」
「高校生?」
ティリアは首をかしげる。どうやら俺の世界の言葉は通じないらしい。ま、そりゃそうか。
「えっと……現代人っていうか、運動なんてほとんどしない人間って意味だ。」
「ふーん。」
まったく興味なさそうに流されて、俺はちょっと傷ついた。
「それで、あの町に行けばなんとかなるのか?」
「あれはこの辺りで一番大きい町、ラグスフィアの王都よ。冒険者ギルドもあるし、あなたみたいな迷子が行くにはちょうどいいわ。」
「冒険者ギルドか……おお、ファンタジーっぽい!」
興奮する俺を横目に、ティリアは少し考え込むように視線を遠くへ向けた。そして、肩のナヴィに小さく話しかける。
「……ナヴィ、あれは“普通の迷子”なのかしら?」
「ピィッ。」
俺には聞き取れない二人(いや、一人と一匹?)の会話が交わされる中、とにかく次の目的地が見えたことで安心感が広がる。
「よし、じゃあ行こうぜ!」
勢いよく立ち上がった俺だが、ティリアは腕を組んで俺をじっと睨みつける。
「待ちなさい。あそこは平和な町だけど、無防備で入ると危ない目に遭うわ。」
「え、何で?モンスターとか出るのか?」
「違うわ。人よ。」
「人……?」
彼女の言葉にゾクッとした。
「人間はモンスターよりたちが悪いわ。特に冒険者ギルドには、あなたみたいなよそ者を利用しようとする連中がいる。だから――」
「だから?」
「私が一緒にいてあげる。その代わり、町に着いたらちゃんと感謝してね。」
ティリアは面倒くさそうにため息をつきながらも、俺を見捨てる気はなさそうだった。
「……ありがとう、ティリア。」
俺が真面目に礼を言うと、彼女は少しだけ顔をそらして「どういたしまして」と小さな声で返した。その微妙に照れくさそうな様子に、俺は心の中でニヤリと笑う。
ラグスフィア王都の入り口は大きな門になっていて、門番が厳しい顔で立っていた。ティリアが何やら手続きを済ませてくれる間、俺は周囲をキョロキョロ見回す。行商人らしき人たちが大きな荷車を押していたり、鎧姿の冒険者が門の横で談笑していたりと、映画やゲームで見たファンタジーそのものの風景だ。
「おい、新入りみたいな顔してるな!」
突然、門の近くにいた鎧姿の男が俺に声をかけてきた。見るからに強面で、体つきもガッチリしている。
「あ、えっと……そうだけど?」
「お前みたいなガキがこの町で生き残れるとは思えねぇな。仕事が欲しいなら、冒険者ギルドで子守りの依頼でも受けるんだな、ハハハ!」
「……子守りって!」
露骨にバカにされた俺はムッとしたが、相手にするだけ無駄だと思い、無視することにした。
「大地、行くわよ。」
手続きを終えたティリアが俺を呼ぶ。俺はそそくさと彼女の後を追いかけた。
王都の中に入ると、そこはまるで別世界だった。広い石畳の道には屋台や露店が立ち並び、通りを行き交う人々の声が溢れている。華やかな雰囲気に圧倒されつつ、俺は目を輝かせて周りを見回した。
「すっげぇ……これが異世界の町か……」
「キョロキョロしないで。目立つわよ。」
ティリアが小声で注意してくる。確かに、俺の服装――普通の制服姿はこの世界では完全に浮いている。
「ごめん。でも、初めてなんだから仕方ないだろ。」
「仕方ないじゃないわ。襲われたくないなら、私の近くから離れないで。」
俺が「そんな怖いことあるのかよ……」とぼやいている間に、ティリアは王都の中心にある冒険者ギルドの建物を指差した。
「まずはここで登録を済ませなさい。冒険者にならなきゃ、この町で生活するのは難しいわ。」
「……冒険者か。うん、やってみるよ。」
こうして俺の異世界生活は、新しい章に進もうとしていた――。
2節 新たな仲間たち
冒険者ギルドの扉を開けた瞬間、俺の耳に響いたのは賑やかな喧騒だった。
「おい、次のクエストはオレたちがやるからな!」
「ふざけんな、てめぇのチームはこの間ヘマやらかしてただろ!」
「ギルドマスター!この報酬、どう考えても割に合わないだろ!」
――まるで居酒屋か何かかと思うほど、ギルド内は騒がしかった。奥の掲示板には無数の依頼が貼られていて、冒険者らしき連中が群がっている。豪華な鎧をまとった人から、ボロボロのローブを羽織った人まで、まさに「職業バラエティ豊か」といった感じだ。
「……ここ、すげぇな。」
「そんな呑気にしてる場合じゃないわ。」
ティリアが俺の耳元で低く囁く。俺が周りの光景に見入っている間にも、いくつかの視線が俺たちに向けられているのを感じた。
「……確かに浮いてるかもな、俺。」
普通の高校生の制服姿でギルドに入ってくれば、それは注目されるに決まっている。
「とにかく、まずはカウンターで登録を済ませるのよ。そうすれば少しは目立たなくなるわ。」
ティリアに促され、俺はカウンターに向かう。カウンターには白髪のショートカットが似合う、やけにスタイルのいい女性が座っていた。年齢は……20代くらいか?
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。今日はどのようなご用件で?」
にこやかに微笑むその女性は、仕事ができそうな雰囲気を漂わせている。
「あ、えっと……冒険者になりたいんですけど。」
俺が緊張しながらそう言うと、彼女は目を細めて「なるほど」という顔をした。
「新規登録ですね。それではこちらの書類に記入をお願いします。」
彼女が差し出したのは、なんとペンと紙。まさかこの異世界にペーパーワークがあるとは思わなかった。
「えっと、名前……年齢……スキル?」
項目を見ていくと、「スキル」の欄に手が止まる。そうだ、俺のスキルって何て書けばいいんだ?【創造魔法】なんて書いたら目立つんじゃないか?
悩んでいると、ティリアが後ろからひょいっと覗き込んできた。
「……大地、そこは適当に『魔法』でいいんじゃない?」
「魔法……?でも、魔法って一言で言っても色々あるんじゃ……」
「細かいことは気にしないで。下手に本当のことを書くと、ギルドの人間に目を付けられるわよ。」
「あ、そっか……」
ティリアの助言を受け入れ、俺は「魔法」とだけ書いた。そして書類を提出すると、白髪の女性は俺の紙を軽く見て頷く。
「登録は完了です。これがあなたの冒険者カードになります。」
そう言って渡されたのは、手のひらサイズの銀色のカードだった。名前や簡単な情報が記載されていて、どうやらこれが俺の身分証明書になるらしい。
「カードは大切に保管してくださいね。これがないと依頼を受けられませんし、報酬の支払いもできません。」
「なるほど、わかりました。」
手続きを終え、俺がほっと一息ついた瞬間――
「おいおい、新入りがいるじゃねぇか!」
突然、後ろから声がした。振り返ると、筋肉ムキムキの大柄な男がニヤニヤしながら俺を見ている。後ろには同じようにガタイのいい男たちが数人いて、どこからどう見ても不良グループだ。
「お前、初めて見る顔だな。このギルドに入るんなら、まずは“挨拶代わり”の一杯を奢ってもらわないとな?」
「……は?」
意味がわからず固まる俺。どうやらこういうヤツらはどこの世界にもいるらしい。
「やめなさい、エグル。」
そこに割って入ったのは、カウンターの女性だった。さっきまでの柔らかな笑顔は消え、冷たい視線で男を睨みつけている。
「新規登録者に絡むのはギルドの規則で禁止されているはずですよ。違反したら、ギルドマスターに報告します。」
「……チッ、つまんねぇな。」
エグルと呼ばれた男は舌打ちして去っていった。俺は肩をすくめつつ、内心でホッとする。
「助かった……」
「本当に無防備ね。」
ティリアが呆れたように言う。それはわかってるけど、俺だっていきなり絡まれるのは想定外だ。
「まぁまぁ、大丈夫ですよ。」
カウンターの女性が再び笑顔に戻ると、俺たちに向けて軽く頭を下げた。
「申し遅れました、私はこのギルドの受付を担当しているシアナと申します。冒険者として困ったことがあれば、いつでもご相談くださいね。」
「ありがとうございます、シアナさん。」
こうして、俺の冒険者生活はシアナさんのフォローとティリアの助けを受けながら、なんとかスタートを切ることができたのだった――。
3節 力の源、スキルの獲得
「ここからどうするつもり?」
ギルドを出た後、ティリアが肩にナヴィを乗せながら俺に問いかけてきた。その口調はどこか試すようなニュアンスを含んでいる。
「どうするって……とりあえず、簡単な依頼から始めるしかないだろ?」
俺は冒険者カードを握りしめながら答えた。ギルドで渡された紙には「新人向けの依頼リスト」と書かれており、一番簡単そうな「スライム討伐」の依頼を選んでみた。
「スライムって、あの柔らかいゼリーみたいなやつだろ?これなら俺でも何とかなるんじゃないかと思って。」
「……甘いわね。」
ティリアが冷たく言い放つ。その声にちょっとビビりながらも、俺は「いや、でも」と言葉を返した。
「スライムってゲームだと弱いモンスターの象徴だぞ?いくら俺でも倒せるって。」
「だったら行ってみればわかるわ。」
ティリアは肩をすくめると、ナヴィが「ピィッ」と小さな声を上げる。どうやら俺の初仕事が見ものだとでも思っているらしい。
スライム討伐の場所は、王都から少し離れた丘陵地帯だった。そこに生えている草を食い荒らすスライムが増えて困っているというのが依頼の内容だ。
「よし、やるか!」
俺は気合を入れて剣を構える。しばらく歩くと、草むらの中でモゾモゾと動いている小さな青い物体が見えた。
「……あれか?スライムって。」
「そうよ。ほら、さっさとやりなさい。」
ティリアが冷めた口調で促してくる。俺は緊張しつつもゆっくりとスライムに近づき、剣を振り下ろした――が。
「うわっ!」
剣がスライムの柔らかい体に触れるや否や、弾かれるように跳ね返された。
「えっ、何これ!?全然効いてないんだけど!」
スライムはぷるぷると体を揺らしながら、こっちに向かってくる。
「それじゃ倒せないわ。」
「いや、倒せないってどういうことだよ!?剣で刺せばいいんじゃないのか!?」
「スライムは柔らかい体を持ってるから、普通の剣だと有効打を与えられないの。核を狙わないとダメよ。」
「核……ってどこだよ!?」
「自分で考えなさい。」
ティリアは軽くため息をつきながら、後ろで腕を組んで見守っている。
(くそっ、核ってどれのことだ!?)
焦る俺の目の前で、スライムが飛び跳ねながら近づいてくる。その動きが妙に俊敏で、さらに焦りを煽る。
「落ち着け、大地。俺には【創造魔法】があるんだ……!」
自分を奮い立たせるようにそう呟き、俺は頭の中で「スライムに効く武器」をイメージした。剣ではダメなら、もっと柔らかいものに対応できる武器が必要だ――例えば、槍とか?
「頼む……これでどうだ!」
俺がそう叫ぶと、手の中に光が集まり、鋭く細い槍が出現した。
「やった!これで核を狙えば――」
その瞬間、スライムが大きく体を膨らませた。
「え、ちょっ、何!?膨らんで――うわあああ!」
スライムが飛び跳ねる勢いで俺にぶつかり、バランスを崩して地面に転がる。槍はスライムにかすりもしなかった。
「……もう少し冷静にやりなさい。」
ティリアが呆れた顔で言う。その言葉にムッとしながらも、俺は再び槍を構えた。
「わかってるって!今度は――!」
スライムの動きをじっくり観察してみると、体の中心あたりにほんのり光る何かが見えた。
「……あれが核か!」
俺は体勢を立て直し、狙いを定めて槍を突き出す。槍の先端がスライムの柔らかい体を突き抜け、核に直撃した瞬間――スライムはぷしゅっと小さな音を立てて消滅した。
「や、やった……!」
俺が喜びに浸る間もなく、スライムが消えた場所には小さな青い石が残っていた。
「これ……アイテム?」
「魔石よ。スライムを倒すと必ず手に入るわ。」
ティリアが近づいてきて説明してくれる。その顔には少しだけ俺を見直したような表情が浮かんでいた。
「ふぅ、これで一匹目はクリアだな……次もいける気がする!」
「調子に乗らないで。あと5匹は倒さないと依頼は達成にならないわよ。」
「え、5匹!?」
「冒険者なんだから当然よ。さっさと終わらせましょう、大地。」
「……わ、わかった。」
こうして俺の冒険者としての初めての戦闘――いや、試練はまだ続くのだった。だが、この経験を通じて俺は、自分のスキルの使い方や異世界の戦い方を少しずつ学んでいくことになる。




