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第38話。おなかがすいた鞠絵、ごはんを食べる。水竜の幼い子どもたちがやってきてお礼を言われ、可愛らしくて笑ってしまう鞠絵。

第38話です。

「な、な、何をしているのですか!」

「マ・リエ殿、本当に、本当にありがとうございました…!」

 平伏している全員の声がハモる。

「我々のために…こんなにご負担になるまで御力を使わせてしまい…まことに申し訳ございません」

 トリスラディ様が、顔を伏せているためにくぐもった声で言うのに、水竜の父親のほうが続けた。

「しかしおかげで我々はこの砦を守り切り、帝国軍をこれ以上血を流すことなく追い返すことができました。これ全て、マ・リエ殿のおかげです」

 そしてまた全員の声が唱和する。

「我々をお救い下さり、御礼申し上げます…!」

「いっいえ、私は私にできることをしただけで。それにナギの力を随分借りましたし」

「ナギ殿は起きておられるのですか?」

「いえ、もう眠ってしまいましたけど」

「そうですか…」

 ひどくがっかりした様子のトリスラディ様には申し訳なくて、私は苦笑いしながらこの場をどうにか治められないものかと言ってみた。

「あの、おなかがすいたのですけど…」

 てへ、という顔でそう茶化してみせると、すぐに柔らかい食事の支度をさせましょう、と言ったレイアが部屋を出ていった。

 わあ、数日ぶりのごはんだ。おなかがぐうー、と音をたてたものだから、私は真っ赤になった。

「そうよね、おなかがすいたわよね」

「姫様、一緒にごはんを食べましょう!一人じゃ寂しいですものね」

 サラとタニアが笑顔で私を覗き込む。は、恥ずかしい…。

 その後ようやく皆が床から立ち上がってくれたので、私はほっとした。こんな対応をされる柄じゃないし、本当にナギの力のおかげなんだから。

 その後部屋に運んでもらったごはんは、私とサラとタニアの分だった。二人もまだ昼食を食べていなかったらしい。

 私の分は少し柔らかくしてくれていて、数日食べ物を入れていなかったおなかに優しくて美味しかった。

 これは…私のいた世界のクラムチャウダーに似てる。海産物と牛乳を使ってるのかな。温かいし煮込まれてて柔らかいし、とってもいい匂いがしていくらでも食べられそうだ。

 付け合わせのパンもふっくらと焼き上がっていて香ばしく、軽く力を入れるだけで裂けるほど柔らかくて、シンプルながらバターの香りが鼻腔をくすぐる。

 あとこれは…魚を煮たものだろうか。フォークを入れるだけでほろりと身がほぐれて、白い肉にとろみのあるソースが絡んでいて、私はあっという間に全て平らげてしまった。

 食事の間は三人にしてもらっていたが、食後しばらくするとトリスラディ様と水の守護竜夫婦が、子供たちを連れて戻ってきた。

「マ・リエおねえちゃま!」

 エナが駆け寄ってきて、ベッドの上によじ登るのをあわてて母親のノエラが制しようとするのを、私は止めた。

「ねえたま」

 父親のエデルの腕の中から、エナの弟のシャルが両手を私に伸ばしてくる。私は微笑んで、彼らに手を差し出した。

 なんて可愛いの。ベッドの上に上がってきた二人を、私はぎゅっと抱き締めた。

 温かい。生きている。良かった。舌足らずにねえたま、と呼ばれて、私ば可愛さに胸がぎゅっとなった。

この子たちより大きいけれど、キアを思い出してしまって、ユニコーンの村が懐かしくなった。

「あたしね、どうしてもおねえちゃまにおれいがいいたくて、おとうちゃまとおかあちゃまにいってつれてきてもらったの!」

「しゃるも」

 エナとシャルはベッドの上で幼いながらに背筋をぴんと正して、私を見つめて言った。

「マ・リエおねえちゃま」

「ねえたま」

「ありがとうございました!」

「した!」

 わー、可愛い!でもこの子たちは一生懸命なんだ。私は緩んでしまいそうになる表情筋を引き締めながら、御礼を言ってくる子供たちに頷いてみせた。

「ふふふ、いいのよ。あなたたちが無事だったんだから、私はそれで満足よ。もう、怖かったりしない?」

「うん…ほんとは、お部屋に帰ってからも、ちょっと怖かったの」

 ああ、やっぱり。幼い心に刻みつけられたトラウマを考えると、私の心はズキリと痛んだ。

「でもね、おかあちゃまがマ・リエおねえちゃまにおしえてもらったっていうじゅもんをとなえてくれたから、だいじょうぶになったのよ。ね、シャル」

「うん、だいじょぶ!」

 呪文?そんなもの、何も教えてなどいないけれど。

 首を傾げている私に、ノエラが子供たちの肩に手をかけながら説明する。

「あの時、子供たちに歌ってくださいましたでしょう」

「?」

「『痛いの、痛いの、飛んでいけ』と」

 あー、あれ!確かに呪文といえばそうかもしれないけど…。

 私は首をすくめて、そうでしたか、と笑った。

「砦に戻っても、子供たちは怖がって時々泣いていました。ですがあの呪文を子供たちに唱えて聞かせるうちに、いつの間にか泣き止んで眠ってしまうのです」

「まあ、それは良かったです。あれは呪文というよりおまじないのようなものですけど…」

「そうなのですね。でもこの子たちには効きました。ありがとうございます」

 そんなこと。ちょっと思いついて言っただけのおまじないが効いたのは良かった。きっとノエラは守護竜で力があるから、おまじないでも効果があったのだろう。

「マ・リエ殿、私どもは水の守護竜の任を他に譲って、子供たちと一緒に水竜の里へ帰ろうと思います。しばらくは子供たちの心のケアを一番にしてやりたいです」

 そう守護竜の二人が頭を下げるのに、私は頷いた。

「そうですね、それがいいと私も思います。子供たちばかりでなくあなた方も、傷ついた心を癒すのは大変かもしれませんが、里でゆっくり療養なさってください」

「はい、ありがとうございます」

「マ・リエ殿はこの後どうなさいますか?」

 トリスラディ様がそう問うてくるのに、私は食後のお茶を頂きながら答えた。

「ユニコーンの村に戻りたいと思います。もうずっと帰っていないので」

 私にとって、ユニコーンの村はもうこちらの世界での故郷みたいなものだ。あの優しいユニコーンたちの村に戻りたくて、皆と会いたくて仕方がなかった。

「それでは私がお送りいたしましょう」

 そう申し出てくれたのは、水竜の父親のほうだった。

「えっでも」

「私の背にお乗りいただければ、揺れることも大してございませぬ。他のユニコーンの方々と雷虎のスピードならば、馬車に乗るよりもずっと早く到着いたしますよ」

 それは…有難いお申し出だけれど。

 私はチラリとルイを盗み見た。どうしても仕方がない時にダグに乗ること以外、他の誰かの背に乗ることを頑なに嫌がってきたルイは、けれど皆と一様に頷いていた。

「いいの、ルイ?」

「本当はオレ以外の背に乗せるのは嫌だが、マ・リエのことを考えればこれが一番いい方法だと思う。…本当は、イヤだが。ほんとうは」

「膨らんでみせてるとこなんか、ほんっとルイはお子ちゃまだな~。私は大賛成ですにゃ!」

 タニアがニヤリと笑ってルイをからかう。

「ふっ膨らんでなんかない!バカにするなこのネコが!」

「ネコじゃないですし~虎ですし~しかも雷打てますし~」

「おっオレだって風魔法が使える!」

「まあ、まあまあまあ」

 トリスラディ様が仲裁に入ってくれた。

「それでは水竜のエデル殿に乗ってユニコーンの村へ戻られる、ということでよろしいですな?」

「はい」

「マ・リエ殿は数日間昏倒されて目覚められたばかりだ。今日明日はこの部屋でゆっくりなされて、その後出発といたしましょう」

 でも…お父さんが私のほうに来てしまっては、水竜の子供たちは大丈夫だろうか。

「あの…里にお帰りになるのでは…」

「急いではおりませんので大丈夫です。ここの護りは妻のノエラと義妹のレイアもおりますし、ご心配なさるな。ぜひ、送らせていただきたいのです」

 エデルがどうしてもと引かないので、私は乗せていってもらうことにした。翌日までは体を休めた私たちは、さらにその翌日出発した。(続く)

第38話までお読みいただき、ありがとうございます。

久々にユニコーンの村に帰ることにした鞠絵さん。

また次のお話も読んでいただけましたら嬉しいです。

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