文化祭準備
我が2年F組の文化祭での催し物は『たこ焼き』に決まった。
他のクラスはまだ決まっていない所を見ると、ウチはすんなりと決まったのだな、と感心してしまう。
これがクラスの団結力が良いと捉えるか、他力本願と捉えるか……。
兎にも角にも、俺達は決まった出し物の準備に取り掛かる。
クジで決まった――仕組まれた結果、買い出しは俺と瑠奈。
放課後になり俺達は学校近くのスーパーへとやって来ていた。
「ええっと。たこ焼きの材料は……」
スマホを見ながら瑠奈はブツブツと呟く。彼女の隣をスーパーのカートを押しながら歩く。
「そういえば最近はたこ焼きにたこを入れずに違う具材を入れたりするんですよね?」
「そうだな。ウィンナーとかチーズとか。キムチ入れたりちくわ入れたり」
「たこ焼きなのに可笑しな話」
「全くだ」
普通――だな……。
振った、振られた相手同士、時間もそんなに経過していないので気不味い雰囲気になるはずだが、やはり瑠奈はそんな空気を一切出さずに話かけてくれる。
それは正直にありがたいのだが――不気味である。
何故、仕組んでまで俺と一緒になりたいのか……。
完士の言葉も気になるし……。やっぱり俺達の仲を引き裂こうって魂胆なのか?
でも、そんな事をして――仮に成功したとしても俺は瑠奈には靡かないぞ?
グルグルと頭の中で考え込んでいると「時人君?」と聞こえてきた。
「聞いてる?」
「――え?」
ふと瑠奈の顔を見ると少し不機嫌な顔をする。
「やっぱり聞いて無かった」
「ごめん。――何?」
「だから、私達も変わり種のたこ焼きでもします? って」
「変わり種?」
「ウィンナーとかチーズとか」
「ああ……」
生返事を返すとこちらをジッと見てくる。
「もしかして雫ちゃんの事でも考えていました?」
「雫?」
俺の反応に「ハズレっぽいですね」と少し悔しそうな声を出していた。
「――なぁ? 何か企んでいるのか?」
俺は気になる事を彼女に質問する。
「完士にクジ仕組ませて、俺と買い出しとか……」
「さて……。何だと思います?」
「なんなの?」
「それは秘密です。ま、大した理由じゃありませんよ」
「大した理由じゃないなら教えてくれや」
「秘密の内容に関わらず、秘密を抱えている女の子って魅力的じゃありません? ミスティックガール。ふふっ」
だめだ。教える気0だ。ま、期待して無かったけど。
「――じゃあさ、何で俺と雫が付き合ってるって知ってんだ?」
もう1つ気になる事を尋ねると含みのある笑いで言ってきた。
「今、聞きました」
「は?」
「今、時人君の口から聞きました。雫ちゃんと付き合ってるって」
「お前……カマかけてたのか?」
そう言うと小さく笑いながら「そうなりますね」と答えてくる。
「でも、まぁ……。そうだろうとほぼ確信はしていましたね。だから完士君にも伝えておきました」
「そうか……」
「だから聞いたのですよ。『その恋は本物ですか?』と」
「それはどういう――」
俺が聞こうとすると瑠奈は立ち止まる。
「主従関係において恋愛は成立するのかどうか……」
「何が言いたいんだ?」
「似ていますからね。雫ちゃんと完士君は」
彼女が何を言いたいのか意図が掴めない。
「もしも、私が完士君に恋心を抱いて、完士君も私に好意を持ってくれて――完士君が気持ちを打ち明けてくれても……私は断ります」
「――居場所が無くなるから?」
「流石。完士君の事もお調べになっているのですね」
「お互い様だろ?」
「はい。ですので何も文句はありませんし、言うつもりもありません」
澄ました顔して言ってくる瑠奈に言ってやる。
「俺もずっとそうだった。だから瑠奈の考えは分かる。だけど今ならはっきりと言えるよ。本物だってな」
「そう……ですか。そこまで自信がおありならこれ以上嫌らしい事は言いません」
言いながら瑠奈は目の前のお菓子を入れた。
「おいおい。これは怒られるぞ」
「嫌らしい事は言いませんが、嫌らしい事はします」
「なんちゅう女だ――」
♦︎
スーパーでの買い出しを終え教室に戻って来る。
教室では店の内装と外装を考える組とたこ焼きを作り届けるキッチン・ホール組に分かれて作業をしている。
俺は買い出しなので自ずとキッチン・ホール組に選ばれた。
「へい。お待ち」
スーパーで買ってきた大量のたこ焼き材料を机に置く。
「ありがとう堂路」
「サンキュ堂路」
「爆ぜろ堂路」
「サンクス堂路」
「ナマステ堂路」
おいおい。1個変な礼が混ざって無かった? ま、良いか。
「疲れた疲れた」と言いながら肩を回すと「堂路くん」と俺の目の前にクラスメイトを演じる雫が立つ。
すると耳元で「お疲れ様です」と囁いてくれる。
「んふぉ……」
雫の息が耳に入り変な声が出てしまう。
「何変な声だしてるんですか」と小さな声で言われてしまう。
「しょうがないだろ。変な感じだったんだから」
「ま、良いです。それより――」
雫が何かを言おうとしたら「おーい。堂路ー。ちょっと来てくれー」とクラスメイトに呼ばれたので「あいあい」と答える。
「ごめん。星野。またな」
「あ、う、うん」
雫には悪いが呼ばれたのでそちらの方に足を向ける。
「どったの?」
呼ばれたクラスメイトの所へ行くと、ボールにたこ焼きの種作りの最中らしく、中身を混ぜながら言ってくる。
「一ノ瀬さんたこ焼き作った事ないらしいから、教えてあげてくれない?」
「俺が?」
「ああ。だって買い出し一緒だったんだし、それならそのままバディ組んだ方が良いだろ?」
「その理論は全く分からないけど……。まぁやった事ないならしょーがないな」
クラスメイトの願いを聞き受けて、たこ焼き機と睨めっこしている瑠奈の元へ行く。
「――あ、時人君。この機械壊れていますよ。スイッチを入れても熱くなりません」
「ふむ……」
俺は掌を広げてたこ焼き機の上に20センチ離れた位置で熱を確認する。
全然熱くなっておらず、ちょっとずつ掌の下降させて行く。
それでも変わない。
そこでふとケーブルに目が行き、その先を見てみると――。
「――んだよ……」
俺はケーブルの先を彼女に見せる。
「コンセント刺さってねー」
「あら。あらあら。あははー」
恥ずかしさと恥ずかしさが混ざり、超恥ずかしい感じの笑いが出ている瑠奈。
「瑠奈。これで電源入るから気を付けろよ」
「はーい」
俺がコンセントをさすと、段々とたこ焼き機は熱を帯びてくる。
「出来たよー」
クラスメイトが種を持ってきてくれて俺に渡してくれる。
「瑠奈はやった事ないんだよな?」
「はい。初めてです」
「そんじゃとりあえず俺の奴見てて」
油をたこ焼き機の穴に塗り、ボールから種をたこ焼きの穴にそれぞれ入れていく。そしてすぐにたこ焼きの命とも言えるたこをそれぞれ入れていく。
ある程度時間が経てば種が固まってくるので、竹串でクルリと回転させながらひっくり返す。
ひっくり返したら好みの焼き加減で終了。
簡単、便利、色褪せない美味しさのたこ焼きの完成。
皿に移したたこ焼きを瑠奈に差し出す。彼女は竹串でたこ焼きを食べると「あちゅちゅ」と声を出す。
「大丈夫か?」
「はふっ。はふっ。大丈夫です」
そう答えてくれてゴクリと食べ終える。
「どう?」
「普通に美味しいですね」
「だろー。次は瑠奈作ってみ」
「分かりました。これは花嫁修行の見せ所ですね」
「ん? やった事ないって聞いたし、言ってなかった?」
「ちょっと言ってみたかっただけです」
「息をするように嘘をつく女だな」
そう言いながらも彼女は料理の才能があるのか、俺の見様見真似でたこ焼きを作っていくと、出来たたこ焼きを俺に差し出す。
「――じゃあもらおうかな」
「どうぞ召し上がれ」
竹串でたこ焼きを食べる。
「――!?」
「どうですか!?」
「美味い!」
「ホントですか!?」
「でもたこが入ってない」
「あらら……」
瑠奈は転けそうになった。
「いや、でもたこ無くても美味しいな。なんでだ? 同じ材料のはずなのに……」
「ふふふ。やはり花嫁修行の成果ですかね?」
「そうなのかな? あはは」
「うふふ。では、次はたこを入れて時人君の舌を満足させてあげます」
「ソースとマヨも次は付けようぜ」
「鰹節もありますよ」
こうして瑠奈の初めてとは思えないたこ焼きを堪能させてもらった。




