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買い物を終えて

「ただいマリモ……」


 瑠奈との買い物と食事を終え、時間的には早いが解散となった。

 今回のあちらの目的は達成された訳だし、何ら不思議な事ではない。

 でも、もしかしたら、まだ一緒に居たい、みたいな言葉が放たれるかと思ったけど――。


『今日はありがとうございます。また月曜日に学校で』と言われてしまった。


 次はどんな事を言ってくるのか構えていた手前、少し拍子抜けだったな。


「おかえりなさいませ。ハトポッポー」

「誰がハトポッポーじゃ。やめんか」


 いつもの出迎えのテンションで言ってくるから、少し笑ってしまった。


「ですが、小学生の頃によく、おちゃくられた言葉『ハトポッポー』が無ければ今頃時人様は瑠奈さんにコロリと逝ってましたよね?」

「うっ……。それは……」

「感謝して下さい。ハトポッポーに」


 昔、よくクラスメイト達に俺をおちょくる時に言われた言葉に感謝する日が来るとは皮肉な物だ。


「あ、あれだ。雫の目的は達成されたのか?」


 ハトポッポーの話題から背ける為に聞くと、雫は頷いて答えてくれる。


「リビングに資料をご用意しておりますので」

「資料ね……」


 そういうところは本格的にしたがるよな。何て思いながら家に上がり、手洗いうがいをしてリビングへ。


「これか……」


 ダイニングテーブルにはノートパソコンとクリアファイルが置かれていた。


 なんだか、今から会議でもするかの様な勢いだな。


 そんな事を思いながらいつもの席に着席すると、後から雫が入って来て、いつもの席ではなく、俺の隣に着席する。


「本日はパソコン操作がありますので隣に着席させていただきます」

「んー」

「勘違いしないで下さい。別に時人様の隣に座りたいとかじゃありませんから」

「はは、分かってるっての」


 俺は流す様に言いながら資料を手に取り表紙を見る。一体いつ作ったのやら……。


「あっそ」


 雫は少し機嫌悪く呟いた。

 コイツ、今日の昼飯辺りから機嫌悪いな。


「それで? 結局はどうだったんだ? 仲間ってのは見つかったのか?」

「はい。こちらをご覧下さい」


 雫がパソコンを操作して動画を見してくれる。

 そこには昼前の観覧車前で待つ俺の姿が上空から映し出されていた。


「ほんと……お前どこいたの?」

「隠密行動は誰にも教えてはいけません。それは例え主人であってもです」

「忍かよ……」


 動画は俺が手持ち無沙汰の為にスマホをいじっている姿が映っている。

 

「彼女に待ちぼうけをくらう、筋トレ好きの草食系男子みたいですね」

「――否定したいけど、否定出来ないな……」


 側から見るとこんな感じなんだな……。もっと筋トレしないと……。あ、ホエイプロテイン買おう……。


 そんな事を思っていると、カメラは徐々に横にスライドしていく。


「あ、ここです。分かりますか?」

「ん?」


 カメラがある位置で止まると雫に言われる。


「ここ」


 パソコンの画面を指さして、小さく丸を描く。


「瑠奈さんと――」

「あ……。完士じゃん……」


 人混みの中、瑠奈と完士の2人がカップルみたいな距離でカメラに映っていた。


 その後、瑠奈は完士を置いて駆け足で観覧車前に走って行った。


「序盤から知ってたの?」

「まぁ」

「お前『それらしい人物はいない』とか何とか言ってなかった?」

「いきなり言うと時人様の精神が不安定になると思いまして」


 そう言われて納得してしまう自分がいた。


「――それは……あるかも……」


 俺は天井を見上げて「やっぱ完士か……」と溜息混じりで声を漏らして、髪の毛を上に掻き分ける。


「ショックですか? 予想はしていたとお見受けしておりましたが?」

「そりゃ予想はしてたけど……」


 頭を掻いて答える。


「予想と真実は全然違うからな。やっぱ完士ってなると、今まで接して来たのは『友達』としてじゃなくて『ターゲット』としてなのかと思うと複雑な心境だわ」

「本当にそうでしょうか?」


 俺の沈んだ声にフォローを入れて、雫は動画を止めて俺を見る。


「確かに室壁 完士さんは当初、その様な目的で時人様に近づいたのかも知れませんが、側から見ているとお2人は気の合う友人の様な関係に見えます」

「それを演じるのが完士の仕事なんじゃないの?」


 俺の言葉に雫は指を顎に持っていき眉を潜めて言ってくる。


「ですが……。少し違和感があるのです」

「違和感?」

「隠密行動を取っているかと思えば爪が甘いというか……。今回だって、ギリギリまで主人と2人でいるし」

「ああ……。確かに……」

「もしかしたら時人様に早く気が付いて欲しかったのでは?」

「そんな事ある? バレない方が色々良いと思うけど?」

「人間、秘密事というのは親しい人に話したい物です。例えば自分の好きな人とか――。そういう心理が彼には見られる気がします」


 雫の言う通り、人間には別に隠しておけば良いのに、わざわざ自分の秘密を曝け出したい心理が存在する。それは信頼関係の高い人物程言いたい欲が強くなる。

 それでトラブルになる可能性もあるのだがな。

 難しい物よ、信頼関係というのは――。


「――という事で今回は初、男性について調べてきました」

「相変わらず仕事が早いな」

「資料の3ページを開いて下さい」

「ちゃんとページ数も振り分けてるのかよ……」


 軽く笑いながら指定されたページをめくる。


「室壁 完士。珍しい名前ですが本名みたいです。生い立ちは私と似ていますね。幼い頃より両親不在の為、一ノ瀬家で住み込みの執事として働いています。主な仕事は一ノ瀬 瑠奈さんのお世話係。中学までは瑠奈さんと同じ学校で陰ながら彼女をサポートしていましたが、高校受験を機に今の学校を受験なさっております。その目的は――」


 雫がチラリとこちらを見る。


「――俺か……」

「はい。ですので、中学生の頃から既に一ノ瀬家から狙われていた事になります。その時期位から『イチノセフードサービス』の業績も悪くなっておりますので合点はいきますね」

「――はぁ」


 俺は大きく溜息を吐いた。


「ほんと……。先に執事を送り混んでまで俺を狙うなんて……。マジで何で俺だよ……」

「何処が良いんでしょうね? これの……」


 ジト目で見てくる。


「容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の金持ちとくりゃ狙われて当然! ってかー?」


 雫に言われたのが悔しいので、調子の良い事を言うと雫の氷の様に冷たい言葉が返ってくる。


「人生でのバレンタインチョコレートの総数5つ。その5つ共に義理チョコ。告白された回数0回。女の子に噂された回数0回。女子による学年別男前ランキング圏外。――中学生の頃の成績は学年15位。上の方の学校へは行ける可能性があると言われました。しかし無難な公立高校を受験。高校では学年順位が最高7位まで上がった所で天狗になり、この前のテストでは順位を落として12位。――小学生から中学生まで野球をしており、ポジションはピッチャーでエースと呼ばれる程の方でしたね。中学生では化け物レベルと言われる130km/hのストレートとキレのあるスライダーでバッター達を何度三振に取ったか分からない程。ただ、野球は出来ても他はどうでしょう? サッカーやバスケは初心者に毛が生えた程度。足もそこまで速くない。確か、でんぐり返し出来ませんでしたよね――」

「なっがーい!」


 俺は大きく叫んだ。


「長すぎるわ! どんな性格してたら、そんなに長い台詞を無表情で冷たく言えるんだよ! アンドロイドか! 所々にツッコミ所あったけど、ダメージデカすぎてできなかったわ!」

「――結果、微妙なスペックの金持ち――というのが時人様に相応しい称号かと」

「そんな称号いるか! お前、ホント口悪いな」

「どうした事でしょうね。メイドになる前までは性格良かったのですが」


 確かに雫の言う通り、あんな事になる前の雫は皆の人気者で、男子の憧れの的だったな。誰にでも優しかったし、こんな性格じゃなかったな。あーあ、あの頃の雫はめちゃくちゃ可愛かったのに、今となっては――。


「またムカつく事考えてますよね?」

「別に」


 軽く俺を睨み付けて「あっそ」と冷たく言う。

 いや、ご主人様を睨むなよ。


「――ともかく微妙なスペックで金持ちしか取り柄のない時人様ですが――」

「ホント容赦ないよな? オーバーキルだぞ?」

「――すみません。金持ちという設定も無くして頂きます。ページ5ページへ」

「設定?」


 俺は首を傾げながら資料の5ページを開く。


「今日のデートで時人様の設定が決まりました」

「あ、ああ……。父親が営業とか言ってしまったもんな」

「はい。ですので、時人様はこれからご学友達との雑談の中で、家族の話になった場合次の様に話を合わせて下さい」

「なになに――」


 父親は中小企業の営業で年収550万。家族は専業主婦の母と中学3年生の長女の4人家族。

 父親は私立大学卒。万年平社員だが同僚の信頼は厚い。

 母親は元読者モデル。ブログの広告収入で自分の服とかを買っている。旦那には許しを得ている。

 妹は兄の事が表向きでは嫌いだが、本心からではない。ブラコンと思われたくないが、ちょっぴりブラコン。容姿は良く、月1で告られている。

 父親の口癖は「飲み行ってた」母親の口癖は「弁当箱出しといて洗うから」妹の口癖は「きも」


「――なにこれ?」

「時人様の家族設定です」

「ここまでいるか?」

「設定は大事ですよ。何せ瑠奈さんには少し家族の事を話してしまったのですから」

「それは確かに」


 俺が納得してみせると、雫はノートパソコンを閉じて資料を回収する。


「ともかくはこれで、瑠奈さんの仲間も判明し、瑠奈さんが時人様を狙う方針も分かりました」

「方針?」

「はい。自分の家柄はバレても良い。しかし、時人様の家の事を自分は知らなかったという『まぁ! たまたまの偶然! 時人君って実はお金持ちだったんだ!?』パターンでくる気です」

「しらこく来るパターンね……」

「今日のデートで分かった事は以上です。何かありますか?」


 その問いに俺は首を横に振って「特には」と答える。


「――確認ですが、本当によろしいのですか?」

「何が?」

「あれほどの美貌の方です。今回もコロリと逝きそうになりましたけど、そのまま身を委ねても良かったのでは?」

「バカ言うな。あれは……たまたま……だよ」

「歯切り悪……」

「――相手の目的が政略結婚なんて絶対嫌だっての! だから雫、サポート頼むぞ」


 そう言うと雫は少し口元を緩めて答える。


「かしこまりました。ご主人様」


 こうして、社長令嬢が執事と共に惚れさそうとしてくるので、俺はウチのメイドと共にそれを阻止する日々が始まったのであった。

 お読み頂いてありがとうございます。


 ここまでが一応プロローグ的な感じとなっております。プロローグとしたら長い気がしますね笑


 少しでも、面白い、興味あると思って頂けたら下のお星様にて評価して貰えると光栄です。


 また、感想等頂けましたら飛び跳ねる程に喜びます。


 これからも頑張りますのでよろしくお願いします!

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