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体育祭④

 グラウンドに行くと既に閉会式は始まっており、団員全て――生徒は全てグラウンドの中心に集まっていた。

 今からグラウンドの中心に向かって合流するのも変に目立ちそうだし、わざわざ行く必要性を感じないので、閉会式を外野から見守る事にした。


「時人」


 突如聞こえてきた男性の声に振り返ると、そこには親父が立っていた。そして親父の隣には見覚えのない男性が立っていた。親父と歳は同じ位で、眼鏡の知的な男性だ。


「気絶したんだって? 大丈夫かよ」


 半笑いで聞いてくる。


「己は大事な息子が気絶したのに笑いながら聞いてくるなよ」

「あっはっは。お前が頭打っただけで気絶するかよ。どうせ瑠奈の胸に包まれて興奮して気絶したんだろ。そんな奴に心配なんて無用だわ」


 半分当たり。


「ば、ばか! そんな漫画みたいなんで気絶すっかよ!」

「あーはっは!」


 高らかに笑われてしまい、隣の男性も苦笑いを浮かべていた。


「――と、ところで、こちらの方は?」


 話を変えたいのと、隣の男性の事も気になり親父に問う。


「ん? ああ。高校、大学の時の後輩で――」

「五十嵐です。どうぞお見知り置きを」


 そう言われて「五十嵐さん?」と疑問形で問うと、彼は察した様に言ってくれた。


「陽葵より話は伺っておりますよ」

「やはり五十嵐さんのお父様でしたか。五十嵐さんにはいつもお世話になっております」


 言いながら頭を下げる。


「こちらこそ娘がいつもお世話になっております」


 彼も頭を下げてくれた後に「ふふ」と軽く笑いながら頭を上げて親父を見る。


「先輩と違い、この歳から礼儀正しく育てられていらっしゃる」


 嫌味の様な言い方に親父は笑いながら「おうよ」と答えて続ける。


「誰の息子と思ってるんだ? 俺やで?」

「だから驚いているのですよ。さぞかし莉乃さんの血が多く流れているのでしょう」

「アイツは最高の女だからな! いやー、まじでアイツの血が多いなら鼻高いわー」

「――よく、こんな人があれほどの会社を纏めていらっしゃる……」


 五十嵐さんの言葉に「同感です」とつい言葉に出して共感すると、彼は優しい目で俺を見る。


「あんなお父様だから時人さんも苦労した事でしょう」

「そうですね……。父との性格の違いで苦労した事があります……」

「お察しします……。あの人は我々の業界でも特殊な方ですので、参考になさらず、時人さんは時人さんらしく会社を纏めていって下さい」

「あ、は、はい」


 いきなりの言葉に頷く事しか出来なかった。


 五十嵐さんは俺に言い終わると親父に話かける。


「――では、私はそろそろ。陽葵に見つかると後がうるさいので」

「そうか。ほなまた。あ、今度飲み行くから空けとけよ」


 そう言うと五十嵐さんは嬉しそうに「勿論です」と言ってその場を去っていった。


「――五十嵐さんって何してる人?」


 先程彼が発した「我々の業界」と言うのが気になり親父に聞く。


「ん? ああ。『あらし製作所』の社長」


『あらし製作所』――大手総合電気メーカー。そこの社長か……。


「――あー。っぽいわ。分かるわ」


 そんな偉い人だと後で分かっても、あの人なら何の驚きも無かった。

 という事は五十嵐さんも社長令嬢という事になるのか……。そこには驚きがあるな。


「昔はあんなにガチガチじゃ無かったのに、親の会社引き継いだらアレだわ」

「――てか、高校からの後輩なら、あの人も普通の公立校出身って事?」

「あー……。アイツの場合は……色々あったな……」

「色々?」

「あはは。その話すると怒るから俺の口からは言えないな。気になるならアイツの会社に遊びに行った時に聞けば?」

「そんな、友達の家に行くノリで会社に行けるかよ」

「そう? お土産に冷蔵庫とかくれるかもよ?」

「お土産のレベルがすごいな……」


 呆れた声を出すと親父は笑いながら歩き出す。


「そんじゃ体育祭も終わったし俺は帰るわ。今年も目的の人物は現れなかったからな」

「目的の人物?」


 なんだか意味深な言葉が出てきたので問うと親父は背中で笑いながら言ってくる。


「ま、気にすんな。あっはっは」

「気にするだろ! なんなんだよ!」

「あーはっは。良かった良かった。いなくて良かっタンタンメーン」


 あちゃー。母さんの血が多いって言われたばっかだけど、完璧に俺、親父似だわ。


 その後、親父は何も教えてくれずに学校を去って行った。




♦︎




 どうやら今年の優勝は逆転で桃団の優勝らしい。どういうドラマがあったのだろうか……。俺はその時、夢の中だったので分からないが、壮絶なドラマがあったに違いない。


 こうして桃団の優勝で幕を閉じた今年度の体育祭。閉会式も終わりゾロゾロとグラウンドの中央からそれぞれの基地に荷物を取りに戻る生徒達。


「堂路ー」


 ふと聞き覚えのある声で苗字を呼ばれたので周りを見渡す。

 しかし、その声の人物が見当たらない。空耳だろうか。


「どこ見てんだよ。こっちだよ」

「ん?」


 声のする方を見てみると、凄く可憐な美少女と目が合ってしまい、反射的に目を背けてしまう。


 あんな可愛い子この学校にいたかな?


 そんな事を思いながらキョロキョロと声の主を探していると、俺の目の前にその美少女がドンっと立つ。


「――何パイセンにシカトぶっこいてんだよ?」


 これ程までに可憐な美少女から出た言葉とは思えない程に汚い口調。しかし、言葉の節々にギャルを感じた。


「――ギャル……先輩?」


 そう聞くと「はぁ?」と不満の声を漏らす美少女。


「お前の目はどうなってんだ? どっからどう見てもウチだろ」

「ええ!?」


 俺は驚いて日曜日の午後6時半のカリスマアニメのお兄さんみたいな反応をしてしまう。


「どっからどう見ても別人じゃないですか。ギャル先輩がこんな美少女な訳あるはずないじゃないですか」

「お! おおん……。それは褒められてるのか、貶されるてのか分からん言葉だな」

「困惑の言葉です」

「――そんな違うかな……」


 頭を掻きながら呟くギャル先輩――いや、この場合塩路先輩と言った方が正しいな。


「てか、どうしたんですか? いつものヤバイメイクは」

「おまっ! それどういう意味だ!?」

「言葉通りの意味ですけど?」

「あのイケてるメイクがヤバイとか、どんな美的センスだよ!」

「あれがイケてると?」

「イケてたろ? イケイケのイケイケだったろ?」

「――はぁ……。これだから高デは……。何を勘違いしているのやら……」

「てんめっ! しばきまわすぞ。このクソ野郎」


 見た目のギャップが凄いな。


「何か、今の先輩から言われるとゾクゾクしますね」

「――なっ!?」

「先輩ほら。もっと言って下さい。先輩みたいなドストライクの見た目に言われたら興奮します」

「お、おまっ……。何言って……」

「どうしたんですか? ほら、もっと俺を罵って」

「へ、へ変態かよ……」


 俺の発言に先輩は潮らしくなった。


「あっはっは。見た目通りの反応になりましたね」

「てめー。おちょくりやがって」

「あはは。すみません。つい……。――で? 本当にいつものメイクはどうしたんですか?」

「――いや、それは……」


 先輩は少し照れ臭そうに頭を掻く。


「もしかして……筋肉ダルマ先輩に言われて――とか?」

「は、はあ!? ち、違うわ! ボケッ!」

「じゃあ何で?」

「そ、それは……。あれだ……。青団の応援団の皆で最後に写真撮りたくて……」

「ギャル先輩みたいな人なら、最後の体育祭も自称イケてるメイクで撮りたいと思うのですが?」

「それは……」

「んー? どうしてですかー? 素直に言って見て下さいー」

「だから……」

「だから? なにー?」


 しつこく聞くと「あー!!」とギャル先輩がキレた。


「松井に言われて嬉しかったからだよ! バーカ!」


 キレると同時に本音をぶちまける先輩。


「そうですか。好きなんですね」

「だ、誰があんな筋肉バカ……」


 分かりやすい反応だな。カマかけてみるか。


「ふふーん。そういえば筋肉ダルマ先輩好きな人いるって言ってたな……」

「え?」


 先輩に聞こえる様に呟くと思い通りに食いついた。


「確か……大学生の――」


 そう言うと明らかに落ち込んだ様子を見せる先輩。


「そ、そう……なのか……」


 物凄く落ち込んだ声を出したので申し訳なく俺は頭を下げる。


「すみません、すみません。嘘です。そんな話してないです」

「――ホント?」


 ちょっと潤んだ瞳が抱きしめたくなる位に可愛かったが、それは俺の仕事じゃない。


「ホントです! 嘘です!」


 少しややこしい言い方をしたが、そう言うと「良かった……」と安堵の表情をする先輩。


「――あ……。ち、違うから! 別に松井が誰が好きとかどうでも良いから」

「先輩……。もー無理っすよ……。さーせん。カマかけて……」

「う、うう……。堂路のバカ……」

「先輩。その顔で言われても、我々の業界ではご褒美です」

「お、お前! 絶対誰にも言うなよ! 絶対だからな!」

「あ、認めた……」

「くー。このクソ野郎……」


 年上の可憐な美少女が俺を涙目で見てくる。


「すみません先輩。お詫びに先輩達のツーショット撮りますからそれで許して下さい」

「――ホントか?」

「はい。ホントです」

「なら……許す」


 あ、この先輩可愛いわ。


「あ、でも、青団の応援団でも撮りたいからな。皆でも撮ろうな」


 あ、この先輩めちゃくちゃ可愛いわ。




♦︎




 ギャル先輩――改めて塩路先輩の要望に答える為に青団の応援団を集めた。

 青団の基地は体育祭実行委員達に片付けられているので、その近くに集まる。

 見ている限り他の応援団の人達もそれぞれ集まっているみたいだ。

 そういえば、去年の体育祭終わりも応援団の人達がそれぞれ集まっているのを見た覚えがあるな。暗黙の毎年恒例行事みたいな感じになっているのかな?

 

「なんか良いですね。こう言うの」


 皆で写真を撮り終えて、朝倉くんが俺に言ったのか、独り言か分からない位の声で言っていたので、一応拾ってやる。


「そうだな。青春って感じだな」

「俺、応援団入って良かったです」

「五十嵐さんもいたし?」

「ちょ! すぐ、そっちに持っていくー。ちゃうっすよ!」

「あはは!」

「そうじゃなくて! 上下関係とかウザいと思って部活もしてなかったすけど、先輩達と出会えて良かったす。ただ星野さんは――」

「――私が……なんです?」


 朝倉くんが言葉の途中で入ってきた雫に対し「ひぃ」と悲鳴を上げる。


「や、優しい先輩達がいて、特に星野さんはヤバイです! 優しさの塊です! 優しさそのものです! バ○ァリンと同じ成分です!」

「そうですか。それは良かったです!」


 完璧に恐怖の対象になっているな雫。


「それより2人共。グループのアルバムに入れておきましたので、それぞれ保存しておいて」


 雫が先程の写真を、以前しれっと作った青団の応援団グループチャットに入れておいた事を説明してくれたので、反射的に俺たちはスマホを取り出して保存しておく。


「――オッケーっと……。さて……」


 保存を終えると俺は既にペイントを落としてドラちゃん筋肉ダルマ先輩の方へ声をかける。

 この人体育祭の中盤までドラちゃんだったけど、気に入ってたのかな?


「先輩。塩路先輩と写真撮ってあげますよ」

「ぬ? 塩路と?」

「はい。撮りたいでしょ?」


 そう聞くと先輩は塩路先輩を見て頷いた。


「この塩路なら撮りたい!」


 先輩の言葉に「どういう意味だよ」とツッコミが入るが気にせずに言葉を続ける。


「この塩路は俺の知っている塩路だからな! 堂路! 頼めるか!?」

「勿論です。ほら、並んで並んで」


 筋肉ダルマ先輩が塩路先輩と一緒にある程度離れる。


 そして2人の距離が微妙に空いていたので、俺は楽しみながら言った。


「そんなに離れていたらスマホに入んないすね」

「そんな訳あるかよ!」


 照れ臭そうに塩路先輩が言うと筋肉ダルマ先輩は「ぬ? そうか!」と距離を縮め肩と肩がぶつかる――筋肉ダルマ先輩はガタイが良いから肩と腕がぶつかると言った表現が正しいか……。


「きゃ……。ち、近いぞ! 松井!」

「しかし! カメラに入らないらしいぞ!」

「んな訳ねーだろうが! おちょくられてんだよ!」

「しかし、万が一入って無かったらダメだからな! ダメか!?」

「――す、好きにしろよ……」


 何この夫婦……。尊いわ……。


「いきやすよー! はーい笑って笑ってー」


 筋肉ダルマ先輩はボディビルダーみたいな笑顔を見せて、塩路先輩は――あかん。普通に可愛い……。


「はい、チーズ!」


 スマホのカシャ! っと音を聞いた後に画面を見ると、中々にお似合いの2人が写っていた。


「オッケーす! これ、グループに入れときますので!」


 俺の言葉を聞いているのか、いないのか、2人は何かゴチャゴチャと喋っていた。

 2人の世界に入りやがった。放っておこう。


「――お前らも撮る?」


 ふと、朝倉くんと目が合ったので聞くと「いや、俺達は……」と恥ずかしながら否定する。


「撮りなさい。朝倉くん。五十嵐さんを誘って」


 ボソリと雫が言うと反射の様に「はい!」と歯切り良く返事する。

 まさに鶴の一声とはこの事だ。ホント、雫の犬みたいなやつだな。


「雫……。あんまり後輩いじめるなよ……」


 小さく他の人に聞こえない程度の声で言うと雫は小さく笑う。


「私が? ふふ。むしろ感謝して欲しいですね。今回も私のおかげで好きな人とツーショットを撮れるのですから」

「正論だわ……」


 雫が怖いので反論はやめておこう……。


 朝倉くんが五十嵐さんを誘うと、どうやらオッケーが出たらしく、雫がシャッター役を務めた。


 写真を撮ると朝倉くんは嬉しそうにしており、五十嵐さんは少し気恥ずかしそうにしていた。


「――さて、それじゃあ最後はお前達だな」


 後ろから聞こえてきた塩路先輩の声。どうやら、2人の世界は終わったらしい。


「俺らは良いっすよ。なぁ?」


 そう言うと雫も「大丈夫です」と否定する。


「お前達はバッテリーなんだから! 撮るべきだ!」


 謎の理論を唱える筋肉ダルマ先輩。


「そうですよ。お似合――なんでもないです」


 朝倉くんが言葉を途中でやめた。雫に睨まれたのだろう。


「――私、撮ります」


 五十嵐さんが小さく言った後にスマホを構えたので俺と雫は顔を見合わせる。


「撮るか?」

「まぁ、そこまで言うなら……」


 別に強く否定する意味もないので俺達は2人で一緒にカメラから距離を取る。


「時人様と写真なんていつぶりでしょうか?」


 並んで立った所で雫が呟いたので、少し考えて答える。


「中学の頃……? いや、小学生……?」

「ふふ。記憶が薄まる程に昔みたいですね」

「一緒にいる時間が長いから写真を撮るなんて発想にあんまりならないんだよな」

「そうですね。同感です。時人様との思い出は形ではなく心に残っています。ですが――」


 雫は俺に肩を寄せてくる。


「――心に残る思い出も良いですが、形に残る思い出もこれからは作っていきたいです」


 その言葉を聞いて、雫の言う通り、形に残る思い出も作っていきたいと思いながら久しぶりの雫とのツーショットを撮った。


 こうして今年度の体育祭は幕を閉じたのである。

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[一言] ギャル先輩ちょろくて草 応援団みんな進展しているし今後が楽しみです…!
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