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応援合戦

 梅雨入り前の空は今後沢山雨を降らす為に今のうちに晴れてあげると言わんばかりの快晴であった。

 まさに体育祭日和。運動するのに相応しい少し薄い青い空が広がっている。


「いよいよだな!」


 そんな青空の下に立つ青色の化け物が体育祭の為だけに簡易的に作られた『入場ゲート』と書かれた門の前でやる気を出して言ってくる。


「堂路! 頑張ろうな!」

「はい――ぶっ!」


 普通に返事をしたかったのだが、耐えきれずに笑ってしまう。


 この青色の化け物は子供向けのキャラのはずだが――化け物過ぎる。


 全身を青色のボディペイントで塗り鼻の部分だけ赤色である。

 所々浮き上がる筋肉がドラちゃんのイメージを遠ざけて、子供が見たら大泣きしそうなドラちゃんの爆誕であった。


『それでは体育祭第1種目の応援合戦を開始します。まずは桃団の応援団の皆様お願いします』


 簡易的に作られた運営事務所テントより放たれる言葉はマイクを通じて空の彼方まで聞こえた事だろう。


 その指示を受けて桃団の応援団6人がグラウンド中央に集まって行く。

 俺達の団以外は学ランを着たり、おかしくない衣装を着たりしている。


「あれはやばいよね」

「化け物? ぷぷ。なにするんだろ」

「こえー」


 筋肉ダルマ先輩の格好は目立つ為、そんな声が届いていた。

 そんな声を受けても筋肉ダルマ先輩は腕を組み、まるで格闘ゲームの勝利キャラクターの様な立たずまいである。

 流石はM。それ位どうって事ないってか……。


 他にも俺の格好も目立つみたく「なんでサーファー?」と疑問の念を放つ人もいた。


 そうである。俺は体育祭なのにサーフウェアに身を包んでいた。ま、物語の設定上仕方ない。筋肉ドラちゃんがいなければ俺がいじられていただろう。感謝しますよ筋肉ドラちゃん先輩。


「いよいよだな」

「――あー。まじでモブのいじめっ子みたいだわー」


 次に声をかけてきたのはギャル先輩。いや、ギャル先輩というかヤマンバ先輩である。昔のメイクで良くもまぁこの場に立てるものだ。勇者と言っても過言ではないだろう。


「ふっ……。今日のウチはいじめっ子Aだからな」

「それに合わせてメイクしたんすか?」

「当然。最後の体育祭だしな」

「なるほどね……」

「ま、体育祭はまだまだ序の口。ウチらの最後の花火の文化祭はこんなもんじゃないよ」

「え……。これ以上盛りメイクするの? やめた方が……」

「――惚れるなよ?」

「惚れねーよ」


 今日のギャル先輩はテンションが高いっぽい。

 1度もツッコミを入れずにヤマンバがドラちゃんに話かけに行った。地獄絵図だな。

 

 これ以上は目に負荷がかかるので、視線をズラすと天女の様な格好をした雫がいじめっ子Bに何か話をしていた。

 いや、話というか……恐喝? いじめっ子Bが怯えて足をプルプルとさせていた。違う意味で地獄絵図だわ。


 青団にまともな奴はいないのか? 俺しか普通の奴はいないのか。


 諦めかけたその時「――ふぅ」と深呼吸する弱々しい声が聞こえてきた。


 その声に反応して、彼女の肩にポンと手を置く。


「見つけたわ。まともな人」

「ひっ!」


 いきなり肩に手を置いたから五十嵐さんがビクッとなった。


「おっと。ごめんごめん」

「す、すみません。緊張しちゃって」


 キャラ通り五十嵐さんはちゃんと緊張してくれた。


 安心するわー。キャラ通り動いてくれると本当に安心するわー。


「大丈夫大丈夫。練習通りすれば何の問題もないよ」

「で、でも……。私練習でもあんまり上手く出来てなくて……」


 そうである。

 五十嵐さんは練習の時、声が小さすぎて何を言っているのか全く聞き取れず、それが直らないまま本番を迎えてしまった。

 彼女は演じるよりも裏方の方が合っているらしい。


「上手くやろうとするからダメなんだ。これはお祭り。楽しくやらなくちゃ」

「は、はい……」

「あ、あはは……」


 こりゃダメっぽいな。

 安っぽい台詞じゃあ響かないよな。

 ま、別に五十嵐さんが失敗しても他で補えば良い。

 寸劇みたいなものだ。


『――続きまして青団の応援団の皆様よろしくお願いします』

 

 俺達の出番を指示してくるマイク音声。

 それに従い俺達はまるで仮装大会のステージに立つかの様にグラウンドの中心へ向かって行った。




♦︎




『昔々、あるところに浜辺でいじめられているドラちゃんがいました』


 会場は出落ちのドラちゃんでウケてくれた。


 しかしまぁ初っ端なから矛盾だよな。未来から来たタヌキ型ロボットが昔々にいじめられているって……。


「『なんだコイツ! 変な格好して!」』

「『あははー。よえー!』」

「『おらおら! 道具出せよ! 何かええ奴出さんかい! おお!?』」

「『あでっ! いでっ! ちょ! まっ!』」


 五十嵐さん? 五十嵐さんっ!?


 台詞が違いますよ!? それにマジで筋肉ドラちゃん先輩を蹴ってません? 筋肉ドラちゃんの「『やめておくれよー』」の台詞がマジの悲痛の叫びに変わってるんだけど。


『サーフィンをしていた太郎がそれに気が付き、いじめっ子達に声をかけました』


 会場はややスベリ。サーフィンという設定はいらなかったな。しかし、今更嘆いても仕方ない。


「『君達。弱い者いじめはやめなさい!』」

「『なんだよ? てめぇ』」

「『うるせーよ!」』

「『邪魔すんなや! 形変えるぞ!? お!?』」


 五十嵐ぃぃ! 台詞ぅぅ! てかキャラぁぁ! 笑いそうになるからやめてぇぇ!


「『君達! これを見てもまだそんな口がたたけるかい!?』」


 俺の台詞の後に曲が流れて5秒程の簡単なダンスを見せる。


「『な、なんだ!? こいつ!』」

「『このダンスは……』」

「『ダメだ……。こいつは絡んじゃあいけねぇやつだっ! お前ら! ここは一旦引くぞ!』」


 五十嵐さん。演技クソ上手いな。練習の時のあれは何だったの? 本番に超強いタイプなの?


『太郎のダンスに恐れをなしたいじめっ子達は逃げて行きました』

「『大丈夫かい?』」

「『いつつ……。あ、ああ……』」


 先輩……。マジで痛かったんだな……。台詞が微妙に違う。


「『お礼に竜宮城へ案内してあげるよ!』」

『ドラちゃんはそう言って太郎をお姫様抱っこして竜宮城へ案内しました』


 お姫様抱っこした時に悲鳴と笑い声が聞こえてきたが、それが何を意味するのかは分からないな。


『竜宮城に到着すると、それはそれは美しいお姫様がお出迎えしてくれました』

「『あなたがウチのドラちゃんを助けてくれたのですね? お礼をさせて下さい』」

『お姫様は太郎に豪華なご馳走を用意し、魚達は踊って彼を歓迎しました』

「『お姫様。一緒に踊りましょう!』」

『踊りを見ていた太郎はお姫様の手を握りダンスに誘いました』

「『はい。喜んで』」


 雫の台詞の後に曲が流れて30秒程度のダンスをする。

 ダンスと言っても簡単なものだ。何かにこだわりがある訳じゃなく、体育の授業で習う程度のもの。


 曲が止むと、会場は拍手をくれて、少し気分が良くなる。


『楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、お別れの時間です』

「『楽しい時間をありがとう太郎さん。最後にあなたにプレゼントを』」

「『プレゼント?』」

「『はい。この箱は私と太郎さんを繋ぐ箱。この箱は青団が優勝した暁に開ける様にお願いします』」

「『分かりました」』

『太郎は姫様と約束してドラちゃんに地上へ送ってもらいます』

「『姫様! 必ず! 必ず青団を優勝に導いて戻ってきます! 必ずまた会いに行きます!」』

「『いつまでもお待ちしております! いつまでも――』」

『こうして太郎の青団を優勝に導く旅路が今幕を開けました』


 この台詞の後に等間隔2列で並び、ドラちゃんが叫び出す。


「太郎くんと!! お姫様の!! 再開を果たす為に!! 青団に優勝のエールを!!」


「優勝のエールを!!」と5人が続く。


「フレー! フレー! 青団!!」

「フレー! フレー! 青団!!」

「負けるな! 負けるな! 青団!!」

「負けるな! 負けるな! 青団!!」

「絶対! 優勝!! 青団!!!」

「絶対! 優勝!! 青団!!!」


「うおおおおお!! うぉーい!!」と最後は6人の声を荒げ、ピタッと止まる。


 すると拍手喝采が飛び交った。


『青団の応援団の皆様! ありがとうございました!』


 その言葉の後に拍手は大きくなり、俺達は退場するまで拍手に包まれた。


 青団の応援合戦は成功という形で幕を閉じ、体育祭がスタートした。

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