俺のチャージショットは世界一(嘘)
社長令嬢との二人三脚特訓は疲労感が半端では無かった。
これは給料が発生してもおかしくないレベルの疲れである。
5限、6限の授業を犠牲に放課後の応援団の集まりに臨んだのだが、疲れは取れずに猛烈な眠気が俺を襲う。
「『昔々あるところに――』」
放課後の3年F組の教室。
ギャル先輩と筋肉ダルマ先輩。雫と朝倉くんの4人が集まり振り付けの練習をしている。
その反対側で俺はと言うと五十嵐さんの話を聞いていた。
今年度の青団の応援テーマは竜宮城。ストーリー仕立てで応援するスタイルなので、勿論ストーリーを考えなくてはならない。
ストーリーを考える人はギャル先輩以外の人の中からクジで決める事になった。ギャル先輩は衣装作りだから除外された。
そんな中クジで決まったのは五十嵐さんである。
五十嵐さんは「わ、私にそんな事……」と自信なさげだったので朝倉くんが「なら、とりあえず俺が聞いて、そこから発表しよう」という流れになった。
しかし、今日の俺は疲労困憊。
皆に頼んで、本来なら朝倉くんが五十嵐さんの考えてきたストーリーを聞く役だったのだが配役を変わってもらった。
五十嵐さんも最初は渋っていたが、俺が頭を下げると諦めて話をしてくれたのだ。
「『――なのでした』」
眠すぎたので瞳を閉じて彼女の話を聞いてしまっていたので異世界へ飛び立てそうになった。
しかし、五十嵐さんが考えてくれたストーリーは面白くて異世界転移は出来ず現代に踏ん張ってしまう。
「良いじゃん。長さもちょうど良いと思う」
「ホントですか?」
自信なさげに俯きながらも、どこか嬉しそうな眼鏡少女は頬を赤らめて聞いてくる。
「ああ。始まりの矛盾点。一見矛盾ってマイナスなイメージだけど、これを面白い方に持って行っているし、オチもかなり良いと思うよ」
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」
五十嵐さんは3回頭を下げて言ってくる。
「堂路先輩寝てると思って……面白くないのかな……って……」
「え?」
「あ、すみません。すみません」
「才能あるんじゃない五十嵐さん。小説家とかそういう物書きの仕事」
純粋に思った事を言うと「あ、いや……私なんかは……」と弱々しく否定される。
「そう? 何か他になりたい夢でもあるの?」
軽く聞いたつもりだけど五十嵐さんは強張った表情をしてしまった。
「あ、いや、言いたくないなら別に言わなくても――」
「――堂路先輩は何か将来の夢ってありますか?」
意を決して――なんて重い言葉程じゃないが、彼女は勇気を振り絞るかの様に俺に聞いてくる。
「俺の夢?」
「はい」
「――うーん……」
正直な所、今の俺に将来の夢というのはない。なんせ会社を継ぐだろうから。
「昔ならあったな」
「何になりたかったのですか?」
「プロ野球選手」
言いながら俺はその場で素振りをするジェスチャーを彼女に見せた。
「野球やってたんですか?」
「まぁな。中学で辞めたけど」
「どうして?」
「根掘り葉掘り聞いてくるねー」
「あ、すみません……」
「いやいや。――ま、辞めた理由はちょっとあれだな。ちょっとだけヘビーだから置いといて……」
頭を掻きながら言葉とは裏腹に出来る限り明るく言ってのける。
「どちらにせよプロ野球選手にはなれなかったな……。色々現実的に」
「それって……」
「ん?」
俺が首を傾げると「あ、なんでもないです」と少し焦りながら否定する。
「――で? 五十嵐さんはないの? 夢」
聞くとやっぱり五十嵐さんは強張った表情をして小さく呟いた。
「私は――堂路先輩と同じですよ……」
「ん? それどういう――」
『とおおおおじいいいい!』
いきなり聞こえてきたうるさい声。
突如現れた筋肉ダルマ松井先輩は機嫌良く俺達の目の前に立つ。
「今さっき考えた振り付け神だから! 見てくれ!」
そう言っていきなり踊り出した。
――うわぁ。すげー不愉快。
「トイレ行ってきやーす」
「お! トイレか! いっトイレ!」
駄洒落も全力で声を張るんだな。流石は野球部。流石は応援団ってところか。
3年生のフロアのトイレに入るのは何だか新鮮な気分だ。
作りは一緒のはずなのになんだか違和感がある。
それはまるで、同じマンションや団地でも隣の家に入ると何か違う、みたいな感覚に近い。
違和感はあるが排尿にそれは全く影響しないので心地よく用をたしていると「堂路さんすみません」と言いながら俺の隣に立つ男子生徒。
「朝倉くん。何が?」
「いえ、五十嵐の面倒見てもらって」
チャックを開けながら言ってくる。
「本来なら同級生の俺が相手するべきなんすけど……」
「いやいや、俺が無理言って変わってもらったんだから朝倉くんが気にする事はないだろ」
「気にしますよ。陰口になっちゃいますけど……アイツ根暗でしょ?」
「あ、あー。ま、まぁ。陽気とは言えないな」
「でしょー。別に嫌いとかじゃないんすけど、反応とかも何かぎこちなくてちょっと困るというか」
「それは確かにそうだな」
「だからクラスの奴等に応援団とか押し付けられましてね」
「あー。俺らのクラスも応援団はハズレだと思われてるわ」
「ですよねー。でも、ギャル先輩と筋肉ダルマ先輩の話によると3年になると競争率上がるって話らしいっすね」
「やってみるとめちゃくちゃ楽しいらしいな」
「てか、実際楽しいっすよ。先輩らも良い人達だし」
「良い人だな」
「――って話が逸れましたけど、五十嵐のやつあんな性格だからクラスの奴等に押し付けられてたんすよ。見てらんなくて……。だから俺も応援団になったんすけどね」
「あれ? もしかして五十嵐さんの事好きなの?」
「い、いやいや。ビックリしたー。いきなりそんな話になります? 小便が途切れましたよ! ぴっ! ぴゅう! みたいに!」
「あーはっはっは! 分かった分かった。今回、俺が朝倉くんと変わったのを根に持ってんだ」
「ちゃ! ちゃうっすよ! そうじゃなくて……。その、俺はただ、五十嵐って扱いにくいでしょ? だから相手してもらってあざすってだけで」
「ふぅん」
「なんすかその顔。ムカつくなー」
「なーはっはっ! ――ところで朝倉くん」
「なんすか?」
「いつまで小便しているんだ?」
「実は大分前に終わっています。堂路さんは?」
「俺はまだ出てる」
「え!? 嘘!?」
「ほんと。見る?」
「いや! 流石に人の小便は見たかないすけど……長すぎません? どんだけチャージしてたんすか? ロッ○マンでもそんなにチャージしませんよ」
「嘘」
「嘘かい!」
「でも、キミの五十嵐さんへの思いは本物」
「は、はあ!? な、何言うてんすか!? い、意味不明だし! は、はあ!? 意味ぷー」
この反応分かりやすいなー。
面白そうだから、2人っきりにさせてみるか。




