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何度でもキス(強制)

「――あらあら。もう将来の予行練習ですか?」


 雫とは別々に登校する事になり、俺が先に学校へ向かう事になった。

 昼休みの終了を告げる予鈴が鳴り響く中、教室に入り自分の席に座ると隣の瑠奈がいきなり言ってくる。


「何の?」


 鞄を机の横のフックにかけながら聞く。


「社長のですよ」

「どゆこと?」


 どうしていきなりそんなワードが出てくるのか心底理解出来なかった。


「社長出勤。お偉い様は遅れてやってくるのが当然でしょ?」


 何が当然なのか。それは一ノ瀬 功成が毎朝遅く出勤しているからそのイメージが瑠奈に植え付けられているのだろうか。


「ウチはちゃんと朝出勤して夕方退勤しているぞ」と言葉が出かけたが、遅刻した俺にそれを言う資格はないので言葉をやめた。


「社長の予行練習をするなら私との将来も予行練習して欲しいですねー」

「無理矢理そっち方向に持っていったな」


 物凄い切り返しに俺は苦笑いしか出なかった。


「しかし、どうしてわざわざお昼から登校なさったのですか?」

「ああ。応援団――」

「分かりました」


 パンと可愛く手を叩いた。

 コイツ人の話聞かないな。


「私と二人三脚をしたかったのですね」

「――ん?」

「またまた知らんぷり何かして、恥ずかしがっているのですか?」

「いや、マジでどういう事?」


 そう言うと「やれやれ。ま、いいでしょう」とムカつく反応をされる。


「今日の6限の体育は体育祭に向けての練習ですよ。それぞれが出場する種目の練習です」


 そして瑠奈は勝ち誇ったかの様な笑みで俺を見る。


「遅刻してまで私と二人三脚したかったなんて、これってプロポーズですよね」

「すげーよ。その柔軟な発想が凄すぎるよ。お前の脳みそってどうなっているか気になるわ」

「多分時人君の事でいっぱいでしょうね」


 そう言われて不覚にもドキッとしてしまう。

 それを見て瑠奈が悪戯っ子の様な笑みで言ってのける。


「時人君を惚れさす為に」

「――ですよねー」


 安心した様な、ちょっと残念な様な。


「ふふ。次の二人三脚で時人君の脳内を瑠奈で一杯にして差し上げます」

「え? 何すんの?」

「それは6限のお楽しみです。どうぞご期待ください」


 何だかアニメの次回予告みたいな台詞を吐くとタイミング良く5限が開始されるチャイムが鳴り響いた。


 全然気がつかなかったが、いつの間にか雫が着席しているのに気が付いたのは5限の中盤辺りであった。




♦︎




 6限の体育は瑠奈の言う通り体育祭の練習をするらしい。

 体育祭まで日にちもない為、今日からはLHRと体育の時間を練習時間に回すらしい。


「時人君」


 普段は男女別で行われる体育だが、今日から数日は男女混合で集まる事になり、何だか新鮮な気分で女子達の体操服姿をこっそり見ていると、恐らくこのクラス――いや、学年――いやいや! もしかしたら学校1といっても過言ではない最高のボディをした人物が体操服姿で俺の元へやってくる。


「瑠奈」

 

 ――はぁ。これで俺の家目当てじゃなく、腹黒じゃ無かったから惚れてたかも知れないのになぁ。


「何だかテンションが低いですね。これから超絶美少女と二人三脚が出来るって言うのに」

「俺の家目当てじゃなくて腹黒じゃ無かったら泣いて喜んでいたんだけどな」

「つまりは私の事を超絶美少女と思っているのですね。照れます」

「嫌味が全然通じやしない」


 溜息混じりで言った後に彼女の手元に青色のバンドが握られている事に気が付いた。


「それ二人三脚用のやつか。持って来てくれたんだな」

「はい。早速付けましょう!」


 瑠奈が俺の真隣に来て俺の足くびと彼女の足くびを結び合わせてくれる。

 その時、雫とは違った良い匂いが漂ってくる。

 俺は冷静を装っているが俺の中心は少しだけ暴れ出しそうになっていた。だが、まだまだ我慢出来るレベルである。


「――さ! 準備できました!」

「ありがとう」


 お互い肩を組み身体を寄せ合う。

 その時に体操服という薄い布越しに感じるこの世の物とは思えない感触を横腹で味わう。

 それを味わうのと引き換えに俺の中心部は暴走モード寸前だ。


「時人君? なんで前かがみなんですか?」

「――くせかな?」

「ちょっと走りにくいから真っ直ぐ立ってくれません?」

「既に立っているがな」

「――はい?」


 瑠奈は心底疑問に思ったのだろう声を上げてくる。


「あ、いや……。――俺の今後の学校生活の為にも前かがみでいさせてほしい」

「えっと……。どういう事ですか?」

「理由は聞くな。ただ、真っ直ぐ立つという事は俺の残りの高校生活に闇が訪れるという事だ」

「は、はぁ。まぁ良いですけど」


 どうやら瑠奈は理解していないみたいだな。

 という事は、コイツは自分の身体がとんでもなくエロい事に気がついていないのか?

 無自覚エロボディ瑠奈。おお。何かめっちゃエロいな。

 あ! ヤバい! 息子が直立しだした。


「瑠奈! 行くぞ!」

「え? あ、はい。いきなりやる気ですね」


 これはもう走って何とかしないといけないレベルだ。

 走ってセロトニンめっちゃ出しまくって性欲を誤魔化すしかない!


「内側の足から行くぞ!」

「内側……。はい!」


「せーのっ!」と俺が内側の足を出すと、前を向いていた視界が強制的に下を向いてしまい、そのまま地面とキスしてしまう。


「――ふぉるおおおおお!」


 俺と地面がキスするのは構わない。

 だが、爆発寸前の息子と地面がキスするのは絶対に避けなければならなかった。

 しかし、現実に息子と地面がキスをしてしまった痛覚は尋常ではない。例えようのない痛みである。


 俺が隣で悶えているので、瑠奈が空気を読んで足のバンドを外してくれる。


「あの? 大丈夫ですか?」

「――うん……」


 俺の中心部に痛みという刺激が走った事により、暴走モードは終了となり、パチンコの確率変動が終わった時と同じ様な寂しい虚無感に包まれる。

 だが! それで良い。それが良い。


 痛みが和らいだ所で立ち上がり瑠奈にクレーマーの様にクレームをつけてやる。


「――てか! 足! 逆!」

「あら? そうでしたか?」

「内側からって言ったろ!」

「それはそれはすみませんでした。でも、内側からだと走りにくいです」

「――分かった。俺はどっちでも良いから次は外側からな」

「はい!」


 再びお互いの足首にバンドを付けて準備をする。


 コンディションは通常通り。息子も通常通りだ。


「――せーのっ!」


 ビターン!


 再び地面とキスしてしまう。


「お前なあああ!」


 俺のツッコミにならないツッコミに瑠奈は顔に砂を付けながらドヤ顔で言ってくる。


「私、運動神経めっちゃ悪いですから!」

「何で誇り高く言い切ってんだよ!」

「お嬢様ですから!」


 何の関係もなくない?


「大体マラソンが苦手なんだから運動神経悪いに決まってるじゃないですか」

「開き直り方がエグいな。つか、今のは運動神経関係なくない?」

「あります!」

「お、おおん」


 何故こうも彼女は強気なのか。そんな強気に押されて俺は何も言い返せなかった。


「――ほんじゃまぁ、とりあえずバンド無しでやってみるか」


 俺が立ち上がる為に1度バンドを外しながら言う。


「ダメです」


 お互い立ち上がると予想外の答えが返ってきた。


「バンド無しじゃ二人三脚になりません」

「バンド有りでも二人三脚になってないけど?」

「本番さながらじゃないと何の練習にもなりません」

「練習すら出来てないんだけど?」

「ともかく、バンドは有りじゃないといけません」

「お前あれだよ? 料理出来ない奴がレシピ見なくてインスピレーションで作ってるのと同じ考えだよ。それ」

「良いから、貸してください」


 瑠奈は俺からバンドを取り上げると足くびにバンドを結んだ。


「ほら! 行きますよ」

「何で失敗の根源が仕切ってんだ?」


「せーのっ!」

「ちょっ!」


 ビビターン!

 

 どっちの足から出すか話をしていなかったから当然こけた。

 何回地面とキスしたら良いんだ。


「ええええい! クソが!」


 俺はバンドを外して立ち上がり瑠奈に手を差し伸べる。

 瑠奈は俺の手を握って立ち上がったので俺はそのまま彼女に顔を近づけて叫ぶ。


「今から俺の言う事を聞いてもらう!」

「――え……」

「え……。じゃねぇわ! 何回間違えりゃ気が済むんだよ! もう地面とキスなんかしたないわ! するならお前とした方が良いわボケっ!」

「――ならしますか?」


 言いながら瑠奈は指を唇に持っていく。


「ええーい! 何をたわけた事言っとるんだ。する訳ないだろうが!」

「凄い理不尽……」

「やかましい! 良いか!? お前に拒否権はない! お嬢様だから運動神経悪いとか関係ねーわっ! だったら俺だってボンボンのお坊ちゃんだけど運動神経悪い事になんだろうが! でもめちゃくちゃ良いわっ! もうめちゃくちゃ良いから! あんまり俺、自分自慢とかしないけど運動神経良いから! んもう! ベラボーに良いから! そんな俺がお前に教育してやるっ! 今から特訓じゃ!」

「あ、は、はい」


 俺の気迫に負けて瑠奈が素直に応じる。


 俺は謎のテンションに包まれて、バンドを額に巻いた。

 この行動は後で考えると恥ずかしいが、今はテンションが妙に上がって羞恥心がない。


「はい。それじゃあ足踏み!」

「はい?」

「はい? じゃなーい! 右足上げる」

「右足――上げました」

「うぬ。じゃあ左足上げる」

「左足――上げれません!」

「何でだよ!」

「右足が上がっているからです!」

「ぶぁかか! 右足を降ろしてから上げるんだよ!」

「右足を降ろす指示がありませんでした!」

「お前はただただ指示待ち続ける意識低い系の新人か!?」

「なら時人君はブラック企業のうだつの上がらない先輩ですね」

「ぬぁにおおおお!」


 そんな熱い練習が繰り広げられる体育の時間であった。

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