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変化

 先日、テレビで『好きな曜日は?』なんて街角インタビューしている番組があった。

「今時そんな古臭いインタビューしてんだな」なんて鼻で笑いながらも、せんべえとお茶を用意し、本腰入れてついついテレビを見てしまったのだ。

 やはり、というべきか、トップは同率で『土日』次いで『金曜日』最下位は案の定『月曜日』であった。

 なんの捻りもないテレビ番組だったな。


 結局、日本人が好きなのは土日だろう。土日を嫌いという人はあまり聞いた事がない。なぜなら土日は至高の休日なのだから。

 いや、そういえば車のディーラーさんなんかは日曜日が稼ぎ時なので月曜日が休みなんて話を聞いた事があるな。

 待てよ……。この世の中には様々な職業がある。平日が休みの人だって沢山いるだろう。

 そこら辺を考慮して土日が休みじゃない人に『好きな曜日は?』と聞いてみると違った結果になりそうだな。

 多分だが、日本人は『土日』が好きな訳じゃなく『休み』が好きなんだと分かる結果になるだろう。




 そんなくだらない事を考えながら、日本人が嫌いな曜日の満員電車に揺られる。

 朝の通勤・通学ラッシュ。暇つぶしにスマホをいじる事も出来ない為にふとどーでも良い事を考えながら目的の駅まで運んでもらう。

 昨日が日本人の好きな曜日――からの今日が好かれていない曜日。落差が凄い為か、俺を含めて乗っている人達ほとんどが眠そうにしている。


 くだならい事を考えていると意外にも時間は進んでくれており、目的地の駅に到着する。

 相変わらず人が降りない駅である。


「さーせーん……」


 恐らく広辞苑に載っていない言葉を放ちながら、乗客が作ってくれた隙間をフィギュアスケーターの様に華麗にかわしながら行くイメージ。

 イメージなだけでかわしきれていないがね。


 何とか隙間を塗って電車から降りる。


 他の乗車口から俺と同じ学校の制服姿の人達を見かけ、それに続いて改札へ向かう。


「――はーると君!」


 改札へ向かう為、下りエスカレーターに行こうとした際、突如目の前に現れたのは、俺と同じ学校の制服を着た女生徒。

 俺の前に立つ時に軽く跳ねたので、長い髪が靡き、シャンプーの良い匂いがこちらまで漂ってきた。


「瑠奈……?」


 つい疑問形になってしまった。なぜなら少し違和感があったから。

 違和感といっても小さな違和感である。

 例えるならば、いつも食べているウィンナーが今日は違う会社のウィンナーだった為、ほんのちょっぴりだけ味が違う。そんな感じ。

 そんな小さな違和感が彼女にあった。

 それが昨日の彼女の宣言によるものなのかどうかは全く分からない。


「おはようございます」

「おはよ」

「一緒に行きましょ」

「あ、ああ……」


 別に何の変哲もない会話。

 まぁ付き合ってもない男女が一緒に学校へ行く。なんて事を普通と捉えるか、捉えないかはさておき、瑠奈とは何回か登下校をした事があるので別に何の変哲もない会話という事であっているだろう。


 彼女と共に下りエスカレーターから改札へ向かう。

 俺は超高性能ワイヤレスイヤホン型インカム『ツタエルくん』の『ツタエルくんアプリ』を起動させているので、電車の改札の定期券をわざわざかざす必要なく、そのまま改札を潜る。

 もう慣れたが、これは便利過ぎる機能だ。もう手放せない。現代社会のスマホの様に手放す事は出来ないだろう。


 先に改札をくぐり、後ろを振り返ると瑠奈は定期券をかざして改札を潜ってきて得意げな顔を見してくる。


「もう定期券も使いこなせますよ」

「さいですか……」


 自慢げに定期券を鞄にしまい歩みを始める。


「てか、そもそも俺みたいに家の事を隠していないなら車で通学したらどうなんだ? 前の学校ではそうだったんだろ?」


 気になる事を聞いてみるとあっさりと答えてくれる。


「車で通学したら時人君に会えないじゃないですか」

「昨日暴露したからって普通に言ってくるね。でも、俺の事を好きじゃないって分かってる相手から言われても響かないぞ?」

「あら? そうでしょうか?」


 言いながら瑠奈は俺の左腕を掴んでくる。


「――なっ!?」


 昨日と同じ幸せな感触。


「あらあら? 響かないんじゃなかったのですか?」


 俺の動揺した顔を見て小悪魔的な笑みを浮かべ、からかう様に言ってくる。


「お、おまっ! 昨日もだけど、好きでもない男と腕組んでなんとも思わないのか?」

「私がいつ好きじゃないと言いましたか?」

「――へ?」

「時人君は私の心の中が分かるのでしょうか?」


 そう言って俺を見つめてくる。


「あ……いや……その……。それって……」


 自分の言った事に罪悪感を覚え、言葉が詰まってしまう。そして、瑠奈の言葉の意味が何を意味するのか深く気になってしまう。


「――ぷっ。くくっ」


 彼女を見つめると吹き出して笑い出す。


「え?」

「あはは! これはもう時間の問題ですね。案外簡単に落ちてくれるみたいです」


 瑠奈は高笑いをしながら言ってくる。


「くそ! バカにしやがって! 離せっ!」


 俺は腕を振り解こうとする。しかし相手は女の子という事で強くは振り解けなかった。なので、彼女はガッシリと掴んできている為、振り解けなかった。


「あらあら。良いじゃないですか。役得ですよ役得。こんな可憐な美少女と共に通学出来るんですから」

「――キャラが変わってる……」

「元々こういう性格ですので」


 瑠奈が現れた時の違和感の正体はこれか。

 そうだ。暴露前の瑠奈は「はーると君!」なんて感じで呼んで来なかったもんな。キャラが違うんだ。


「は、離れないと歩きにくいだろ!」

「私は気になりません」

「俺は気になるの!」

「またまた。本当は嬉しいくせに」


 全くもってその通りでございます。


「こ、このスピードだと遅刻するぞ!」

「別に良いじゃありませんか遅刻くらい。なんならこのまま制服デートでもなさいますか?」

「いや、ダメっしょ」

「なら、このまま学校へ向かいましょう」


 何度か振り解こうと試みるが、彼女は離れる気はないらしい。




♦︎




 このまま学校へ向かうというのは言葉のままの意味だったらしい。


 学校に着いても、教室に着いても腕を組んだまま、ようやく解放されたのは自分の席に着いてからであった。

 クラスの連中はいつもなら瑠奈といるだけで「はよ、付き合えよー」とか「きゃー。仲良しー」とか囃し立ててくるが、今日に限っては絶句という言葉がピッタリの教室内となってしまう。

 そりゃクラスメイトが腕組んで入ってきたらドン引きだわな。




 俺達は遅刻ギリギリに教室に着いたので、着席した頃には始業のベルが学内に鳴り響いた。

 それと同時位に葛葉先生が教室内に入ってくる。


「はーい。ちゅーもーく!!!」


 パンパンパンと3回手を叩いてクラスの視線を教壇へ向ける葛葉先生。

 手を叩いて注目を向けるという事は、結構大事なお知らせが本日はあるという証。

 それが分かっているのでクラス全員が空気を読み先生の次の言葉を待つ。


「もうすぐ体育祭ですね。なので、本日の午後は金曜日に報告した通り、授業変更で体育祭の出場種目等を決めたいと思いまーす」


「おお!」とクラスのテンションがふわっと上がった。


 そういえば、もうそんな時期なのか。


「あら、もう体育祭なんですね」


 溢す様に瑠奈が呟いたのでそれを拾う様に声をかける。


「前の学校は秋だった?」


 俺の問いかけに「はい」と答えてくれる。


「分かるわー。今まで秋頃にやってた行事が春過ぎにやるのって違和感あるよなー」


 俺も小学生の運動会は秋にやっていたので、中学に上がり春過ぎに体育祭となった時は違和感たっぷりだったな。


「そうですね。そういうのは秋ってイメージです」

「秋頃にやる学校も多いみたいだけど……そこら辺の違いってなんなのかねー」


 そんな疑問を放ちながら肘を付き先生の方へ視界を戻す。




「――では、またクラス委員中心で進行のほどをよろしくお願いします。では、今日の1限は国語なので、このまま授業を開始しまーす」


 体育祭の説明を軽く済ませるとタイミング良くチャイムが鳴り響き、葛葉先生が教科書を開く。


「――すみませーん!」


 まだチャイムが鳴り響く中、チャイムよりも大きな声を出して隣の席の瑠奈が声を上げる。


「――ん? どうしました? 一ノ瀬さん」

「教科書忘れたので隣の方に見せてもらっても良いですかー?」

「あら、そうですか。仕方ないですね」


 先生の許可を得ると同時に瑠奈は机を俺の方向へ寄せてくる。


「お前本当に教科書忘れたのか?」


 疑いながらも机と机の間に教科書を置いてやる。


「あら、疑っておられるなら鞄の中と机の中を調べてみます? まぁ今、そんな事をしたら『あいつは何をやってるんだ? 女の子の鞄や机をのぞいて』と思われるのは必須ですが?」

「良い性格してるね」

「どうもありがとうございます」


 ニコッと笑って無駄に椅子も俺の方に寄せてくる。


「お、おい……。そんなに寄らなくても見えるだろう」

「えー? 見えませんよー?」


 そう言いながら俺の右肩に頭を乗せてくる。

 

 いや! 彼女か! ムカつく位に良い匂いしやがるな! チクショー!


「あ、あはは……。仲が良いのは良い事だよね……。――え、えと……教科書50ページ開いてくださーい」


 先生も呆れて注意してこない。

 クラスメイト達が天然記念物でも見るかの様に不思議そうな目で見てくるのが分かる。晒し者の扱いを受けているみたいだ。


「ほらほら。視線が痛いでしょ? さっさと婚約しましょうよ」

「やかましっ! そんなんでするか!」

「強情ですね。――ほらほら、教科書50ページですよ」

「分かっちゃるわ!」


 俺がページをめくろうとすると「あの〜」と声をかけてくる。


「この体勢は見えにくいので教科書立てませんか?」

「じゃあ離れろよ」

「それじゃあ他の方に見せつけれないじゃないですか!」

「見せつけなくて良いっての。離れろよ」

「まぁまぁ。教科書立てるだけじゃないですか。ね?」


 確かに、授業の邪魔だが、教科書立てる位はしてやっても良いか。


 そう思い教科書を立てると半分を持ってにっこりと言ってきやがる。


「初めての共同作業ですね」


 よく、そんな事を平然と言って除けれるな。

 俺は引きつった笑いしか出来なかった。

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