デートのお誘い(OK)
気が付いたら11時だった。
遅刻も遅刻、大遅刻。最早学校休んだら良いんじゃない? ってレベルの時間に目が覚めてしまう。
このままサボろうとも思ったが妙に家の最寄り駅前にある小さなラーメン屋のこってりラーメンが食べたくなったので、ラーメン食べるついでに学校へ行く事にする。
このラーメン屋を利用する事はあまりないんだけど、味は普通に美味しい方だ。
ただ、立地が悪いというか……あんまり人が降りない駅だから店はいつもガラんとしていて潰れるんじゃないと思っていた。
それが現実となる。
「――閉店してたのか……」
毎日通っているのに全然気が付かなかったな。意識して通ってないからか。
味は本当に悪くなかったのだが、残念だ。
店の扉には『閉店しました』の張り紙ではなく『NEW OPEN』と、もう次の店が決まっているらしく、店の案内が出ていた。
「パンケーキの店か……」
何故、飲食店が潰れた跡地に飲食店を作るのか……。いや、今回のケースは全然まともと言えるか。
ラーメン屋が潰れてまたラーメン屋。牛丼屋が潰れてまた牛丼屋。酷い時はファミレスが潰れて違う系列のファミレスになってまた元の系列のファミレスになるなんて訳分からない事が起こっているのを見た事がある。
それと比べると、主食が無理だからデザートで、みたいな感じだから随分マシだな。
そんな事を思いながら、学校の最寄り駅の方にある、良く行くラーメン屋さんに足を運んだ。
♦︎
昼休みに教室に行くともぬけの殻だった。
一瞬、今日は休み? なんて思ってしまったが、教室の窓から見えるグラウンドには我がクラスメイト達の姿が見えていた。
そういえば5限は体育だったな。スッカリ頭から消えていた。体操服忘れた……。
忘れた物は仕方ないので、俺は教室の自分の席に座りポケーっとグラウンドの様子を見る。
ああ……。瑠奈ってこっから見ても分かる位におっぱい大きいな。
そんな事思っていると頭上から機械的な声が聞こえてくる。
「重役出勤お疲れ様です」
「――のあっ!」
有名なミニバンの名前を叫んでしまった。
そこには勿論車ではなく、体操服姿の雫が立っていた。
「その年でそういった立ち位置の練習をしているなんて感心ですね」
「嫌味か……。元を辿ればお前の闘魂注入よりも激しいビンタのおかげだろうがよ」
「元を辿れば――ですか? そうなってくると根元は時人様にあると思われますが?」
「なんでだよ」
「体調管理不足による虚偽の体調不良報告にセクシャルハラスメント行為と発言。それと大遅刻――」
「――はぁ」と呆れた溜息を吐かれる。
「どこかの悪徳政治家よりもたちが悪いですね」
「大袈裟だな。オールしたからちょっとフラフラしてて、お前にゲーム壊されたショックで床に四つん這いになったら、たまたまパンツ見えて、気を使って、お前のパンツじゃ興奮しないって言っただけだろ」
「それを何とも思わずにスラスラと言える性根の腐った心はまさしく悪徳政治家。なんですか? 自分の会社継がずに政治家にでもなるのですか? 辞めて下さい。一生懸命活動している政治家様達の邪魔です」
「別にならねぇよ。政治家には」
「いや、なれねぇよ。政治家には」
そう言われて「確かに」と納得してしまう。
「――それで? 重役出勤したのにこんな所で何をなされているのですか?」
「体操服忘れてね」
「――はぁ……。こんな間抜けが私達のトップに立つ日が来ると思うと、もう今から徹底的に鍛え直した方が良いと思うのですが……」
「しょーがねーだろー。忘れた物は。今から取りに帰っても時間ないし」
「それではこのまま学校に来たのにサボると?」
「ここから運動神経抜群のお前がどれほど成長したか見守ってやると」
「ちなみに、運動神経というのは皆が持っているので、先の時人様の発言を訂正するならば『運動能力が高い』と発言するのが正しいでしょう」
「いや、もうそれ『重複』と同じじゃんか。『ちょうふく』って読むけど『じゅうふく』って読む人がおおくなったから、どっちも正しい的な感じだろ? 昔から『運動神経抜群』って言葉あるんだから別に間違っちゃいないだろうが」
「いえ、我が社のトップに立つ人なのですから日本語はキチンと覚えて下さい」
「面倒くせーなぁ」
ボリボリと頭を掻いて机に伏せる。
「ともかく体操服忘れたから俺はここで寝る」
「仕方のない方ですね……」
そう言うと、雫は自分の席に行き、横にかけてあるいつものスクールバックとは違う手提げ鞄を持って俺の席に置いた。
「予備です。お使い下さい」
「――まじで!?」
俺は中から少し鼻息荒く取り出す。
もしかして、雫の使い終わりの体操服!? なんて期待したのだけど……。
「――ありがとう……」
体操服には俺の名前が刺繍されていた。そりゃそうか……。
「もしかして……何かとてつもなく変態な事を考えていませんでした?」
「滅相もない。ただ、ただ予備を持っていてくれた事に感謝ですぞ」
「ホントかいな……」
信用していない様な声を出して雫が回れ右をする。
「これで授業出れますね。さっさと着替えてグラウンドに来やがれ。です」
「はいはい――っと、そうだ雫」
呼び止めると鬱陶しそうな顔で「なんです?」と振り返ってくる。
「さっきさ、昼飯にラーメン食おうと思ってさ、ほら、家の駅前にあるラーメン屋」
「時人様……。学校サボってラーメン食うとか、どういう神経しているんですか」
「いや、まぁかたい事言うなよ」
笑いながら言って話を続ける。
「それでさ、そこのラーメン屋潰れてたんだわ」
「――あら。そうだったのですか? 知りませんでした」
予想外にも雫も知らなかったみたいだな。こいつなら何でも知ってると思っていたけど。
「だろ? いつも通っているのに気が付かないものだよな」
「ええ。確かに――そうだったのですか……。あそこのラーメンは好きだったのですが」
「だよな! ちょっと残念だよなー」
「まぁ、好きだけどあんまり足は運ぶ気にならなかったですね」
「それ! 俺も全く同じ事考えてた」
そう言うと雫は少し口を緩ませる。
「そ、それで? そのラーメン屋がなんです?」
「いや、その跡地にパンケーキ屋が出来るみたいなんだよ」
「パンケーキのお店ですか。へぇ」
「今度一緒に行こうぜ」
「――え?」
俺が誘うと雫は面食らった顔になった。
「ダメか?」
「い、いえ……。そんな事は……。でも、時人様はパンケーキはあまり好みではないと思うのですが……」
「雫は好きだろ?」
「私は……まぁ……好きです」
「だろ? 最近雫疲れてるみたいだし、好きなパンケーキでも食べてちょっとでも癒されたら良いと思ってな。だから一緒に行こうぜ」
そう言うと、雫は俺の方へと歩み寄ってくる。
「――ん?」
「合格です」
そう言いながら俺の脇腹をつついてくる。
「ひゃ!」
「そうそう! そんな感じですよ! そんな感じ! 女の子をデートに誘うってのはそういうナチュラルな感じなんです? お分かり?」
「――へ? デート?」
「その感じ忘れないで下さい! 今後一生心に刻んで!」
そう言って雫はスキップして教室を出て行った。
「――ああ……。今のが正しいデート誘い方か……」
なるほど……女の子をデートに誘うには意識し過ぎてはダメだというのか。
勉強になるぜー雫。




