中間テストの条件
「――アホすぎわろた。ですわ」
開幕速攻での雫の罵倒に俺は何も言い返せずにいつものダイニングテーブルで縮こまる事しか出来なかった。
それというのも、先程の瑠奈との対決のリザルトを報告したからである。
「何なの? 身を乗り出して髪の毛触るとか? 耳にかけるとか? 彼氏気分ですか? このやろー」
「それは……その……ピアスが怪しくて」
「怪しくても女の子の髪を気安く触るなよ」
「反論の余地もない……」
雫は溜息を吐く。
「まぁ……? 結果オーライというか、窮地を出したと言いますか……。それのお陰で追い返せたのでまだ良かったですね」
「あのままじゃヤバかったぜ」
そう言うとジト目で見てきた。何を言いたいのか、大体予想は付く。
でも、仕方ないじゃん。俺、男の子なんだから。女の子の身体に興味持つのは当然じゃん。
「――しかし……盲点でしたね。バイト先を攻めてくるとは……。敵は学校イベント以外でも攻めてくると――」
口元に手をやり、やられた、と言わんばかりの声を出す雫。
「バイト先でインカム付けっぱなしにするのはダメだからな」
「勿論、バイト先でのルールがあるなら、それに則り仕事をしなければなりません。しかし……そうなると、今後バイト先でエンカウントした際、この『女に夢持ちすぎている変態童貞』縮めて『ドリーム童貞』略して『DD』にはキツイ戦いが待っているでしょう」
「なんだか、何処かのゴリラの弟分みたいなあだ名だな」
「彼のスペックは高いのに、これときたら」
親指でさされて溜息を吐かれてしまう。どうやら俺はチンパンジーにスペックで負けてしまったみたいだ。
「――しかし、不幸中の幸いと言いますか……。しばらくバイトはお休みになられんですよね?」
「ああ。テスト期間だからな」
もうすぐテスト1週間前。この期間、学校は部活動を休止し、テスト勉強を優先させる。それに肖って俺もバイトは休ませてもらっている。俺が休ませてもらっている間は、他の高校生組の人にシフトがいくのだが、そこは持ちず持たれずで、他の人がテスト期間の場合は俺が多くシフトに入る。高校が違うから出来る技であるな。
「なら、しばらくは瑠奈さんもバイト先に来ないでしょう。しかし、ここで新たなる不安要素が発生しますね」
「不安要素? 何が?」
「テスト期間です」
「テスト期間が不安要素? お前成績良いのに?」
俺は頭に?マークを3つ位浮かべて首をひねる。
「違いますよ。テストがあるという事は勉強をするという事。1人で勉強するより2人で勉強した方が身に付きますよね?」
「ああ。お互い分からない所とかを教えあって、教えてもらった奴は理解でき、教えた奴は復習になるもんな」
「相手はそれを上手く利用してくるでしょう」
「一緒に勉強しよ――ってか?」
そう聞くと頷いて人差し指を立てて言ってくる。
「題して『ぺぇーん。分からない所あるよー。教えてー時人くーん』作戦です」
「いや、何でお前が作戦名を命名してんだよ」
「そこはどうでも良いです。ともかく相手はこの作戦で来る可能性があります」
「なるほど……。テストに付け込んで、2人っきりになり、そこでテスト勉強だけではなく、大人の保健体育も勉強して俺を誘惑しようってか!?」
俺は拳を作り「やろう……」と呟く。
「それはそれで――あり!」
「なしじゃボケ!」
雫に喝を入れられる。
「何を誘惑に負けてんだよ!」
「いや、だって……瑠奈おっぱい大き――」
「あーん?」
「ひぃぃ」
ゲロ以下の存在を見る目をされてチビリそうになる。
雫は顔を手で覆い壮大に溜息を吐く。
「そんな気持ち悪い事ばっかり考えてるからいつまで経ってもDDなんですよ」
「ご、ごみん」
「まぁ2人っきりにしようとするのは間違いではないでしょう……。そこで私に考えがあります」
「ふむ。考えとな?」
「ええ。題して『DD誘う前に雫が誘っちゃえ』大作戦」
パチパチパチパチと自分で拍手する雫。タイトルが全てを物語っている。
「こういう時の為に予め彼女と接近しておいて良かったです」
「逆に、こういう時の為に近づいたお前の性格の悪さが滲み出てるぞ」
「そこ! うるさい! です」
ビシッと指をさされて言われる。
「全く……誰の為に……」なんてブツブツと文句を放たれるが「ともかく!」と話を戻す。
「私と紗雪が瑠奈さんを誘うのは自然の流れ。それを断り時人様に行く何て奇行はしないでしょう」
「それをするという事は俺の事が好きだと言っているのも同意だもんな」
「そうです! いつも後手に回っていましたが、今回はこちらから攻めますよ!」
拳を作りやる気を見せる雫。
「あ、次のテスト学年10位内に入らないと1週間娯楽禁止らしいですよ」
コロッと声色を変えて言ってくる。
「ふぅん――って……ええ!?」
一瞬なんのこっちゃ分からなかったが、言葉の重さを理解して俺はドデカい声が出てしまう。
「いきなりどういう事!?」
「そのままの意味ですが?」
「いや! もっとテンション上げて言えや! 最初意味分からなかったわ!」
「時正様よりメッセージをお預かりしておりますが……お聞きになりますか?」
「聞くわ」
そう言うと雫はポケットからスマホを取り出して動画を再生してくれる。
そこには偉そうな机に肘ついて偉そうに手を組んでいる男が映し出されていた。
光の反射の関係なのか、顔は良く見えない。
『これで顔見えない?』
『見えないです』
『OK。 OKよ』
『しかし、何故顔を隠すのですか?』
『何かラスボスって感じしない?』
『しません』
『そうか……。ま、良いや。これもほぼ自慰行為と同じだし』
『時正様。女子高生にそれはセクハラ発言ですよ』
『硬い事言うなよー』
「あ、間違えました」
「何のコント?」
「すみません。極秘との事でお話しする事はできません」
「極秘になってないぞ……」
呆れた声を出すと、雫がスマホをスライドさせて、違う動画を再生する。
『やぁ時人。久しぶりだな。私だ――』
お前だったのか。全然気が付かなかったぞ。
『――お前の事だ。昔々のお笑い芸人のネタが脳裏に浮かんだ事だろう』
流石は親父。俺の脳裏を読んできやがる。暇を持て余してやがる。
『神々の――いや……そんな事はどうでも良い。もうすぐ中間テストが始まるらしいな。そこでだ。私とゲームをしよう』
「ゲームだと?」
『そうだ。ゲームだ』
「流石親子ですね……。動画なのに会話するなんて」
呆れた雫の声が聞こえた。
『ルールは簡単だ。お前が学年10位圏内に入らなければ1週間の娯楽禁止プラス雫の言いなりだ』
「はあ!? まじで言ってんの!?」
『まぁ雫の言いなりなのは何の罰ゲームもならないか。何せ毎日尻に敷かれている事だろうだからな。アッハッハッ!』
ムカつく高笑いをした後に本題に戻る。
『一応親の手を離れて暮らしているからな。お前の本気を見して欲しくて今回の件を設けさせてもらった。お前の本気を見してくれ。じゃ――』
そして動画が切れると思ったが最後に付け加えてくる。
『あ、何だっけ? 女の子が迫って来てるんだっけ? 俺的にはお前の好きになった奴なら誰でも良いけどさ、まぁ前も言ったかも知れんが、相手が自分の事を好きじゃなかったらしんどいぞ。俺と莉乃みたいな関係が良いから。俺達が至高だから! 俺達がベストカップルだから!』
そして通信は途切れた。最後の痛い発言は何にも響かなかった。
「――みたいです」
「雫?」
「ダメです」
「まだ何も言ってないぞ」
「隠蔽行為は出来ません。是非実力で証明して下さい。じゃ!」
冷たく言い放ちリビングを出て行こうとする。
「あ! ちょっ! 見捨てる気か!? くそメイド!」
俺の言葉を無視して雫は自室に戻った。
学年10位圏内か……。まずい事になったな……。




