ストレス解消
瑠奈とアルバイトトークをしたので、少し帰りが遅くなってしまう。
後は日誌を持って行くだけなので先に瑠奈に帰ってもらう様に言うと、あっさりと帰って行った。
一緒に帰るお誘いがあると思われたが、帰り道にまたブッ込まれても困るので、それはそれでありがたいが、少し寂しい気もする。
そんな矛盾な気持ちのまま日直日誌を葛葉先生に渡すと「ごめーん。このノート南方さんに渡してくれなーい? 体育館にいると思うからー」なんてお使いイベントが発生してしまった。
最初断ってやると、泣きそうな顔で見てくるから、俺がいじめてるみたいになって、折れてしまい、結局パシられる事になる。
はぁ……女の涙ってホント武器になるよな……。
体育館に近づくとダムダムと地響きが鳴り、キュッキュッとバッシュの音が聞こえてくる。
部活やってんなぁ。なんて感心して様子を見てみると、コケそうになった。
体育館には紗雪が1人でバスケの練習をしていたからだ。
部活してないんかい! と心の中で思いながら、紗雪の練習風景を見ていると、こちらに気が付いた紗雪が駆け寄ってくる。
「あれ? どしたの時人くん」
「これ、葛葉先生に渡せって言われてな」
手に持っていたノートを紗雪に渡すと「あーこれね」と瞬時に理解して受け取ってくれる。
「女バスって紗雪だけだっけ?」
そう聞くと紗雪は笑いながら答える。
「あはは。ちゃんといるよ。でも、今日はみんな、バイトだの、デートだのなんだのって帰っちゃった」
「弱小部活あるあるだな」
「そだねー」
「そんな中1人黙々とバスケの練習たぁ、見上げた根性ですな」
そう言うと「バスケ好きだからね」と笑いながら言ってくる。
「そうみたいだな。バッシュもボロボロになってんもんな」
「あ、これ? お気に入りなんだよね」
「へぇ。彼氏からの送り物?」
「違う違う。彼氏なんていないよ」
「――って事は……」
小林の事はフッたのか? と、言葉に出そうになったのをギリギリ止める。
それを聞くのは失礼だと気が付いたから。
しかし、紗雪は少し沈んだ表情をした。その後に顔を上げてニコッと笑い言ってくる。
「ね? 時人くんってバスケ出来る?」
いきなりの質問に少し考えて答える。
「体育の授業位だな。ドリブルとシュート位なら出来るけど」
「十分だよ。練習付き合ってくれない?」
「え? 今から?」
「ダメかな? 1人で練習するのって寂しいんだよ?」
「――まぁ良いか。バイトもないし」
「ホント!? やった。ほらほら来て」
紗雪は俺の腕を握りバスケットゴールの方まで引っ張ってくる。
こういうところがモテる秘訣なのだろうか。
ゴールの近くまでやってくると「1on1やろ」と言われる。
「えーっと……。タイマンバトルみたいなやつだよな?」
「そうそう。オフェンスとディフェンスに分かれて、オフェンスがディフェンスにパスして、ディフェンスがオフェンスに返して試合開始! みたいな」
「そんでゴール決めたら勝ちで、ディフェンスにボール取られたら交代だっけ?」
「そんな感じー。どうする?」
「じゃ先攻めで」
「おっけー」
そんな訳で、先行をもらい、俺から攻める。
体育で習った程度のドリブルをしているとあっという間にボールを取られる。
「――はや」
「隙だらけだよ」
そんな訳で攻守交代。紗雪が攻めてくるので、俺はそれをブロックする。
「ディーフェン! ディーフェン!」
「あはは! なにそれ?」
「あれ? ディフェンスする時って掛け声出さないの?」
「出さないよ。出すなら控えの選手かな?」
「俺遊びの時ずっと出してたわ」
「良いじゃん。声出すのは大事だから」
そんな軽い会話の中でも、紗雪はノールックで股下なり、後ろなりでドリブルをして見せる。こいつガチ勢だな。
「――でも!」
次の瞬間、紗雪はクルリと身体を回転させて簡単に俺を抜き去り、そのままドリブルシュートでゴールを揺らす。
「掛け声に集中してたら意味ないよね」
「いやいやいやいや! 無理だわ!」
「あはは! 凄いでしょ!」
そうやってVサインを俺に見せてくる。
「凄すぎて相手になんないよ」
「もう降参?」
「冗談。ほらほら、次、次」
負けず嫌いが発動し、次の俺のターン。
俺は速攻でシュート放って見せる。
ボールはそのままゴールに吸い込まれる様にネットを揺らした。
「え! すごっ」
「ははっ! 野球やってたからな。これ位は届く」
「あ、野球部だったんだ」
「野球部というよりは学校じゃなくてボーイズリーグっつう硬式野球チームにいたんだよな」
「あー。シニアみたいなやつ?」
「団体が違うんだけど……。ま、そんな感じか」
「そうなんだ。野球は続けなかったんだね」
「まぁ……。色々な」
そんな会話の中、紗雪は変幻自在にボールを操る。何とか喰らい付こうとするが、それも無意味に終わり、またゴールを揺らされる。
「へいへーい。時人くんディフェンスがアマアマだよー」
「くっそー。ムカつくー!」
♦︎
「――参った……。もう降参……」
はぁはぁと息が上がり、最早何点取られたかも分からない勝負。
俺は中腰で負けを認めると、紗雪も流石に息が上がっており、はぁはぁ、と言いながらも嬉しそうに勝ち誇ってくる。
「私の勝ちだねー」
「そりゃ……はぁはぁ……勝てる訳ねーだろ……」
「まぁ……時人くんも良い線いってたよ。どう? バスケ部入らない?」
「んにゃ……。やめとく」
「あら。残念」
紗雪は言いながら持っていたボールをスリーポイントで決めて爽やかに言ってくる。
「ありがとう。何だかスッキリしたよ」
「何だ? 何か悩みがあった様な言い方だな」
そう言うと「まぁねー」と軽く言われる。
「何?」
尋ねると、彼女は少し考えた後に「時人くんならいっか……」と呟いて話をしてくれる。
「この前、時人くんも見てたよね? 私と小林くんが話してるところ」
「あーうん」
「ま、想像通りな訳ですよ」
想像通り。つまりは告白されたってこったな。
「それで『1位になったらもう1回改めて告白させて』って言われたからさ、性格の悪い私は、私自身が1位になって阻止しようとしたんだけど――やっぱ現役陸上部には勝てなくて」
「そう言うって事は断る気だったんだな」
「――うん……。昨日は瑠奈ちゃん騒動って言うと大袈裟だけど、それがあったから、公開告白って事にはならなかったけどさ。さっき小林くんに呼び出されて――」
「断ったと?」
聞くと頷かれる。
「――もしかして執拗に迫ってくるとか?」
それに対しては首を横に振られる。
「そんな事ないよ。『気不味くなるのは嫌だからこれからも普通に接して欲しい』って言われて終わり」
流石はイケメン。中身もイケメンか。
「ただね……。やっぱり人をフるって行為は、フラれた方も辛いと思うけど、フる方も精神的に良くなくて……。バスケの練習して気を紛らわそうとしたけど、1人じゃ中々――」
「そんな時にちょうどええのんがノコノコやって来たってか?」
「そんなとこ。ふふ。ありがとね時人くん」
「まぁストレス発散になったなら本望だよ」
そう言った後に「聞きたいんだけど」と質問すると「なんなりと」と答えてくれる。
「とりあえず付き合ってみるって考えはないのか?」
たまに耳にする「とりあえず付き合ってみる?」みたいな軽いノリ。そんな感情は彼女にはないのだろうか?
「それはないかな。とりあえずって相手に失礼だし。付き合うなら好きな相手じゃないと。だから私には当分無理なのかなーって」
「当分無理? なんで無理なんだ? 理想高いとか?」
雫みたいにツチノコ探すより難しい条件とかかな? それだったら無理だよな。
「高いよー。だって私は兄さん達みたいな恋がしたいから……」
「兄さん達?」
俺が聞くと「あ、ごめん。なんでも」と言って手を振られる。
「ともかく、私の恋人は今はバスケかなーって」
「何だかアイドルみたいな台詞だな」
「えー? アイドル並に可愛いって?」
その通りなのがムカつくので、その事はスルーして俺は手を上げた。
「――ほんじゃまぁスッキリしたみたいだし、俺は帰るわ」
そう言って歩き出そうとすると「待って」と停止をかけられる。
「んー?」
「私の事だけ語ってズルイよ。時人くんの好きな人教えて」
「おーおー。これまたストレートに聞いてくるな」
「遠回しに聞くよりマシでしょ? さぁさぁ白状しなさい」
「好きだねー、女の子はそういうの」
ポリポリと頬を掻き、無意味に間を置いて答える。
「ま、いないと言っておこう」
「えー。つまんなーい」
膨れっ面をされる。
「瑠奈ちゃんに一目惚れしたとか暴露しないの?」
「何でそこで瑠奈なんだ?」
「だって転校初日から一緒にいる所よく見るしさ」
雫……。お前の言う通り、やっぱ側から見たらそんな風に見られてたわ。
「違うっての。俺は別に……」
「あの容姿に、あの一歩引いた大和撫子を連想させる姿勢。そして、まだ聞けてないけど、恐らくお嬢様! 逆玉だよ! 時人くん!」
あー……あっちが玉の輿狙って来てるってズバッと言ってやりてー。
「別に逆玉とかそんなんは……」
「じゃあやっぱり雫?」
そう言われて少しだけドキっとした。
何故そこで雫の名前が出て来たのか……。
このドキっと言うのは図星を突かれた物ではなく、俺達の関係性がバレたのか? という不安からなるものだ。
「何で星野?」
冷静を装い、まるで分かってないような演技の声を出す。
我ながら上手くいった気がする。
「私の『恋バナセンサー』が察知してる。『時人くんと雫は唯らなぬ関係だー』ってね」
コイツの勘ってエグいね。
「あははー! なら、そのセンサー壊れてるわー」
「えー? ほんとかなー?」
覗き込む様に俺を見てくる紗雪。その仕草が可愛くて、少し戸惑ってしまう。
「分かった。今後本当に好きな奴出来たら教えてやるって事で今回は見逃してくれよ」
「えー。マジでいないパターン?」
紗雪は「私の勘って当たるのになー」と悔しそうな顔を見せる。
いや、あんた雫並に凄いよ。ホントに。
「分かった。じゃあ好きな人出来たら教えてよね。絶対だからね」




