第六話 入学試験
入学試験の前日の夕方、ユアン達は陛下に呼び出されていた。
「お主達が賢者とバレたくないと言っていたが、さすがに学園長と教員達には話さないと混乱が起きてしまう。だから生徒達には公表はしないが、学園の教師達には言っても良いか?」
「まぁ別にいいですよ。平穏な学園生活がおくれるなら」
「俺は別に隠すつもりはないんですけどね。ユアンがそうしたいって言うなら俺もそうしますよ」
「わかった。ではそうしよう。お主達の結果楽しみにしとくぞ」
陛下は満面の笑みでユアン達を見送った。部屋を出て三人で歩いていると「久しぶりに三人で魔法の特訓をしない?」とアイが提案して来た。ケントは「やろうぜ!」といていたが、ユアンはめんどくさかった。
「ユアンはどうする?一緒にやらない?」
「んーじゃあ少しだけ」
「決まりね!じゃあ第一訓練場にいこ!」
アイは嬉しかったのか、子供のような笑顔をしていた。その表情で前世での一条由依の笑顔と重なってしまってあの事故のことを思い出した。ユアンは心臓が握られているような痛みを感じた。
「ッ!」
ユアンは咄嗟に左胸を押さえてしまい歩いていた足が止まった。それを見てアイとケントが心配そうにユアンを見る。
「ユアン大丈夫!?どうかしたの!?」
「おい平気か?」
「いや大丈夫.....少し心臓がチクってしただけだから。ごめん、俺抜きで特訓してて。俺少し寝るわ」
ユアンは走ってその場から立ち去った。部屋に戻ってすぐにベッドの上に横になった。
さっきの感情は何だったんだろうか。何であの時のことを思い出したのか。あの事故の時、三人で祭りに行く約束をして学校近くの信号で事故にあった。事故にあった時、五十嵐太陽は少し意識があったが一条由依と佐藤大地はもう意識はなかった。あの時の光景は今でも覚えている。目の前で大切な友達が死んでいる姿はもう二度と見たくない。この世界であの二人には前世のようなことにならないでほしい。ユアンはそう思いながら眠りについた。
朝起きると心臓の痛さは無くしっかりと眠れたこともあって、いつも以上に目が冴えてた。
「ねぇユアン起きてる?アイだけど...体調大丈夫?もし無理そうだったら入学試験をパスしてもいいって陛下から言われているけど」
アイの声が部屋に響き渡った。ユアンはドアを開け愛を部屋の中に入れた。
「別に問題ないよ。寝たら治ったし、気にするほどでもないよ」
「本当に?無理してない?」
「してないって!なら試験中危険だと判断したら止めてくれよ。お前の判断に従うよ」
「別にそこまでとは言ってないけど.....元気ならいいよ。ほら早く準備して朝ご飯食べようよ!待ってるからさ!」
アイは昨日と同じ笑顔になったが、昨日みたいに心臓が痛くなることはなかった。ユアンはすぐに準備してアイと一緒に食堂へ行った。食堂ではケントとクレアが朝ご飯を食べており、一緒の席で朝食を食べた。
「おっユアン体調は平気なのか?」
「ああ、寝たら治ったよ。とりあえず早く終わらせて寝たいよ」
「ユアン様体調悪かったんですか?無理しないで休んでもいいんですよ?」
「別に平気ですよ。約束もありますし」
ユアンはニヤリと笑いながらケントとアイを見た。
「そう言えばユアン、誰が当てるか決めたの?私とケントは決めたよ」
「俺はヴァントさんだな。ケント達は?」
「俺はバーンさんだ」
「私はソイル様」
二人はユアンと予想が違っていた。これでユアンがケントを首席にすればユアンの賭けが勝利となる。まだ試験内容はわからないが慎重に進めていけば上手くいくはずだ。
「まぁ誰が当たっても恨みっこなしだな」
賭けの話もしつつユアンは軽く朝食を済ませ、部屋に戻り必要な筆記用具などを持って城を出た。城を出ると前に馬車が用意されており、中にはクレアとケントとアイが乗っていた。ユアンも中に入り学園まで乗せてもらった。
学園に着くと大勢の子供で賑わっていた。受付で自分の受験番号をもらい、教室へと案内された。ケント達とは別の教室になった。教室に入ると受験番号が書かれている席に座った。席に座っていると試験管が教室に入って来た。
「さてもうすぐ試験が始まる!最初は筆記試験だ。不正行為がないように全力で取り組んでくれ!」
試験管は手に持っていた用紙を生徒に配り始めた。試験管の合図で筆記試験が始まる。筆記試験の内容は数字の足し算引き算など前世の小学一年生がやるような内容だった。ユアンは速攻で終わらせ筆記試験が終わるまで適当に時間を潰した。
***
「時間だ!では前に回答を送って先頭の人は私に持って来てください」
ユアンは自分の解答用紙を前に送る。この問題ならあの三人も余裕だろうと安心する。
「次は実技試験だ。全員校庭に集まるように」
そう言って教室にいたみんなは校庭に移動する。ユアンも流されるようにみんなについていこうとすると試験管の先生に止められた。
「君はこっちに来てください」
「えっ?」
試験管についていくと地下のグラウンドに案内された。
「あのここで何をするんですか?」
「もう少し待ってれば分かりますよ」
試験管が急に敬語になったので少し驚く。不審がっているとユアンが入って来た扉からアイとケントがやって来た。
「あっユアンだ!おーい」
「ユアンも呼ばれたってことは.....」
「はいそうです。ここではあなた方に主席を決めてもらいます。ルールは簡単です。ここで戦ってもらって勝ってもらうことです。ギブアップ宣言などはご自由にしても構いません」
試験管の驚きの発言で三人は固まっていた。
「戦うってここでですか?」
「はいそうですよ。昨日学園長から「主席はこの候補の三人だから戦わせて強い人が首席でいい」と言われたので理由を聞いて驚きました。あなた方の能力では、今いる子供達が萎縮してしまいます。なので誰にも見られないような場所で主席を決めるって判断に至った訳です」
「いいんじゃね。三人でバトルロワイヤルってことだろ。面白いじゃん」
「まぁ昨日何もできなかったし、けど三人で戦うのは初めてだよね?」
ケントとアイはすっかりやる気になっている。
「まじでやる気なのか?」
「当たり前だろ。それにユアンが作った刀もどれくらいなのか気になるしな」
それはユアンも試したいって思っていた。首席のバトルロワイヤルか.....とめんどくさいと思っているとふとあることに閃いた。それは普通に戦っといてまずアイを脱落させる。その次にケントと戦って少し戦った後にユアンがギブアップをすればケントが首席になり、ユアンはケントに負けるが賭けでは勝つと言うことだ。
「まぁしょうがないか。やるとしよう」
ユアンもやる気になり戦う準備をする。準備が整いお互い睨み合う。
「では始め!!」
試験管の合図で三人のバトルロワイヤルが始まった。
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