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白々しい魔法少女の目

            ♪♪♪


「お待たせしました、お客様。何かお探しですか?」


 完全店員モードで対応する。私ははっちゃけて歌ってた不良店員でも、昔の歌手でもCDジャケットデザイナーでもありません。ただの相槌を打つ機械です。

 高堂、改めお客様は、うーん、と店内を見回して楓に笑みを向け、


「メープルシュガーファンの友人、とか?」


 ピクピク、とスマイルを貼り付けたこめかみが動く。メープルシュガーは楓がボーカルをやっていたバンドの名前だ。だが、その程度では揺るがぬ笑顔の鉄壁。


「申し訳ございません、お客様。うちは楽器屋ですので。人はご用意し兼ねます」

「でも店員さんがいるじゃないですか。ファンでしょ?」

「いいえ。私はこの店の備品です。おまけもいいとこ」

「そうか、なるほど。おまけですか」


 高堂は面白がるように指を立てて、そうだ、と言った。


「僕は、奇麗な歌を歌ってくれるおまけが欲しいなあ。たとえば、あなたとか」


 向けられた指の先から体の位置をずらす。そしてやんわりと、


「お客様。お言葉ですが、女性を物扱いするのは感心しませんよ」

「……それもそうだけど、自分で言ってたじゃないです?」

「女性とは自己評価が低く、他人からの評価は高望みする生き物なのですよ」

「あはは。確かにそうかも。じゃあ楓さん。僕と友達になってくれませんか。あなたはとても面白い女性だ。すごく魅力的でもある」


 平然とした顔でナンパしてくる爽やかイケメン。美男子のこういうところが苦手で嫌いなのだ。恥じらいの精神とか粋の心はどこに行った日本男児。言いたいけど本音を隠すのが美しいのじゃないのか。浮いたセリフを言えば、誰もが振り向くと思わないことね、韓流フェイス。


「気持ちは有り難いのですが、私はたかがおまけですので。お客様には勿体ないです」

「あれ? 正当に誘ってもダメ? っていうかおまけって自分で言ってるし」

「ええ、おまけです。グリコのおまけ並におまけです」

「あれ並ですか……。でも他人が物扱いすると、機嫌を悪くする」

「ええ、当然の感情です」

「えぇー。そんなのどうしろって言うんですか。矛盾してますよ」


 眉を顰めて困惑する高堂を、ふふふ、と楓は内心嘲笑った。


 見たか。これぞ女子の矛盾シールド! 他人からの評価を求めているくせに実際に投げられると素直に受け取れない。高い評価を貰えば貰うほど、一層意固地になって自己評価を下げていく。しかし他人に、しかも異性に低く評価されるのは我慢がならない。


 このスパイラルを攻略するのは困難だ。さあ諦めろ高堂青年。あんたが私を誘おうなんて二十年早いのよ。四十路の渋みを手に入れてから出直してきなさい。

 やがて、高堂は観念したようだった。しょんぼりした顔に苦笑を滲ませて、


「……分かりました。同志を見つけたと思ったのに残念です。奇麗な顔して意地悪なことをするんですね、柚木さんは」

「おや、何のことでしょう。ではこんな商品いかがでしょうか。『どこでもカラオケ君ミリオンZ』。後続機の『プリンセス』も付属しておきますよ」


 手に持ってたマイクをそのまま出し示す。高堂は掌を見せて、


「いえ。すでに二つとも持ってるから結構です。配達の途中で立ち寄ったので、今日は帰らせてもらいますけど、また後日来ますよ」


 言って、高堂は背中を向けて出口に向かう。折角のお客様だが、冷やかしを止める必要は無い。清々しい思いで頭を下げる。


「ありがとーございましたー。またのご来店を~」


 ガチャンと扉が鳴り、閉まる。頭を上げて、う~ん、と寝起きのように背を反り伸ばしてから、体を反転。ルミナが呆れたような目付きで見ていた。


「……カエデ、誰にでもあんな接客してるんじゃないだろうな」

「ちょ、失礼な。それは早とちりだって。いつもだったらもっと丁寧に対応してるって。さっきのは特別。どうでもいい男にしかやらないわよ」

「どうでもいい男が来る頻度は?」

「ん? んんー、ひと月、ふた月に一人くらいかな?」

「そうか。この店が繁盛しない理由が垣間見えたな。うむ」

「え、嘘? どうしてなの。教えて」


 まさか長年の疑問がこんなところで明らかになるとは。興奮する楓にルミナは面倒くさそうに杖を突きつけた。顔ではなく、胸の辺りに。そうして言う。


「自分の胸に、聞いてみることだな」


 え、と胸を押さえてみるが心当たりはちっとも無い。判明したら出来る限り直そうと思っていたが、それがはっきりとしないとなると、ううむ。どうしよう。


          ♪♪♪


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