第8話
霧が、再び静まる。
だがそれは“終わり”ではなかった。
むしろ逆だ。
何かが決まる前の、異様な静寂。
凪の喉が乾く。
「……選択って、何のだよ」
弥國は答えない。
ただ霧を見ている。
正確には、“霧の奥”を見ている。
「凪」
弥國の声は低い。
「動くな」
「さっきと同じだ」
「同じって何回目だよそれ!」
凪が叫ぶ。
だが足は動かない。
動かせない。
霧が、空間の“意味”を固定している。
その時だった。
空間が“音を持った”。
ゴォン、と低く響く。
それは爆発でも雷でもない。
世界そのものが、呼吸した音だった。
(選別開始)
凪の頭の奥に、言葉が落ちる。
今度は弥國にも、かすかに“ズレ”として伝わる。
「選別……?」
弥國の眉が僅かに動く。
「何を……」
霧が揺れる。
そして、三つの戦場が再び“重なり始める”。
上位個体の戦場
凪のいる空間
メフィストの視界
それぞれが、ほんの一瞬だけ同じ層に重なる。
その中心で。
“何か”が凪を見た。
言葉はない。
視線でもない。
ただの「認識」。
(対象:朝雛凪)
(運命干渉:観測対象)
(評価:上昇)
凪の全身に鳥肌が立つ。
「……っ、またそれかよ」
「評価ってなんだよ!」
その瞬間。
霧の中で上位個体が動いた。
だが、その動きは不自然だった。
凪に向かっていたはずの殺意が、途中で“逸れる”。
「……は?」
凪が目を見開く。
弥國も僅かに反応する。
「逸らされた」
「誰にだよ!」
答えはない。
代わりに。
空間の“重さ”が変わる。
メフィストのいる層。
彼は静かに霧を見ていた。
「またか」
小さく呟く。
「貴様はいつもそうだ」
「選別と称して、勝手に基準を変える」
霧は答えない。
ただ、そこにある。
そして。
凪の足元に、小さな“違和感”が生まれる。
弥國が即座に銃を向ける。
「凪」
「そこから離れろ」
「今度は何だよ!」
バンッ!!
弥國の雷撃弾が地面を撃ち抜く。
同時に、凪の立っていた空間が“ずれる”
一瞬遅れていれば、存在ごと消えていた。
凪は息を荒くする。
「おい……今のマジで死んでたろ」
「死んでた」
弥國は淡々と答える。
霧が、わずかに揺れる。
まるで──
少しだけ楽しんでいるように。
その瞬間だった。
霧の奥から、“声”ではないものが届く。
弥國の視界。
凪の思考。
そしてメフィストの戦場。
全てに同時に。
(観測終了)
(候補:確定)
凪が顔を上げる。
「……確定?」
「何がだよ」
霧の中心が、ゆっくりと収束する。
まるで一つの結論を出すように。
そして。
その答えは。
まだ“誰にも知られていない”。




