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遭遇 ジャリュウ ハウンディ

「今日も平和だもおーん」

れなの気の抜けた声が、青空に吸い込まれていく。


れなとれみの姉妹が、よく晴れた日に海面上を空中散歩を楽しんでいた。

真下には名も知らぬ島に名も知らぬ町が。白いコンクリートの建物が立ち並ぶ様は、こうして見ると何だか寂しい光景だ。

「そうだれみ!競争しよう!」

「競争かー。じゃあここから地球の裏側まで何秒で到着できるか勝負だ!」

れなが挑戦を持ちかけ、れみがルール決めという流れだった。二人はすぐに頷きあい、始めからフルスピードで飛び抜けようとしたのだが…。


「ん?」

すぐにれなが何かを発見した。

遠くの方で黒い物体が浮いている。

れなはそちらに向かって飛んでいき、れみが後を追う。


近づいてみると、それはドローンだった。全体が墨を被ったように真っ黒。

近づいても特に何も反応はないが、真下を見てみると木々が生い茂る山が並ぶ島が海面に浮いている。あの島を何者かが監視しているようだ。

れなはドローンの前に躍り出て、全力で変な顔をする。

「お姉ちゃん!何か大事な機関の物とかだったらどうすんの!」

れなは顔を離して軽く笑った。…またドローンを見つければ、同じ事をするだろう。

それにしてもどこの物だろうか?真下にある島も、一見すると何の異常も見られないが…。

「れみ、ちょっと調べてみよう!!」

れなは好奇心のままに真下にある島へと降下していく。

いつも好奇心のままに動くとロクな事がないというのに。

れみもれなを追いかける形で島へと突入した。


島は、どこにでもあるような草木に囲まれた緑一色の光景だった。

周辺の海から流れるさざ波が陸地に軽く打ち付けられ、穏やかな音が流れてる。

鳥や虫の声はしない…やけに静かな島だ。

二人は辺りを見渡しながら、ゆっくり進んでいく。

いきなり知らない島へ突入するなり、ズカズカ進んでいく二人のメンタルは相当なもの。まあ昔からこんな感じなのだが。

…だが、二人はこの島の危険性に気づいていなかった。


「!!」

姉妹は右側から強い殺意が一瞬で飛んでくるのを感じ取った。

咄嗟に跳び跳ね、丁度木々と同じ高さまで飛び上がる。

空中に跳ね上がる二人の真下に、何かが通りすぎた。


「逃がさん!!」

その何かは突然方向を変えると、空中の二人に向かって飛びかかってきた!

れみの方向へ向かってると気づいたれなは、直ぐ様れみの前に飛び出して彼女を庇った。


襲撃してきたのは、灰色の毛皮に身を包み、鼠のような耳を持つ背の低い小男だった。

お互いに衝撃を受け合い、地上へと落ちるれなと小男。

「よくこのマウフィーの攻撃を察知できたな!」

マウフィーと名乗る男はそれを言い残すとすぐに茂みへと消えていく。

あの姿、そしてあの何とも言えない気配…間違いない、やつは捕食者だ。

あのタイガと既に戦闘済みなれなは、この程度で捕食者は諦めない事を分かってた。付近にある茂みに一通り目を通し、どこかからマウフィーが飛び出してくる事を予測する。


「隙あり!」

案の定、右方向から草を被ったマウフィーが勢いよく飛び出してきた!

隙ありはこっちの台詞。

れなは軽く後ろに下がってマウフィーの拳を回避し、背中に手刀を振り下ろしてみせた!

その力でマウフィーは地面に叩きつけられ、同時に地面が派手に岩を吹き上げながら凹んでしまう。

だが捕食者はモンスター以上のタフさのようだった。マウフィーは直ぐ様立ち上がり、振り返り様に小さな爪でれなを引っ掻こうとしてくる!

間一髪かわすが、マウフィーの爪から紫色の液が飛んでくる。

これは…恐らく毒だ。毒液はれなの髪に染み付き、紫色のシミとなって広がった。

「あ、私の自慢のバナナへアーがナスヘアーに!!!」

一部の色が紫色になってしまい、パニックになるれな。

何だかよく分からないが反撃のチャンスと見たマウフィーは更なる一撃を決めようと一直線に飛びかかる!

それを見て姉を助けようと、れみが飛び出した!

「させるかドブネズミ!」

身軽に駆け抜け、マウフィーの顔面に蹴りをお見舞いしてみせるれみ!

派手に転倒するマウフィーに、今度はれなが右手の平を向けて青い破壊光線オメガキャノンを放出した!

即座に撃ったのでそこまでの威力はなかったが、それでも地面を抉りながら飛んでいく激しいエネルギーの塊だ。

マウフィーはかわそうとしたが、間に合わない。

すぐに青い光に飲まれ、悲鳴を上げながら吹っ飛ばされていった。


「…!」

マウフィーが飛んでいったのを見届けた姉妹はとりあえず胸を撫で下ろそうとしたのだが、ここでは一瞬の休息も許されないらしい。

今度は三方向から殺意の矢が飛んでくるのを感じ、すぐに茂みが揺れだした。

「まだ三人もいるのか…!」

考えるより先に自然と足が動くれな。


「…そこだ!」

れなは殺意の向かってくる方へ足を突き出した!


…のだが、相手は現れなかった。

代わりに、後ろから悲鳴が聞こえてきた。

れみの悲鳴だ。


振り替えると、そこには茶色い毛皮を着た長い茶髪の青年に顔を踏みつけられるれみの姿が!

「!やめろ!!」

息を呑んだれな。大切な妹を救うべく、無謀にも未知の相手へ向かってしまう。

拳を振りかざすのを見て、青年は直ぐ様バク転してれなから距離を離した。


「ここへ何しに来た。ここは我々の領域だ」

青年は、僅かに怒りに近い感情を滾らせた静かな声を発する。それに対するれなはやたら軽い口調だ。

「あ、ごめん。たまたま入ったらたまたま」

「この島はあいにく死と暴力が全てを決める。言い分を聞いてる暇などない」

何とも理不尽だ。

こうなれば迎え撃つしかないと、れなは両手を構える。

れみもすぐに起き上がり、れなの横について迎撃体勢だ。


青年は、右手を突きだし、左足を深く落とした構えをとる。


「…行くぞ!」

れなの叫びと共に戦いが始まる…。


…はずだった。



突如茂みが揺れ、何かが飛び出してきた!

殺意は感じられなかった。今度は咄嗟にれみが動いてれなを突き飛ばしてその何かから彼女を守り抜く。

倒れて砂煙を上げる二人。


「来客には優しくしろよハウンディ」

どこか陽気な声が聞こえてきた。


茂みを見ると、いつの間にか緑の髪に緑のアーマーを身につけた新たな青年。

その黄色い目は、まるで蛇のようにつり上がってる。

狼青年のハウンディは蛇青年に歩み寄り、不満そうだ。


…れなたちを襲撃してきたのは、蛇青年の左手だった。

その左手は、緑の蛇の形をしていたのである。

まるで別の生き物のように蛇の腕はこちらを向いて威嚇してきたが、引っ込むように元の腕に戻っていく。

数秒たてば、腕は人間と同じ腕になっていた。


「許してくれよ。こいつはハウンディ。ちょっと血に飢えた狼さ。で俺はジャリュウ。捕食者…と言っても分からないか」

ジャリュウは、わざと分からないように自己紹介をしたつもりだったが、既にれな姉妹は捕食者を知っている。

やはり…予想はしていたが、ここは捕食者の島なのだ。


「今日はあまり戦う気はないんだ。分かったらとっととここから出ていきな」

何かを聞き出そうと思ったれなたちだが、聞き出せなかった。

ジャリュウの目だ。獲物を睨みつつも、何を考えてるのか分からない奇妙な目からは、異様な迫力が放たれていた。

それこそ、まるで蛇に睨まれてるように…。


「いくぞハウンディ。悪喰様も言ったろ。俺達の相手はまずは雑魚の捕食者だ」

ハウンディは黙って頷き、ジャリュウと共に再び茂みへと姿を消した。




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