闇姫軍VS捕食者軍団
捕食者の島での戦いの他にも、ある孤島で激しい戦いが繰り広げていた。
…赤い字で闇と書かれた黒い円のマークが描かれた旗を掲げる、紫の鎧の兵士達。
彼らは闇姫が率いる軍だ。沢山の兵士達が槍やライフル銃を構えている。
その後方では、赤い左目を光らせる闇姫が立っていた。
その隣には、紫の球体に悪魔の翼をつけ、黄色いつり目の顔をつけただけの、一見威厳のない見た目の悪魔が、兵士達を指揮してる。
「ゆけ!闇姫軍に牙を向ける愚か者を黒く染めよ!」
悪魔の張りのある声と共に、一斉に掛け声をあげながら敵に向かう兵士達。
…相手は、ワニのような巨大な牙を生やし、金色の目を持つ怪人達。シルエットは普通の人間だが、牙が大きすぎて口は常に開いてる状態だ。
ワニ怪人達と兵士達がぶつかり合う。ワニ怪人は槍に噛みつき、兵士達はワニ怪人の頑丈な鱗に突きをお見舞いする!
ダメージは通るが、硬い鱗だ。このまま突き続ければ槍がもたない。
「どう見る、デビルマルマン」
兵士達を見つめたまま、球体状の悪魔、デビルマルマンに聞く闇姫。
「見たところ相手は能無し…。悪魔に勝てる訳がありません。これまでも、そしてこれからも」
お互い余裕だ。
この孤島に砦を建設しようと闇姫軍が作業を開始した矢先、突如現れたワニの捕食者達。
捕食者と闇姫軍兵士達の大激闘は、二人にとっては思わぬ娯楽。高みから雑魚の戦いを見下ろす事ほど楽しいものはない。
「ん」
デビルマルマンが目を凝らす。
兵士達は銃を使ってワニ怪人に応戦し、ようやく優勢に立ってきたのだが、一人銃撃にも怯まない大男がいた。
ワニとは違う…首回りに茶色い毛を生やした、三メートルほどの背にハゲ頭のゴリラのような怪人。ゴリラの捕食者だ。
その捕食者は右手だけで兵士達を凪払い、吹っ飛ばす。
闇姫軍の鎧はおよそ50キロ。それに加え、闇姫軍の兵士悪魔達の体は一番軽くても100キロ程。
それを、腕をかすらせるだけで飛ばしていく馬鹿力だ。
「ほう、あんなやつもいたのか」
これを見てデビルマルマンは実に楽しそうな笑みを浮かべる。
「ゴホホホ、何が闇姫軍だ。ブドウみたいな鎧着やがって」
兵列後方まで辿り着き、ライフル兵を薙ぎ倒すゴリラ怪人。この兵を薙ぎ倒せば、先にいるのは闇姫、デビルマルマンだ。
「何だ。紫色の鼻くそにこんなチビ女が首領なのか」
鼻くそ呼ばわりされたデビルマルマンは鬼の形相だが、闇姫は変わらず無表情。ゴリラ怪人は二人に一歩一歩と近づいていく。
近づいてきたゴリラ怪人は、近くにあった巨大な岩を発見した。
十メートルはある凄まじい大岩石だ。ゴリラ怪人はそれを右手の人差し指だけで持ち上げ、その力を自慢げに見せつける。
闇姫、デビルマルマンは影に呑まれる。
「もはや拳を振るう必要もあるまい!これでくたばれ!」
凄まじい勢いで振り下ろされる岩、その勢いで、風圧が発生した!
岩が落ちるより前に地面から土砂が巻き上がる。
「っ!?」
しかし、ダメージを受けたのはゴリラ怪人の方だ。
岩を持つ両腕にショックが走る。
…痺れる体で岩の下を見てみると、そこには短い手で岩を受け止めるデビルマルマンが。
それも左手の先だけでだ。
完全に見くびっていたゴリラ怪人。デビルマルマンはそのまま左手に力を込め、あっさりと大岩を粉々に破壊した。
岩の破片がゴリラ怪人にぶつかり、更なる隙を作り出す。
「こ、このやろ…」
岩がぶつかって上手く動かせない口を必死に動かして右手を振り上げる。
今度は油断しない。まずはチビ女からだと、闇姫を狙う。
風圧で闇姫の黒い髪が後ろに跳ね上がる…。
…しかし、またもやダメージを受けたのはゴリラ怪人だった。
闇姫は、その拳を左手の小指だけで受け止めた。
細く短い小指一本。しかもよく見ると指ではなく、爪だけで防いでいる。
鉄のように硬い拳から放たれる全衝撃を、爪だけで受け止める。
「なぁぁぁ…」
もはやゴリラ怪人には驚きを表す台詞すら思い付かない。
とどめに闇姫は言った。
「仮に私を倒せたとしよう。その後は私の妹達、そして親父がお前達を討つ。下品な下等どもに永遠に勝利などないのだ」
闇姫は空いている右手の人差し指を伸ばし、ゴリラ怪人を突く。
「消えろ、ゴミが」
その時、ゴリラ怪人の拳とは比べ物にならない旋風が巻き起こり、地面に落ちていた土砂の嵐が起きる。
ゴリラ怪人の後ろの兵士も捕食者も関係なく風に吹かれ、転がっていく。
そして、その衝撃をまともに受けたゴリラ怪人は空中にロケットのように飛び上がり、孤島をこえて雲を突き抜け、海の上へと落ちていく。
海面にゴリラ怪人がぶつかると、海面に浮いていた岩石が砕け散り、一時的に海に大穴が空いた。
…しばらくすると、穴は塞がっていき、あとには仰向けのゴリラ怪人が海面に浮いていた。
「が…な、んて、やつだ…」
デビルマルマンの拍手が虚しくこだます。
「こんなものか…捕食者とやらは」
少し期待していたようだが、たかが一発小突いただけで敗北する捕食者に、闇姫は静かにため息をついた。
…そんな一部始終を、空から見下ろす隠れた監視者がいた。
鱗のような深緑のアーマー、白い棘のついたヘルメット…ワニの捕食者ダイルだ。
「…捕食者が最強と思い込む時代も終わったみたいだな。油断できん…!」
口内の大きな牙を光らせるダイル。
…闇姫は、ほんの僅かに視線をダイルの方へ向けていた。
もう既に、敵がこの程度で終わるような相手ではない事に気づいているのだった…。